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ロケット開発中のホリエモンに刺さりまくった『US-2救難飛行艇開発物語』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/堀江貴文

面白いものでロケット開発に関わっていると新しい機体の開発に必要なものは技術の継承であることを痛感する。

三菱重工グループが開発に四苦八苦しているMRJ(スペースジェット)の問題はまさに“技術継承の問題”なのである。

航空機と戦闘機の一番の違いは?

敗戦後、日本は長い間に渡り、航空機の新規製造を禁止されてきた。

それでも戦闘機など国家機密に属する技術は、最初こそアメリカ企業のライセンス生産だったものの、やがては国産の機体を作ることができるようになった。

それは一般の航空機と違い、FAA(アメリカ連邦航空局)等の航空当局の認可が必要ないからだ。

しかし、この認可にまつわる作業は困難を極める。

戦闘機はあくまでも発注元は防衛省であり、機体の領収手続きも防衛省が進める。

お互い握り合ってるわけなので、どこを直せば良いのか教えてくれるが、航空当局ではそうはいかない。

あくまでもブラインドで基準をクリアしなければならない。MRJはそこに苦労しているのだ。

国産中型旅客機はYS-11以降作られてなかったし、ジェット機ははじめてのチャレンジだった。しかしながら、そこでも認可にまつわるノウハウの継承がなされてなかったということだ。

その点、技術の蓄積があるアメリカで新規開発を行ったホンダジェットは合理的だったと言えるだろう。小型機とはいえエンジンまで新規開発してFAAや国土交通省の認可を取り付けたのだ。

技術の継承がいかに大事であるかを痛感する作品

前置きが長くなったが、この物語はUS-2という世界に類を見ない救難飛行艇の開発物語である。日本は周りを海に囲まれているという地理上の理由もあり、飛行艇の技術が発達していた。

例えば、福岡地区で初の空港は陸ではなく海に作られたという具合にだ。

その技を繋げてきた新明和工業は「二式大艇」という旧海軍の飛行艇から続く技術継承をなんとかやってのけている。

US-2の開発は「世界に冠たる競争力がある飛行艇の技術継承」と、「事故率が高く、かつ扱いの難しいUS-1という現行機の改良」という理由で開始された。

何かと話題のオスプレイと比較されて新規開発を選んだという逸話もある。

当時のオスプレイは事故率が今よりも高く、「ウィドウ(未亡人)メーカー」と言われていたからである。

新明和工業は、富士重工や川崎重工という企業規模が大きい会社の上に立つプライム(元請け)として、困難な新規飛行艇開発に打ち込むことになる。

飛行の安全性、特に離着水の操縦安定を求めて従来とは異なる新技術である「フライバイワイヤシステム」を導入するなど、困難な開発に打ち込むのである。

当然のことながら、すんなりとはいかず、アクチュエータージェネレーターなどに原因不明のトラブルが頻発して初飛行が遅れていく。

ロケットの開発に関わっていると他人事とは到底思えない。

それでも技術者たちは粘り強く根本的な原因究明に取り組むのである。

この作品を読んで技術継承の大事さを、特に「マニュアルに書かれていないノウハウ」の継承こそが大事であることを理解してほしい。

そして、飛行艇やロケットだけでなく様々な技術開発においてキーになるのは技術継承であることを理解していただけると幸いである。