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【第2話】新しい暮らしの向こう側|入り混じる期待と元彼への未練
前回のお話▼
新しい家、新しい街、新しい人との出会い。まったく新しい環境に身を置いた私は、まるで生まれ変わったような気分だった。
新しく選んだ家はシェアハウスだから、家に帰れば温かく迎えてくれる人がいるし、自分の部屋にいても前の家みたいに元彼の気配を伺って怯える必要もない。家が安心できてくつろげる空間であることに、心底幸せを覚えた。
リビングでみんなと談笑していれば、元彼との大恋愛が終わった事実も考えなくて済んだ。でも部屋に戻れば、心地よい安心感とは裏腹に、元彼との日々はもう戻ってこない現実に向き合わなければならない。
2026年の1月に入籍しようと元彼とは約束していた。本当は2025年に入籍したかったのだけれど、元彼のタイミングと、私がどうしても記念日に入籍したい!と言った結果の先送り。
元彼とは別れてしまったけれど、私はどうしても結婚の時期をこれ以上先にはずらしたくなかった。
それくらい「1人の自由な暮らしよりも、大好きな人と一緒に暮らす日々のほうが幸せだ」という気づきは、私にとって衝撃的な出来事だったのだ。
とにかくなんでも自分で決められないと気が済まなくて、出勤時間や休日を会社に決められることが苦痛で、不安定さを覚悟してフリーランスになったほどの私。
その私が、自由な暮らしよりも大好きな人との(時に不自由かもしれない)暮らしを選ぶなんて。
元彼と別れたからといって、結婚自体を諦めたわけではない。その証拠に、私は引っ越した翌日にマッチングアプリを入れていた。
5年ぶりにスマホのホーム画面に現れた、マッチングアプリのアイコン。闇雲に人と会っては疲弊していた、あのころの記憶が蘇る。
いやいや、あのころの私と今の私は違うはず。過去の記憶を振り払うように、プロフィール画面を埋めていく。
「1年半前に茨城から鹿児島に移住しました」
移住までしたんだよなあ、元彼と一緒に暮らしたい一心で。縁もゆかりもない土地にさ。
知り合いがほぼゼロの土地での暮らしが、不安じゃないわけなかったのに。そんなことは一言も言えずに「あなたと一緒にいられれば私は幸せだよ」なんて言って。
元彼が関東に来る道だってあったはずなのに「フリーランスはどこでも仕事ができるから」と言って、1日でも早く同棲するために、迷いなく鹿児島に身を置くことを決めていた。
なじみの土地をすぐに出て行ってもいいくらい、私は元彼と一緒にいたかったんだ。あのころは元彼との時間を少しでも増やせる道しか見えていなかったけれど、冷静に考えてどれだけ好きだったのだろうと笑ってしまいそうになる。
こんなに好きだった人でも、終わってしまうことがあるんだ。
新しい部屋のベッドに仰向けになりながら、現実を受け入れきれないまま、画面に映る見知らぬ男性の写真をスワイプした。