アメリアとカナダにおいて、炭水化物の推奨摂取量は決まっているのだろうか。
米国科学アカデミー食品栄養委員会の食品摂取基準(Recommended Dietary Allowances)と、カナダの推奨栄養摂取量(Recommended Nutrient Intakes)が合わさり、食事摂取基準(Dietary Reference Intakes:DRIs)が策定された。
1997年に第一弾が策定され、その後毎年版を重ねた。
当初はビタミン、ミネラルの摂取基準であったが、2002年の版より炭水化物の項目が追加された。
2002年の版において、炭水化物の推奨摂取量は「130g」とされたが、判定方法は「代替エネルギー源として脂肪やタンパク質に頼らず、脳が必要とする最小限のブドウ糖を摂取することができる」であった。
つまり、「脳が脂肪酸やケトン体を利用できない場合」ということになる。そんな特殊な状況をわざわざ危惧する必要はない。
詳しい内容は2005年に公開されており、以下のデータベースからアクセスできる
そこでは以下のように説明がなされている。
つまり、統計学的な長期データが無いので、生理学的に考えてみようということである。そのあとに、しっかりとした説明がなされているが、まとめると
「脳は通常グルコースがエネルギー源だが、ケトン体も使える。でも、ケトン体を使えるようになるためには、多量の蛋白質と脂質摂取が必要。蛋白質はオートファジーもあるが、糖新生につかわれたり、尿から排泄されたりするので、1日で、30~34gの蛋白質摂取量が必要。
しかし、一度にに30〜34gのタンパク質を摂取すると、24時間にわたって少量ずつ摂取しない限り、インスリンの分泌が促進される可能性がある。インスリンが上昇すると、脂肪分解が抑制され、ケトン体産生も抑制されてしまう。糖新生に必要なグリセロールが脂肪から供給もされないので、脳の栄養が無くなってしまうんじゃないか?」
ということだろう。
興味深い考察ではあるが、「摂取した脂質からの中性脂肪の供給」が欠落してはいないだろうか。
そして、ケトン体・ケトン食が脳の神経細胞にとって、有益であるという報告は、たくさんある。
つまり、ケトン食は、インスリンによるケトン生成抑制を跳ね除け、十分量のケトン体を生成できるということになる。
そして
「蛋白質摂取量を減らしたら、筋肉が分解されてしまう」ということも暗に心配もしているだろう。
ケトン体・ケトン食は、筋細胞にとって有益に働く報告は多い。
さらにケトン体は、筋細胞において、グルコース→ピルビン酸を抑制するため、ピルビン酸とグルタミン酸からアラニンを作る経路が抑制され、グルタミン酸からグルタミンが作られることになる。このグルタミンが筋分解を抑制する働きがある。
以上より、ケトン体・ケトン食は、脳・筋細胞にとって有益であるといえる。
ちなみに、尿中の窒素量が減少することを指摘しているが、ケトン体は筋分解を抑制するので、尿中への窒素排泄量減少は、当然の結果である。
2002年以前の米国、カナダの摂取基準はどうだったのだろうか。
1989年の米国の食品摂取基準第10版のなかで、炭水化物摂取量について以下のような記載がある。
この多少は糖質を摂取しないとケトン体が上昇してしまうという内容は、上記の食事摂取基準(Dietary Reference Intakes:DRIs)にもしっかり継承されている。
カナダはどうだろうか
1990時点でのカナダの方針がわかるはずだが、ネット上で資料を探せなかった。
では、今2022年においてはどういう変貌を遂げているのだろうか。
米国とカナダが共同で作成した食事摂取基準(Dietary Reference Intakes:DRIs)は、毎年多少のアップデートはあるが、炭水化物の項目においては、上記に紹介した2002年のもので止まっている。130gを最低限摂取しようという根拠は2002年で止まっているのだ。
いっぽうで、米農務省は1980年から、5年に一回「アメリカ人の食事ガイドライン」を策定している。
1980年の初版は、脂質や糖質を摂りすぎないようにといった一般的な内容であり、特に上限や下限は制定されていなかった。
最新版は2020-2025バージョンである。
炭水化物の摂取量は45-65%で、必要摂取量を130gとしている。
その根拠はやはり2002年の食事摂取基準(Dietary Reference Intakes:DRIs)となっており、20年もの間アップデートされていない。
2008年以前だが、こちらも参考になる
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjda/51/12/51_12_1234/_pdf/-char/ja
そして、カナダにももちろん食事摂取基準はある
しかし、炭水化物摂取量については議論されていない。
つまり未だに両国は、「炭水化物最低摂取量130g」を引きずっているということになる。
では、「糖尿病」においてはどうであろうか。
次回へ。