必ず最初から読んでください。そうすれば、衝撃のラストと共に本作最大の裏切りがあなたを襲うでしょう『殺さない彼と死なない彼女』
【レビュアー/本村もも】
こんにちは。今日ご紹介するのはtwitterで泣ける4コマとしても話題になった世紀末先生の『殺さない彼と死なない彼女』です。
この漫画は一度と言わず二度三度四度・・と何度も裏切られる漫画です。不用意に手にするとちょっと怪我するかもしれませんので、覚悟して読んでいただきたい一作です。
タイトルにも、4コマ全てのオチにも裏切られる
第一の裏切りポイントは、文字だけで見ると少し刺激的なハードボイルドな雰囲気さえする『殺さない彼と死なない彼女』というタイトルとは裏腹に、ふわふわと丸いポップなタッチのかわいいキャラクター感満載の絵と可愛らしい色合いの表紙。読み始めてみると登場人物はだいたい3~6頭身で描かれていて、全編通して先生のかわいらしい力の抜けた手書きで綴られていく文字。かなりタイトルから想像するものとギャップがあります。
地味子ときゃぴ子。『殺さない彼と死なない彼女』(世紀末/KADOKAWA) 1巻より引用
”4コマ漫画”なので、当たり前ですが基本的に4コマでオチがつきます。読み始めて最初のうちはしばらく、4コマ目のオチに裏切られます。クスリと笑えるオチが続いて気軽に読んでいると、突然人間のどうしようもない弱さをきつく皮肉ったオチがついたり、ときにはつい誰かに言ってみたくなる普遍的な愛について語っていたり、涙で次の漫画が見えなくなったり、でもやっぱりちゃんと笑えるオチだったり・・感情のジェットコースターに乗せられて、一気に読み進めてしまいます。
ちなみにこのレビューのために久しぶりに本作を読み返した私は、目を腫らしながら書いています。(何度乗ってもジェットコースターなのです)
”心の救い”のヒントが隠されている
本作は3つの世界の日常が描かれています。ナルシシズム全開で全人類に愛されたい『きゃぴ子』とその友人の地味子ちゃんのお話、フラれてもフラれても八千代くんに告白することが日課の『君が代ちゃん』のお話、そしてタイトルにもなっている死にたがりの女の子と「殺すぞ」が口癖の男の子が描かれた『殺さない彼と死なない彼女』。
共通点は高校生であること、4コマ漫画であること、愛だとか恋だとかに悩んでいること、そしてメインキャラクターたちがいわゆる”メンヘラ”と呼ばれる部類であること。
最初は突拍子のないことばかりを言う”メンヘラ”なキャラクターたちに、あまり共感できずに、他人事のように面白おかしく眺めていたはずが、徐々に「そうか・・そういう心理だったのか」と納得してしまう。
キャラクターたちの行動に奥深さを感じるようになっていく。とても秀逸でわかりやすいメンヘラ解析がなされていて、自分の身近で苦しんでいる人のこと、あるいは自分自身の苦しみに少しだけ救いのヒントさえ与えてくれます。
読み終わって意味がわかる、冒頭見開きの作者からのメッセージ。『殺さない彼と死なない彼女』(世紀末/KADOKAWA) 1巻より引用
最後にもう一つだけ本作を読むときの注意があります。短編集のような作品ではありますが、必ず最初のページから順番に読み進めてください。もちろんどんな漫画にも、制作側のさまざまな想いや意図があって作品の並び順は決まっていると思いますが、本作はとくにその点は注意して読んでいただきたいです。
これは本作最大の裏切りを、一番の衝撃と共に味わうための約束です・・。