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ホリエモンが面白いと語るゴルフ漫画『大地の子みやり』。奇跡が起こる瞬間を目撃してほしい。

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/堀江貴文

ゴルフ漫画の金字塔の1つといえば坂田信弘氏原作、かざま鋭二氏作画の『風の大地』だろう。

プロゴルファーとしては大成はしなかったものの、その詩的とも言える文章力と、日本の女子プロゴルファーの才能供給源としての坂田塾を主宰し、日本のゴルフ業界に未だに大きな影響を与え続ける存在だ。そんな『風の大地』コンビが送り出したノンフィクションともいえる作品がこの『大地の子みやり』である。

ゴルフ漫画にハズレなし。は、言い過ぎだろうか。

ゴルフ専門誌に連載されていることもあるのか、『風の大地』にしろ連載期間が10年を超える作品が珍しくない。そして実際ハマって読んでしまいがちである。その中でもこの『大地の子みやり』は異色作である。

熊本にできた坂田塾に刺激を受け、地元財界人が札幌に坂田塾を作ってくれと熱望する。冬の間は雪に閉ざされた世界である。プロゴルファーの育成は難しい。そこを指導力で評価されつつあった坂田塾を誘致することで、一気に解決を図ろうとしたのだろう。

その3期生として「鈴木みやり」は入塾テストを受けに来る。ゴルフ経験なし、テストも思うようにボールを打てない。母親が喘息持ちの娘に体力をつけようとテストを受けさせたらしい。

坂田信弘は気まぐれなのか、本来なら入塾させないレベルの彼女を入塾させてしまう。そこからが試練の始まりである。子供の覚えは早い。中学生でプロのトーナメントで活躍する事だって珍しくない。しかし鈴木みやりは中学生になってもスコア100を切ることすらままならない。なんども退塾すべきでないかと母親が申し出た。

しかしみやりは持ち前の明るさと努力、そしてゴルフ愛によって周りを巻き込み、成長がままならないのにゴルフを続けるのである。そしてなんとかゴルフ部のある高校に入学し、坂田塾の伝統、キャプテンは一番下手な者がやるというルールに則ってキャプテンとなる。一度も団体戦の全国代表になったことのない彼女を慮って、坂田信弘は全国選手権代表の4人の内の1人として、みやりをねじ込むのである。

そして奇跡は起こる。最終日みやりは公式戦においてベストスコア75を叩き出す。

冬は練習もままならない北海道の高校生が、団体全国3位という快挙である(この試合には宮里藍も出場していた)。

この話が示唆する事とはなにか。みやりより下手な坂田塾生は1人もいなかった。しかしみやりは黙々と練習した。人の何十倍も練習し、ゴルフにハマっていた。運動神経のいい者、センスのある者はすぐに上手くなる半面、努力の量が少なくてもある程度のレベルに達してしまうがために、プロゴルファーになるための努力としては足りなくなるのである。

しかし下手な者は違う。努力する事が当たり前だから、平気な顔で人の何十倍も努力ができてしまうのである。ウサギとカメの寓話ではないが、みやりより上手かった者の多くはプロを諦めていった。

坂田信弘の塾生への訓示を引用する。

お前たちの花は咲く、咲かない花はない。
人それぞれの咲き時、咲く処はある。山のテッペンに咲く花は淡くて小さい花だ。山のテッペン、絶壁、川沿い、海辺と、花の咲き処は幾つもあるが、山のテッペンに咲く花は急ぐな、焦るな。ゆっくりと咲いていけ。
最後に咲く花になれ。
野の花だ。咲き急がぬ花だ。大輪の花だ。
一日一日の練習を大切にして生きていけ。
そして、野の花を咲かせるのだ

そして鈴木みやりこと、本多弥麗は日本女子プロゴルフ協会のプロテストに通りQT(クオリファイングトーナメント)を通過してトーナメントプロになった。

大輪の、野の花を咲かせたのだ。