Blue Ridge Rock Festival 2023 DAY1
9月7日よりアメリカのヴァージニア州のレースウェイで開催されたBlue Ridge Rock Festivalに参加してきました。
今回はその初日公演について、実際に撮影した写真と共にどんな感じだったかをお届けしようかと。
まず場所はノースカロライナとヴァージニア州のちょうどど真ん中というか、ノースカロライナ寄りのヴァージニア州。結構な田舎。
フェスティバルマップはこんな感じ。
メイン2ステージと他に2つステージがあり、それぞれ全力疾走すれば5-8分以内で行き来できそうな距離感。そして気温は33−38度。見晴らしも良い場所なので、かなり灼熱で焦げそうな中、いよいよフェスティバルスタートです!
OUTLINE IN COLOR
Blue Ridge最初のプログラムスタートは彼らから! SMASHPUNK RECORDS STAGEに登場したのはOUTLINE IN COLOR。
初来日時とはラインナップがだいぶ変化していたが、お馴染みの顔ぶれも。
シアトリカル要素のある楽曲というよりは、アップテンポで初動から飛ばしていくメタルコア/ポストハードコア要素強め。
そしてベース&クリーンを担当するジョナサンの声が冴え渡っていた。
この美しさと荒々しさのコラボレーションが彼らの魅力の一つ。メインステージの開放時間とタイムテーブルが被っていた影響か、カメラマンの集まりもそんなになかったステージ前だったが、間違いなくBlue Ridge開幕の狼煙をポジティヴな声と音で勢いよく上げていた。
HEARTSICK
ミシガン州出身の4人組HEARTSICK。
Blue Ridgeのファン投票でメインステージの一発目を勝ち取ったバンドとして、一体どんなショーをプレイするのかが開催前から気になっていたバンドだ。
まずBlue Ridge本戦開幕前のPre-Partyの日。
多くのファンが会場に訪れキャンプを張っている中で、炎天下の中ずっとこのVo.のアダムがフライヤーを配り続けていたのだ。
こちらがそのフライヤー、ポストカードより少し大きいサイズなのだが、なんとも構成が巧い。
すぐにバンドのSNSにアクセスできるようなQRコード、簡潔な日程、そしてSNSにアップする際につけてほしいタグまで。
このフライヤーを見て貰えばわかると思うのだが、メインステージの出演日だけでなく、彼らは主催に許可を取り、自身のキャンプエリアで音出しOKの時間帯に簡易ステージ(全て機材持ち込み)を作ってショーを行っていたのだ。
サウンドはハードコアとオールドなメタルコアを織り交ぜたサウンド。
聞けば歴自体は20年ほどもあるベテランだという。
メインステージ一発目。オーディエンスもまだ温まっておらず、Do it!! Mosh!!等と煽ってもまだオーディエンスは動くか迷っている最中。
なんとアダムは何度もステージから降りてファンと握手を交わし、自らオーディエンスの中でサークルピットを創り出す。ダイブもまず先行して自分が行い、ファンが楽しめる空間を瞬時に作り出していた。
メインステージ出演だけでは決して終わらない、次のバンドを待っている自分たちを知らないオーディエンスの心も掴んで帰るぞ——そんな気概を感じた。
音楽性云々以前に、こういうバンドは心の底から応援したいと思った。
KINGDOM OF GIANTS
カリフォルニア州サクラメント出身のKingdom Of GiantsがSMASHPUNK STAGEに登場。
スタイリッシュでヘヴィなサウンドのメタルコア、その人気ぶりをここで遺憾なく発揮していた。一曲目は最新作よりBurnerをプレイ。
エレクトロ要素のある楽曲で非常に多岐にわたる変化が楽しいバンドでもあるが、そのヴォーカルのパワフルさに驚いた。
二曲目も同じく最新作PassengerよりNight Shiftをプレイ、一曲目の激情迸るかのようなヴォーカルから一転、囁くような出だしから伸びのあるクリーンへ。
オーディエンスにもジャンプを煽り、一気にフェスティバルらしい様相へと持っていった。
STITCHED UP HEART
メインステージZYNに登場したのは、女性Vo.Mixiを擁したStitched Up Heart。
The Ghost Insideでカメラマンも経験した事があるカリフォルニアのカメラマンMikeに「このバンド知ってる? 僕の名刺の写真も彼らなんだけど、めちゃくちゃ良いから是非観てよ。Vo.が女性なんだけど、凄くイカしてるんだ」と。
前日に彼に勧めてもらったバンドが当たりだったこともあり、急遽スケジュールの合間を縫ってメインステージへ全力疾走。撮影をすることになった。
バンド全体の雰囲気にゴシックな要素を取り入れつつも、決して見た目が先行するバンドではない。
MixiのシャウトはButcher BabiesのヘイディやInfected RainのLenaを彷彿とさせるような甲高いハスキーボイスで、そこからクリーンに繋げても一切声量が落ちずに美しさを保っている。
近年シャウトも兼任する女性Vo.のバンドが着実にその地位を確立しつつあるが、彼らもまたその実力も申し分ない素晴らしいバンド。
Blue Ridgeの後にはEscape The Fateとのツアーも控えており、このメインステージ出演でさらに多くのファンの心を掴んだことだろう。
CASKETS
今回のBlue Ridgeで大きな収穫のひとつだと筆者が実感したのが、UKのCaskets。Blessthefallとのツアーで渡米していた彼らは、そのツアーファイナル後にアメリカ締めくくりの公演としてこの場に立っていた。
まず驚いたのはその音のクリーンさ。一つひとつが粒だっていながらも、決して他を邪魔しない——完璧なバランスとも言うべき音の出方だった。
そしてVo.のクリーン! 声量とその歌声共になんだこれはと思うほど巧い。これが先に述べた楽曲の素晴らしい纏まり具合に絡んでくるのだから、ステージ前はシアターでも見せられているかのような錯覚に陥りそうなほど。
クールなシャウトも担当するギタリストCraig、愛嬌のあるプレイのベーシストChris、そして恐らくこの美しさの要をになっているのは目立たないながらも着実なプレイを披露するもう一人のギタリストBenji。
全てのバランスが完璧、そして先に述べたBenjiがフォトグラファーやデザイナーも務めている影響だろうか、ものすごく全体的にフォトジェニックなのである。
アメリカに呼んでくれ、Blue Ridgeに出演するチャンスをくれたBlessthefallに感謝の言葉を述べ、この場で初めて観てくれたであろう多くのファンにも心からの感謝を伝えた彼らの笑顔はものすごく印象に残った。
BODYSNATCHER
続いてSMASHPUNK RECORDS STAGEにはフロリダ出身の四人組Bodysnatcherが登場。
冒頭からゴリゴリのブレイクダウンで攻めるBlack of My Eyesからスタート。初っ端からオーディエンスのモッシュであたりは軽い砂嵐状態に。
ここで爪痕を残そうと思ったのか、ファンサービスなのか。
Vo.Kyleがめちゃくちゃ自分たちのマーチ(Tシャツ)をオーディエンスに投げ込んでいた。ちょっと待ってくれマーチブースにはマーチなかったのに
楽器隊が3ピースとは思えない程の極太のサウンド、ドシンと落とすブレイクダウンは外さない巧みなプレイがまたニクい。
しかしその印象を覆しかねないほどにパワープレイなのが印象的だった。
新譜の制作にも入ったとのことで、彼らの今後の活動が非常に楽しみなところだ。
VENDED
あのコリィ・テイラーの息子とショーン・クラハンの息子がバンドを始めた!
それだけで音楽シーンには十分すぎるほどのインパクトを与えたバンドVENDED。
しかし彼らの演奏が始まると、そこにいたのはただただ実力のしっかりとした基盤のあるメタルバンド。唯のVENDEDがそこにいてプレイしていた。
もちろん声や容姿に父親の影を感じないわけではない、幼い頃からあの父を見て育ってきたのだろう、Vo.グリフィンはMCの喋り方までコリィに似ている(筆者はSlipKnoTの大ファン)。
しかしそれは悪い意味ではなく、多くの二世タレントの半数が著名な親との確執等で見ているファンからすればハラハラすることもある中、彼はそうやって多忙であっただろう父親の背中を見て、尚且つ音楽に触れて育つ事ができたのだということを改めて知れたような気がして嬉しく思った。
そして注目度の高いメンバーに目が行きがちだが、間違いなくこのバンドは実力者揃い。
ベーシストのJeremiah Pughが生み出す骨太な音と、どっしりとしたプレイ。リズムギタリストの Connor Grodzickiの繊細なピッキング。
何より注目すべきはVo.Griffinと共にこのバンドを結成したというリードギターのCole Espeland、彼が間違いなくこのバンドの要だ。
とんでもない才能を彼の一挙一動から感じ取る事ができた。
THE GHOST INSIDE
今回のBlue Ridgeの個人的な大目玉、カリフォルニア出身のメタルコア/メロディックハードコアバンドTHE GHOST INSIDE。
前のバンドのセットが20分近く押してしまったのだが、バックのスクリーンにバンドのロゴが浮かび上がる前から「TGI!!!」の大合唱が巻き起こり、彼らの本国での人気をショーの前から体感する事に。
そしてまずはDr.のAndrew Tkaczykがステージへ登場。ドラムテックの肩を借りながらセットの上に乗り、義足を外す姿には一瞬オーディエンスの言葉が全て止まったかのように釘付けになった。
2015年に起きてしまった痛ましい事故、あれは現実だったのだとひしひしと痛感する。
そこからステージへと登場したメンバー、駆け込んできたVo.Jonathan Vigilが叫んだ「Blue Ridge準備はできてるか!? 一曲目はEngine 45だ!!!」
カメラを構える前に拳を振り上げてしまった……いけない、周りのカメラマン誰もそんなことしてなかった(汗)
待ち構えたオーディエンスは、一気に着火したかのようにサビでは大合唱。そして拳をこれでもかというほど振り上げている。
夢のような光景がそこには広がっていた——生きてThe Ghost Insideを目の前で見られる日が来たのだ。彼らの力強い楽曲に、ファンの熱気が止まる事はない。
二曲目のThe Great Unknownでは巨大なwall of deathが出現。
サークルピットやクラウドサーフも乱立、文字通りのお祭り騒ぎになっていた。
何よりも目に焼き付いたのは、メンバーの笑顔だ。こんなに嬉しそうに、楽しそうに、生きる希望を与えるかのようなエネルギッシュさで、メインステージを駆け回ってオーディエンスに語りかけ煽るバンドがいただろうか。
彼らが愛される理由の一つを、ここでまた感じたような気がした。
Pressure Pointから四曲目のDark Horseが始まり、カメラマンはPhoto pitから撤収しなければならない中、筆者はダッシュでオーディエンスの中へ。
I'm not scared!! 大合唱だった。
絶対にこの曲を聴いたら泣くと思っていた、だけどあまりにも素晴らしくて周りが笑顔に溢れていて——涙は途端に引っ込んでしまった。
公開された時にはネット上で賛否両論の嵐だった新曲"Earn It"。
誰も何も気にしていなかった、実際にライブで聴くとただただThe Ghost Insideの素晴らしさと力強さが溢れた仕上がりになっていて。
それ以上にオーディエンスでここに集まって叫んでいる全員が、新曲の評価なんて誰も気にせず一心に彼らを愛していることが伝わってくるようだった。
そして全員で拳を振り上げ叫ぶAvalancheをプレイし、さらにオーディエンスのテンションは上がり続けていく。
Vo.のJonathanはMCでこう語る。
「知っていると思うけど、俺たちは大事故にあってバンドを止めなきゃいけなかった。ドライバーは亡くなってしまい、俺たちもクルーも、全員が当たり前の日常を過ごす事すら困難な状況になってしまったんだ。その中で待ち続けてくれた仲間たちや皆の温かいサポートに心から感謝しているよ。そして——何より俺たちのドラマーは、もうこの先ドラムをプレイする事なんてできないじゃないかと思うくらいシリアスな局面に陥ってしまった……。けれど、彼はその努力と精神力で再び俺たちとこのステージへ帰ってきたんだ!!」
もう拍手と大歓声の嵐である。彼らのファンはあの痛ましい事故は決して忘れないだろうし、多くのバンドやファンが彼らに寄付をした事も記憶に新しいかも知れない。
その声援と、パワーを受けて。何よりもとてつもない努力をしてどん底から這い上がって、彼らはこのステージに戻ってきたのだ。
そしてラストは彼らの復活ソングでもあるAftermath。
歌詞もメロディーも突き刺さる、まさに珠玉の一曲である。美しいメロディと、激情のこもったようなヴォーカルワーク。
Foundations that could never break
Was moving forward a mistake?
Or is that me pretending?
What happened to my happy ending?
この語りかけるような歌詞に、思わず涙したファンも少なくはないだろう。
本当だったら予想もしていなかった未来、先が見えなくなった中で彼らは何を選ぶのが正解か——本当にわからなかったのかもしれない。
そして活動を続けるという決断に際して、大きな理解とサポートが彼らの家族からあった事も私たちは決して忘れてはいけない。
ドラムのAndrewの父親は、彼が義足なしでもバスドラのペダルを踏めるようにと、特殊な専用の機材を彼のために一から創り上げたという。
もう彼らの家族からチーム一丸となって動いて生まれたのが、今のTHE GHOST INSIDEのステージなのだ。
もちろんアメリカをはじめ、海外での彼らの人気は日本とは比べ物にならないほどである。
しかしこのチャンスを逃すまいと担当者に問い合わせをしたところ、決してTGIサイドはアジアの事も日本の事も忘れていない。是非、いろんな事が落ち着いたらアジアツアーを本当に実行したいと思っているとの答えをいただいた。(海外から見て、コロナがまだ拡がっている問題や日本の経済状況等はまだ少し懸念材料なのだ)
彼らの音楽が鳴り止むことはないのだろう、Aftermathの歌詞のようにきっと。
だからこそ、彼らを応援するファンの我々のその熱意も鼓動も、決して止めるべきではないと思う。
THE GHOST INSIDE Setlists (Blue Ridge Rock Festival)
Engine 45
The Great Unknown
Pressure Point
Dark Horse
Dear Youth (Day 52)
Earn It
Mercy
Move Me
Avalanche
Aftermath
この後、予報にすらなかった突然の悪天候(雷雨、巨大な雹、竜巻)等により夕方18:30以降のプログラムは全てキャンセル、テントエリアへの退避指示の中、吹き飛ばされそうになりながら機材だけは意地でも守ろうと抱え、びしょ濡れになり巨大な雹でアザを作りながらテントへ戻った。
嵐が去るまでの数時間、生きた心地がしなかったのはここだけの話。
滅多に撮影許可の出ないというFIVE FINGER DEATH PUNCHをはじめ、学生時代に聴きながら過ごしたESCAPE THE FATEやBLESSTHEFALLを撮影できなかったという事が非常に心残りな初日となってしまった。
ただ、これも含めてとんでもない経験ができた。
何よりTHE GHOST INSIDEの姿と音を、間近で体感したのだ。
すごい経験をしているという事を身に沁みて感じながら、Blue Ridge Rock Fest初日は幕を閉じたのである。