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『未婚の女』上演情報解禁


 『未婚の女』の公演詳細が発表されました。2022年10月『オルレアンの少女』2023年4月『アンティゴネ』に続く、〈女性と戦争〉をテーマに掲げた深作組新ドイツ三部作の第三作目に当たります。日本初演となる『未婚の女』、ぜひ観にいらしてください。

*以下、本作品の内容を含みます。


 最初に本作を紹介してくださったのは、シラーを主に研究している友人の丸山達也氏です。丸山氏による『未婚の女』初演(ロベルト・ボルクマン演出)の観劇記録は、2015年ベルリン演劇祭テアタートレッフェンの報告でお読みいただけます。


エーヴァルト・パルメツホーファーの戯曲に登場するのは、「祖母」、「母」、「娘」の3人と「四姉妹」という4人の女性コロス。終戦目前の1945年4月に、ある若い兵士が恋人の(注1)密告によって射殺された事件をめぐり、密告の当事者で自身も一時的に囚われの身となった、現在90歳の1人の女の克服されざる「過去」が追及される。この「過去」は、祖母、母、娘を互いに血縁以上に強く、分かち難く結びつけており、戦後70年を経てもなお「加害者(共犯者)」と「犠牲者」との狭間で揺れるドイツ人の過去との対決が映し出される。68年世代に象徴される戦後ドイツの責任問題をめぐる親子関係も見え隠れするが、そこにもう一つ下の世代が加わり、戦後というテーマに、より広い視点が与えられる。

上記HP報告より一部抜粋
注1) 報告に「恋人」とあるが原作テキストにそのような記述はなく、
一時的に村に駐留した兵士と村民の関係である。初演版で脚色された可能性あり。



エーヴァルト・パルメツホーファー

1978年8月15日、オーバーエスターライヒ州リンツ生。オーストリアの劇作家。

2008年 テアターホイテの批評家へのアンケートで次代を担う新人作家に選出
2010年 『die unverheiratete 未婚の女』ミュールハイム劇作賞受賞
2014年 『die unverheiratete 未婚の女』ウィーン・ブルクテアターで初演
2015年 『die unverheiratete 未婚の女』ベルリン演劇祭に招聘
2020年 『Die Verlorenen』でミュールハイム演劇週間に招待
2020年 『Die Verlorenen』がテアターホイテの批評家アンケートで2020年の最優秀作品に選出
2019-20シーズンよりミュンヘン・レジデンツテアターでドラマトゥルクを務める。

あらすじ

1945年4月、オーストリア北部の村。
ナチスドイツによる支配が終わる数日前、一人の若い男が〈脱走兵〉として処刑された。
兵士を密告したのは、村に住む若い女・マリア。
しかし戦後、価値観は一転し、マリアは〈ナチスの協力者〉として裁かれる。
時は流れ、現代――
若い孫娘・ウルリケは祖母のノートの存在を知り、事件の真相に迫る。
一方、ウルリケの母・イングリッドは、自分をギリシア神話のエレクトラにたとえながら、母に対する〈復讐〉を誓う。
浮かびあがる【三世代】、三人の女たちを〈抑圧〉する心の闇。
過去と現在が交錯しながら、やがて物語は衝撃のクライマックスを迎える――

『未婚の女』公式HPより



登場人物

若い女     夏川椎菜
中年の女   サヘル・ローズ 宮村優子(Wキャスト)
老齢の女      山村美智

四姉妹        有川マコト 宮地大介 小田龍哉 神農直隆

 原作の「登場人物」にはウルリケ30歳、イングリッド50歳、マリア90歳とあるが、劇中でマリアは「96歳」と自称する。

 〈若い女〉はウーリ、あるいはウルリケ。〈中年の女〉はイングリッド。〈老齢の女〉はマリアである。それぞれの名前は、〈(裕福)な相続人〉、〈女神の如き美女〉、〈恋人/愛人〉の性格を暗示している。

Sascha Feuchert (2022). die unverheiratete: Nachwort、拙訳


 ドラマの進行によって多くの役を引き受ける〈犬のようにキャンキャンと喚く〉姉妹たち(注1)もまた、謎めいていると言えるだろう。彼女たちは〈老齢の女〉の公判を真似て演じ、証人や裁判官、弁護士を体現し、刑務所の人々のように行動し、現在の場面では〈老齢の女〉のケアをする看護師にもなる。何よりもテキストを注意深く読み込み、舞台上の出来事や登場人物の造型を正確に読み解くことで、ドラマの中の複数のレイヤーと、その繋がりを理解することができる。

Sascha Feuchert (2022). die unverheiratete: Nachwort、拙訳
注1)ドイツ語のSchwestern には「姉妹」と共に「看護婦」という意味がある。
die Krankenschwester=看護婦
アイスキュロス『エウメニデス』では復讐の女神たちが犬と関連づけて言及される。



年表/参考資料

『未婚の女』の背景を知るために、年表と手に入れやすい資料をご紹介します。

年表
1889年   ヒトラー、オーストリア=ハンガリー帝国のオーバウスターライヒ州ブラウナウに生まれる。
1907年   ヒトラー、ウィーンの造形美術アカデミー受験、不合格
1908年   ヒトラー、ウィーンの造形美術アカデミー受験、不合格
1913年   ヒトラー、ミュンヘン移住
1914-18年  第一次世界大戦
1933年   ヒトラー、ドイツ国首相就任
1934年   ヒトラー、大統領ヒンデンブルグの死後全権掌握、総統となる
1938年   3月12日、ナチスドイツがウィーン侵攻
1938年   3月13日、オーストリア、ナチスドイツに併合
1945年   4月13日、ウィーン地区で戦闘が終了。赤軍が占領。
1945年   4月20日頃、マリア、ある兵士の脱走を密告。
1945年   4月30日、ベルリンでヒトラー自殺
1945年   5月7日、ランスのアメリカ司令部でヨードル将軍が調印し、
      ドイツ国防軍の無条件降伏が決定。
1945年   5月8日23時、(ヨーロッパ戦勝記念日)に発行
1945年   その後、マリア、告発され有罪判決
1955年   5月15日、占領四カ国と条約を締結し、オーストリア独立
1955年   10月26日、オーストリアは永世中立を宣言
1957年頃  マリア、刑期(12年)を終える


おすすめ資料
論文 :戦後初期オーストリアにおける 「アムネスティー(恩赦・忘却)政策」の展開(水野博子)
『ポストモダニズムと歴史叙述』ヘイドン・ホワイト(吉田寛+立命館大学「物語と歴史研究会」訳)

・『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?(小野寺拓也, 田野大輔, 岩波ブックレット)
・『歴史と事実、ポストモダンの歴史学批判をこえて』(大戸千之, 京都大学学術出版会)
・『物語 オーストリアの歴史』(山之内克子, 中公新書)
・『ヒトラーの脱走兵』(對馬達雄, 中公新書)
・『ドイツ・ナショナリズム』(今野元, 中公新書)
・『ヒトラーのウィーン』(中島義道, ちくま文庫)
・ギリシア悲劇『エレクトラ』(ソポクレス、エウリピデス, 文庫版複数あり)

ほか参考資料
・ギリシア悲劇『アガメムノン』『供養する女たち』『オレステス』
・『戦後オーストリアにおける犠牲者ナショナリズム-戦争とナチズムの記憶をめぐって-』(水野博子, ミネルヴァ書房)
・『ポストモダンの条件』(ジャン=フランソワ・リオタール、, 小林康夫訳, 水星社)
・『歴史の概念について』(ヴァルター・ベンヤミン)
・『倫理、〈悪〉の意識についての試論』(アラン•バディウ, 長原豊、松本潤一郎訳, 河出書房新社)
・『他者の苦痛へのまなざし』(スーザン・ソンタグ, 北條文緒訳, みすず書房)

……など

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Tamaki Ohkawa 大川珠季
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