[REVIEW:再録] Chelsea Grin "Self Inflicted" US TOUR
2016年夏に4枚目となるフルアルバム"Self Inflicted"をRise Recordsよりリリース。年始には約1ヶ月に渡るEUツアーや同作品のDX Editionの発売を行うなど、精力的に活動を続けるアメリカ/ユタ州出身のデスコアバンドChelsea Grin。
今回、彼ら曰く今年唯一となる全米ツアーの3日目、アメリカ西部のオレゴン州ポートランド公演へと縁あって足を運ぶことに。直前にはツアーバンのトラブルもあり1公演をキャンセルしなければならない等波乱のスタートだったが(前日にAfter The Burial/Fit For An Autopsy等のツアーでアメリカ東部のアトランタにいたが、彼らもとてもChelsea Grinのツアートラブルを心配していた)、当日会場に着くとVo.のAlexが笑顔で迎えてくれた。
GIDEON、Enterprise Earth、ICE NINE KILLSと帯同するバンドも申し分ない、実力派揃いのツアー。ポートランドの会場はキャパ150人ほどの一階がカフェスペースになっている木造の建物。全年齢対象公演という事もあり、この日の全てのショーではハードコアモッシュが禁止され、モッシュピットを拡げ手や足を振り回す人物がいると即座にセキュリティが静止に入っていた。
O.Aの地元バンドの後に登場したのはGIDEON。今夏に来日公演も発表された。流石なライブ達者振りを見せてグイグイとオーディエンスを惹き込んでいく。煽り方も実に巧くラウドな展開の曲や、公開されたばかりの新曲等がプレイされ、どちらかというと若い女の子の観客の比率が多い今回の公演の中でもその存在感はバッチリだった。
お次はEnterprise Earth。この公演前に公開された新曲が話題を呼んでいたStaySick Recordings所属でありワシントン州出身のデスコアバンド。メンバーは比較的物静かで、若い印象を受けた。演奏はさすが音源にも劣らぬテクニカルかつスピーディなもので、素晴らしいと拍手を送りたくなるほど。一つ残念だったのがこの日のステージが狭いせいか、機材トラブルだったのか、Vo.のDanが耳を押さえながらほとんどモニターの前から動かなかった事。もしくは観客に背を向けたまま歌っていた事である。演奏はとても巧いのに、なんだか全体にバラつきともたつきを感じ、とても勿体なく感じてしまった。その実力は未知数ながら、楽曲センスはこれまでの作品を聞けば明白なもので、是非とも次回見る機会があることを期待したい。
そしてこの日Chelsea Grinと同様に、ファン向けのミート&グリートをバンドのオフィシャルで開催していたFearless Records所属のICE NINE KILLSが登場。ヘタすると、この日はトリのChelsea Grinよりもファンの数は勝っていたかもしれない。ポートランドやシアトル等のアメリカ西部の地域のファン層は全米中でも大人しい部類に入り、女の子が多いのもその特徴だと思っている。
ショーが始まると思わずため息が漏れた。ライブの巧さ、魅せ方がこれまでのバンドの比ではない。もはや別格という言葉がふさわしいほど。イントロから曲のフェードアウトまで、ステージの広さは同じであり中央に佇むVo.のスペンサーは小柄なのに、どうしてこうもそこから放たれる空気が違うのか。決して他のバンドが劣っているのではなく、単にICE NINE KILLSのステージング、演奏、その世界観の表現力がケタ違いに巧いのだ。まるでミュージカルを演じているかのような、美しく目が離せない展開の数々。曲はThe Nature Of The Beast、Communion Of The Cursed、Me, Myself & Hyde等2015年にリリースされた"Every Trick In the Book"収録の物を中心にプレイ。Vo.のスペンサーの指先ひとつの動きすら目が離せない…そんな素晴らしいショーだった。
余談だが、この日とても緊張して開場までの間(Chelsea Grinのミート&グリートも行われていたため)完全に身を持て余した私に、何度も微笑みかけ話しかまってくれた人物が居たのだが、それがICE NINE KILLSのGt.JDだった。海外公演に参加すると日本から来たことを関係者が奇異な目で見ていたり、うっかりその話を聞いてしまったせいで輪に入れず帰りたい気持ちになってしまう事が稀にある。実を言うと、この日の私は撮影/取材スタッフとして許可を受けていたにも関わらず、運営側の中心人物や関係者にアジア人差別のような扱いを受けていた。彼とChelsea GrinのテックスタッフやAlexの優しさにこの時どれほど救われたことか。ICE NINE KILLSの楽曲は勿論大好きだが、このショーの前のほんのちょっとしたJDの気遣いで益々好きなバンドになったのは確かだ。
ツアー前にちょっとしたニュースにもなったのだが、本来トリプルギター構成となっているChelsea Grinはこのアメリカツアーをメンバー5人で行っていた。ギタリストのDanが医大へ合格し勉学に今は比重を置いているためだ。
トリプルギターのバンドを生で観たのは、この時ALESANA以外に経験したことが無かったので少し残念な気もしたが、彼のパートとなる部分の同期のチェックをStephenが転換中入念に行っていた。
そして始まったChelsea Grinのショー。こちらも度肝を抜かれるほど完成度が高い。待ちに待った一曲目は、Self Inflictedより"Skin Deep"、中盤の展開が耳に残る一曲。そこから"Clickbait"、"StrungOut"と同アルバムからプレイ。フロントマンのAlexはとても長身だが、今回の狭いステージの中でも一切の窮屈さやストレスをこちらに一切感じさせない。これもキャリアの差が成せるものだろう。話していた時は穏やかで、声色も低かった彼のステージでの変貌ぶりもまた凄まじく、喉が引き裂かれるような声を出しどっしりと中央に構える姿は圧巻。彼の高音スクリームに合わせ、ドスの効いた低い声を掛け合わせてくるのはDr.のPablo。
安定感のあるプレイをしつつ、ここまで主張のあるヴォーカルをこのジャンルのドラマーがやるのも珍しい。壮大なシンセとギターの音色からテンポの良いドラミングと、怒涛の展開が訪れる近年の彼らの代表曲の一つ"Playing With Fire"が開始されるとフロアは一層盛り上がりを見せる。
そこから"Angels Shall Sin, Demons Shall Pray"、"Four Horsemen"、"The Foolish One"、"My Damnation"と、新旧の作品からプレイ。ショーを実際に見る前までは、他のデスコアバンドと比較すると弦楽器隊の細さが少し気になっていたChelsea Grinだが、煌びやかで目を惹くその楽器と繊細なプレイはまさに彼らならでは。バンド名や曲調のえげつなさとは別に、そのプレイはとても細やか。
どちらかといえば気が強めに煽ってくるJakeと、にこやかにフロアを見渡すStephen、後ろで静かに正確なベースでそれを支えるDavidのバランスがまたとても対照的で面白い。
MCはほぼAlexとPabloが分担して話す形式をとっており、どちらかといえばPabloがムードメーカー的な存在のようだ。バンド自体もMCでそれほどべらべら喋るタイプでもなく、タイトにまとめられ次の曲へと切り替わる。Chelsea Grinという実在の殺人鬼の愛称からとったというバンド名が表すように、ストリングスやシンセを使用した物々しい雰囲気のある前奏から始まる曲が多いのも魅力。セルフタイトルEPから"Crewcabanger"の後は、アルバムDesolation Of Edenから"Sonnet of the Wretched"、冒頭のグロウルでフロアもヘドバンの嵐に。キャリアの長いバンドほど昔の曲を演奏する機会が減っていく印象があるが、今回のChelsea Grinのショーでは最新作を中心に長年のファンが喜ぶような曲がピンポイントで挟まれていたように感じる。欲を言えば、このツアー前に発売されたDX盤に追加収録された2曲のうち、どちらか1曲でもいいから聴きたかった…というのが本音だが(笑)
"Never, Forever"、"Scratching And Screaming"と最新作からプレイし、ラストも同作品から"Broken Bonds"。昨年のワープドツアーでの映像も公開されている人気曲の一つ。厳かな雰囲気の前奏から一気にAlexの高音のスクリームが降り注ぐ、これもまた破壊力抜群の一曲。『ありがとうポートランド!』短くそう告げ、メンバーは一旦ステージを降りる。
すぐさま起きたアンコールの中、再び楽器隊がステージに現れアンコールが始まった。
アンコールで演奏されたのは"Cheyne Stokes"、そして"Recreant"だ。このチョイスに会場はさらに熱気を帯びた歓声で埋め尽くされる。落としに落とすブレイクダウンとギターのメロディのバランスがなんともニクい。この日の会場がモッシュ禁止じゃなかったら、きっと大変なことが起こっていただろう。前に押し寄せたファンがこれでもかというほど手を挙げ頭を振り、最後の最後まで全力で彼らの音に応えていた。名残惜しく響くギターの音を耳に残しつつ。大きなChelsea Grinコールに包まれながらにこやかな笑顔を見せ、メンバーはステージを後にした。
-Set Lists-
Skin Deep
Clickbait
StrungOut
Playing With Fire
Angels Shall Sin, Demons Shall Pray
Four Horsemen
The Foolish One
My Damnation
Crewcabanger
Sonnet of the Wretched
Never, Forever
Scratching And Screaming
Broken Bonds
[ENCORE]
Cheyne Stokes
Recreant
Chelsea Grinといえば、今のデスコア界でも最重要バンドの1つとも言える存在。
ここ日本ではそれほど名前を聞かないかもしれないが、アメリカ/ヨーロッパでのその地位は確固たるものでありエクストリームミュージック系のフェスの常連バンドでもある。
大きなステージでの演奏のイメージが強い彼らを、まさかキャパ200人以下の箱で観る事になるとは夢にも思わなかった。しかし彼らのパフォーマンスは全て一切手抜きのない純な感情と音の塊。いかにそこにいるファンを大切にしているバンドか…というのが痛いほど伝わってきた。
特にフロントマンのAlexは、開場直後から自らマーチブースでファンと触れ合い自分でマーチを手渡し売っていた。直前に公式のミート&グリートが行なわれていたにも関わらずである。もちろん開場と共に入ってきたファンは大喜び、ブースでAlexと話したりサインをもらい、皆が大満足な表情をしていた。結果、彼は出番直前のICE NINE KILLSの演奏中までバンドのマーチブースにいた。話していても凄く穏やかで思いやりのある人なんだなぁと、あのライブパフォーマンスのイメージがあった私は拍子抜けしたほど。そしてショーの前にキャップをプレゼントしていたのだが、それを被ったまま本番もプレイしてくれ、終演後に『俺被ってたの気づいてくれた??』といたずらっ子のように声をかけてくれた姿が印象的だった。
ショーの後は他のメンバーもすすんでマーチブースに立ち、ファン1人1人との交流をとても大事にしている様子が伝わってきた。日本に行くのが本当に楽しみ、早く行きたいなぁ〜、アレ食べたいんだよねぇと嬉しそうに話してくれたStephenとDavid。ほんの数十分前までステージで狂気に満ちた曲を演奏していたとは思えないほど爽やかな人達だった。
多くのバンドと関わる中でも、彼らクラスのバンドが、いくら規模が小さいショーだからといって全員がブースに出てきてこんなにファンと会話をするなんてほとんどあり得ない。それを平然と、等身大でやってしまうバンドがこのChelsea Grinなんだろう。
そして生で観ないと、彼らの実際の凄さはわからない。映像や画面、マイクを通してしまった録音した音声では、あの空間にあるものが伝わりきらない。Alexのどこから出してるんだと問いたくなるようなあの声と、振動する空気を、是非目の前で体感してほしい。
デスコア、と割り振られているジャンルにも、今様々な流れが訪れようとしている。その中で、彼らは今作について、初期に立ち返りスピーディな展開を盛り込もうと考えた…とドイツでのインタビューで答えている。今後更に世界進出を、と考える彼らの活動をこれからも見続けていたい。
この後、制作上のトラブルや様々な理由でChelsea Grinには大きな変化が訪れることになる。あの日笑って話したAlexがもうこのバンド名を背負ってステージに上がることはなくなった。
ただ彼が最後まで懸命に、このバンドを生み出し背負ったものとして、苦しみながら助けを求めながら、その孤独の中で曲を作っていたあの姿を私は一生忘れないだろう。
このレビューと心からの感謝を、親愛なる友Alexへと捧げます。