「青エク」のおもしろさを一段階引き上げたヒロインの話『青の祓魔師』
はじめまして。2020年7月より東京マンガレビュアーズの末席に加えていただきました、沢と申します。ナンバーナインという会社で経理などの事務業務と、漫画家さん・イラストレーターさん限定の確定申告代行サービス「ナンバーナインタックス」で実務を担当しています。
人生のエネルギーとなっている大切な作品を、自分にしか書けない視点でレビューしていきますので、よろしくお願いします。
今回お薦めするのは、加藤和恵先生の『青の祓魔師』、通称「青エク」です。
少年漫画の王道中の王道
<あらすじ>
最強の悪魔・サタンと人間の間に生まれた少年・奥村燐(おくむら・りん)が、サタンの力の象徴である「青い炎」の強大さと恐ろしさに翻弄されながらも、悪魔を倒す祓魔師(エクソシスト)の高みを目指し、双子の弟・雪男(ゆきお)や仲間達と共闘や衝突を繰り返しながら強くなっていくーー。
学園要素・退魔モノ・主人公が敵の力を持つ・双子の兄弟(しかも弟の雪男が闇堕ち!)・メインキャラの裏切り……etc. 「これぞ王道!」という要素をいくつも持つ、まさに少年漫画の王道をゆく熱い作品です。掲載誌のジャンプSQ作品としては初の単巻100万部発行を突破し、TVアニメ化もされました(1期が2011年、2期が2017年に放送)。
漫画好きなら一度は耳にしたことがあるくらいの知名度がある『青の祓魔師』ですが、僕にとってはジャンプSQで1話が掲載されてからずっと応援し続けている作品で、ここまでの超人気作品になったことも含めて、特別な思い入れがあります。1巻の発売日には書店員さんにタイトルを伝えて、陳列前のコミックスを出してもらったのもいい思い出です。
『青の祓魔師』は、主人公の燐と色濃く関わるメインキャラ一人ひとりのエピソードが巻数をかけて丁寧に描かれているので、どのキャラを切り取っても語れるくらいです。いっそ全員分語り尽くしたいのですが、今回はヒロインの杜山しえみ(もりやま・しえみ)にフォーカスして語らせてください。
ヒロインの感情が物語にもたらす爆発力
偉そうな言い方になりますが、漫画好きならば「この作品はもう絶対間違いない」と確信して、その作品がより好きになる瞬間ってありませんか?
僕はあります。
『青の祓魔師』は、燐が全く制御できないサタンの力を「大したことない」と笑い飛ばしたのを見た杜山しえみが、彼に向かって泣きながら言葉を発した直後のシーンでした。
『青の祓魔師』(加藤和恵/集英社)4巻より引用
僕はこの時に「この作品は、燐がぶち当たる精神面の壁を、絶対に逃げないで描いてくれるんだ!」と確信しました。
『青の祓魔師』は、「サタンの"力"だけでなく、燐自身の"心"とも向き合う物語である」と示してくれた、そんな瞬間だったように思います。
いつの間にか燐が精神的に大きくなって、周りの仲間が「成長したな」と言ってくれるのではなく、仲間が「ちゃんと向き合え!」と叱ってくれるような、そんなシーンが絶対に描かれるんだな、と。
そのシーンは、5〜9巻の中編エピソード「京都不浄王篇」で描かれました。
『青の祓魔師』(加藤和恵/集英社)7巻より引用
「京都不浄王篇」は、しえみだけでなく、燐のライバル的存在の学友・勝呂竜士(すぐろ・りゅうじ)たちも含めて、共に祓魔師を目指す仲間たちが熱い言葉を投げかけてくれます。エピソード終盤の燐が覚醒するまでの流れは最高です。
また、燐たちの同級生・神木出雲(かみきいずも)がメインの中編エピソード「島根 イルミナティ篇」(コミックス11〜15巻。エピソードタイトルは舞台版から引用)のラストも、杜山しえみが泣かせてくれました。
『青の祓魔師』(加藤和恵/集英社)15巻より引用
なぜ2人がこんなに号泣しているのかは「島根 イルミナティ篇」を読破して確かめてほしいのですが、しえみがここで発している言葉は燐にぶつけた「つき放さないで」と同じで、出雲がぶつかって来て嬉しい涙なんですよね。
しえみが初めて登場した3話で「この見た目は推せる!」と思ったんですが、いつの間にか「感情を爆発させてくれ!」と思うようになりました。いつか雪男にも感情剥き出してぶつかってほしいです。
そして、20巻を超えた辺りからは、しえみ自身も知らない出自にまつわる秘密も明かされ始めます。今後も爆発力を持って物語を牽引してくれる存在になってくれるでしょう!
過去編が終わり、燐の心が未来に向く25巻
2020年6月に発売された最新25巻では、22巻から4冊にわたって描かれた「過去編」が終了しました。燐は過去の追体験を終えることで、自身を最も苦しめていた「サタンの力を持った自分は、生まれてもよかったのか?」という苦しみに対する答えを得ました。
『青の祓魔師』(加藤和恵/集英社)25巻より引用
この後のシーンが最高でして、『青の祓魔師』史上どころか、「ジャンプSQ」史上で一番泣きました。
ジャンプSQを読んでいて思わず泣いてしまう作品といえば、創刊時の連載だと浅田弘幸先生の『テガミバチ』、最近だとアミュー先生の『この音とまれ!』などがありますが、この回は誇張なしにボロボロ泣いてしまいました。
先に書かせてもらった、杜山しえみが感情を爆発させるシーンにはだいたい泣かされてきたのですが、それらを一発で超えてきた燐……さすが主人公です。
過去と向き合った燐は決意を新たにし、25巻の続きからは、燐と雪男の兄弟対決がついに始まりました。しかし、雪男が味方に戻るのは最終盤かな?と思っており、ここで決着はつかないという予想です。
また、過去編を通して新たに生まれた謎もありますし、「サタンがラスボスではないのでは…?」という疑惑が僕の中で生まれています(引用した画像でも、サタンが犠牲者であるかのように語られています。実際、サタンを暴走させる最後のトリガーを引いたのはルシフェル)。
「25巻は巻数が多すぎて今から追うのはちょっと重い……」という方には、10周年を記念して刊行された『青の祓魔師10周年記念本 AOEX10(以下、AOEX10)』がオススメです。25巻までの『青の祓魔師』の歴史が綺麗にまとまっています。
『AOEX10』の加藤和恵先生のコメントを見ると、メインキャラ達にもそれぞれ魅せ場がまだ用意されていそうです。開眼した宝ねむ、何なんだよ!とか。"ねむ"って"ネフィリム"の略語じゃないの!?とか。
……など、このように語りたいポイントが多すぎます。誰かと夜通し『青の祓魔師』の話をしても、きっと話題は尽きないでしょう。
『AOEX10』の発売、25巻での過去編完結が重なった今は、『青の祓魔師』を改めて読む本当にいいタイミングです。コミックスやジャンプSQを手にとって、リアルタイムで『青の祓魔師』を追いかける人がもっと増えてほしいと、心から思います。