スタバでみつけた春の恋
おとうさん、ちょっとこれ食べて待ってて。私は銀行行ってくるけど、すぐに戻るから。ここから動いたら行けんよ。
大丈夫?
あぁ、いいわ、やっぱり一緒に食べようね。
お父さん、いろんな人がいて、おもしろいでしょ?眺めてるだけで飽きないからね。
ちょっとだけここで待っとって。
70代と思しき右隣りのご夫婦の会話が聞こえてしまった。
手話が共通言語のサイニングストア、スターバックス国立店にはカウンターの前に大きなテーブルが二つあり、そこは皆がテーブルをシェアして利用している。
一人になったおとうさんは、向かいの3歳くらいの女の子がチーズケーキを食べている姿をじーっと眺めながら、アイスのカフェラテをゆっくりと飲んでいた。それを目の端でなんとなく気にしながら、気もそぞろに本を読む私。
少しすると、おとうさんはナプキンを丁寧に畳んでテーブルを拭きだした。トレイに奥さんのコーヒーカップを置き、やおら片づけを始めると、今度は斜めに掛けているバッグに何やらしまって、帰り支度を始めた。奥さんはまだ戻ってきてない。
席を立って、トレイを持ち上げようとしたので、
「重いですよね?私が持ちましょう」
と声を掛けると、ニコニコしながら「ありがとう」と返してくれた。
すると前に座っていた女の子がニッコリと笑って手を振っている。
「バイバイしてくれてますよ」
「私にですか?おや、どうもありがとう」
というと、その女の子が言った。
「えいえいおー」
おとうさんもすかさず
「えいえいおー」
と返していた。
そこへ奥さんが戻ってきて、
「お父さん、えいえいおーって(笑)どうしたの?」
「ん?春だから恋をしたんだよ」
「まぁ、いいわねぇ」
思わず笑みが。ここに春がやってきた。