「カッコいい」は生きる熱源
1「Rizz」という言葉
世界大学ランキング1位に鎮座し続けるイギリス・オックスフォード大学の出版局が選出する「世界流行語大賞2023」の大賞に「Rizz(リズ)」という言葉が選ばれたそうです。
人を惹きつける力という意味合いを持つ「Rizz」。
身近な会話の中でこのフレーズを聞くことはまだないですが、そのうち一昔前に流行った「カリスマ」という言葉のように日本社会にも浸透してくるのかなと気になったニュースです。
2「カッコいい」は生きる熱源
人を惹きつける対象を表す言葉として、日本では「かっこいい」が広く使われています。外面的なものだけでなく内面的なものに対しても用いられ、「憧れ」や「感動」といった意味合いも包含する表現です。
辞書を引かなくてもそのニュアンスを自然に理解することができます。
タイトルにも記した通り、僕にとって「かっこいい」は生きる熱源です。
人物とかファッションとか、本、日用品、アート作品、映画、セリフ、場所、言葉などなど、「かっこいい」に出会うとエネルギーが発動し始めます。
生きるということは「かっこいい」に動かされてゆくことと言っても過言ではないかもしれません。
恐らく皆さんも今している事の中で、元々「カッコいい!」から入ったものがあるのではないでしょうか。
キングカズ
少年時代を思い返すと僕の場合は何といってもサッカーの"キングカズ"です。
カズのドリブルに憧れ練習しまくってました。
今でいえば三苫とか久保建英とかでしょうか。また外国人選手の名も挙がりそうですが。
池袋ウエストゲートパーク
また僕は今こうして文章を書いてますが、これも入り口は「かっこいい」にめぐりあい自分も書いてみようと思ったからなんだと思ってます。
思い当たるのは石田衣良さんの小説で、後にドラマ化され大ヒットとなった『池袋ウエストゲートパーク』。長瀬智也さん演じる主人公・誠は、原作ではファッション雑誌のライターもする設定です。
地元でギャング集団と関わりながら事件の真相に迫り、雑誌のライターも務めるようになる誠に「かっこいい」が発動されたのを覚えてます。
大学生の頃の思い出です。
惚れ込んだものだけが役に立つ
高校から大学にかけ熱心に読みふけった本多勝一さんの本の中で「ルポルタージュの方法」という作品があります。この作品は、記者である本多さんが当時担当された講座の内容が書籍化されたものですが、その最終章「ルポルタージュ記者の条件」の中で、本多さんがたまたま読んだ『新美術新聞』という旬刊紙の連載コラムで目にした画家の佐々木豊氏の文章を紹介し、この講座を締めくくっています。
以下抜粋です。
「惚れ込んだものだけが役に立つ」
この一文は今もなお僕の心に深く刻まれています。
ちなみに本多勝一さんの作品シリーズの各タイトルがどれもセンセーショナルで、当時の僕にはいちいち刺さってました。
「しゃがむ姿勢はかっこ悪いか」とか「はるかなる東洋医学へ」とか「殺される側の論理」などなど。マンガのように揃えたい衝動にかられ、Amazonやブックオフで次々と揃えていった思い出があります。
3明治~昭和にかけて生きたカッコいい人たち
noteのプロフィールにも書かせていただいてますが、僕は明治~昭和にかけての時代を生きた人によく「かっこいい」を発動してきました。
幕末・明治維新、2度の世界大戦といった国内外ともに激動とされた時代には、従来の固定観念を打破する人物や、深遠な思想を培う人物、鮮烈に生きる人物などが生まれやすいのでしょう。
例えば文化人類学者の梅棹忠夫さん。梅棹忠夫さんの名は、僕も含め文化人類学に馴染みがない人でもご存知の方は多いと思います。パイオニアスピリットと聞くと僕の中ではこの人がまず浮かんできます。
ちなみに先に紹介した本多勝一さんと梅棹忠夫さんは”師弟関係"にあります。本多さんのルポは、文化人類学的アプローチで書かれている点が魅力です。(僕が梅棹忠夫さんの存在を知ったきっかけは本多さんの著書です)
文化人類学的視点で世の中のどんなことも絶妙な切り口で、しかも平易な表現で捌いてゆく梅棹さんの文章に魅了され、全23巻からなる「梅棹忠夫著作集」ばかり読んで生きていた時期がありました。
文章の魅力にすっかり魅せられた後で目にした「モゴール族探検記」という著書の表紙に載った梅棹さんの姿は、まるで映画俳優そのものに見えたものです。
それまで僕の中で「かっこいい世界」の外にあるものと思っていた学問が、「かっこいい」の範疇に収まるようになったのは梅棹忠夫さんの影響がかなり大きいと思います。
その他にも敗戦直後の日本でアメリカやGHQと日本政府との間に立ち、“日本を復興させた男”や“プリンシブル”の異名をもつ白洲次郎(この人は外見もかなりかっこいい)。
白洲次郎と同時代を生きた、文芸批評の小林秀雄。
司馬遼太郎の大作「坂の上の雲」に出てくる秋山兄弟と正岡子規。(この本を読んでからというもの、子規の「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」が僕の中で心に沁みる俳句となりました)。
またこの作品を書き上げるのに40代のほぼすべてを費やしたという著者自身にもかっこよさを感じます。
その他にも、福山雅治さん演じる「ガリレオ」のモデルとしても知られ、日本人初のノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹さんもまた僕の「かっこいい」が発動された人のひとりです。
「創造的人間」とか「旅人」とか、この人の著書のタイトルもまた魅力的です
時代的に自分と程よい距離感があることも「かっこいい」を素直に発動できる要素になってるのかもしれません。
読書が習慣となったのは、これらのかっこいい人たちの影響によるものだと思ってます。
4「かっこいい人」の定義は、マンガの主人公レベルに昇華したかどうか
ドラゴンボール、キャプテン翼、ろくでなしブルース、バガボンド。
かっこいい登場人物たちに魅せられどっぷりハマったマンガと言ったら僕の場合はこんな感じのレパートリーになります。
かっこいいマンガは、主人公だけでなくその周辺人物にも興味が及ぶようになります。
マンガ同様に主人公の周辺人物たちにも興味が及んでいくかどうかも「かっこいい人」の重要な要素かもしれません。
梅棹忠夫さんを例に挙げると、梅棹さん含め「京都学派」と呼ばれる文化人類学者の一派の面々がそれに当たります。
マンガ風に登場人物を紹介すると以下のような感じです。
<登場人物>(一例)
今西錦司
登山家、生物学者、文化人類学者。梅棹忠夫らを率いる山岳探検隊のリーダー。梅棹らメンバーたちにパイオニアスピリットを植え付けた人物。教授時代、彼の周りには常に優秀な人材が、学校の垣根も超えて集まってきたという。
川喜田次郎
文化人類学者。梅棹忠夫とは中学校以来の付き合い。フィールドワークで膨大に記録した情報を整理する中で編み出した彼の手法はその後「KJ法」と呼ばれ、現在でもアイデアを生み出す手法としてビジネス界などで活用されている。
同様に白洲次郎でいえば、白洲から「じいさん」呼ばわりされていた第50代内閣総理大臣・吉田茂や、先にも紹介した小林秀雄、白洲の妻であり文筆家の白洲正子などが挙げられます。
みんなそれぞれ魅力的な個性を持った人物たちです。
5終わりに
「かっこいい」をあれこれ語らないであろうかっこいい人たちに比べ、今こうしてコーヒーを飲みながら「かっこいい」を語っている自分。
今回はその矛盾に葛藤を覚えながら書きました。
何か始めたいと思っているけど何をすべきか迷ったときは「かっこいいかどうか」を基準に選んでみるのも良いかもしれません。
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