人工股関節全置換術後の動作障害に対するアプローチ①
人工股関節全置換術により、股関節自体が改善しても、動作も必ず改善するというわけではありません。それは、手術による侵襲による痛みの影響もありますし、もともとの筋力低下や可動性の低下、術前からの疼痛回避性跛行が影響している場合もあります。
ここでは、前方進入系の手術後、歩行の術側の立脚中期から後期にかけて骨盤が術側に回旋してしまうケース。つまり、術側の臀部が引けてしまう状態について、お話ししていきたいと思います。このようなケースは実際の臨床でも目にすることが多いと思います。
キーワードを、股関節前面の筋、股関節の選択性、体幹の安定性として話を進めていきたいと思います。
(股関節前面の筋の復習)
・縫工筋:上前腸骨棘から脛骨粗面内側につき、鵞足を形成する。
・大腿直筋:下前腸骨棘および寛骨臼の上縁から膝蓋骨底、脛骨粗面に付着する。
・大腿筋膜張筋:上前腸骨棘から腸脛靭帯を経て脛骨の外側顆に付着する。
・腸骨筋:腸骨窩から大腿骨の小転子に付着する。
・大腰筋:第12胸椎~第4腰椎の椎体と椎間円板、すべての腰椎の肋骨突起、第12肋骨から腸骨筋の共通の件に移行し、大腿骨の小転子に付着する。
それでは、術前からの影響と術後の影響にわけて考えてみたいと思います。
●術前の影響
変形性股関節症の患者さんは、股関節の変形による脚長差が生じやすく、それにより脊柱のアライメント異常も起こします。特に臼蓋形成不全があると、骨盤を前傾する傾向にあり、腰椎の前弯が増大する傾向にあります。
骨盤前傾姿勢が継続的になると、股関節前面の軟部組織は短縮を起こします。股関節前面が硬くなり、股関節の伸展制限が起こるとともに、体幹の不安定性が起こる例も多いです。
手術後に脚長差が改善しても、短縮は改善されません。脚長差が改善されることで、股関節前面は伸張され、緊張が上がりやすい状況になります。
このように、股関節前面の短縮や筋の過緊張により、股関節の伸展が制限されます。
●術後の影響
術後は手術の侵襲により、股関節の前面は伸張性が低下しやすく、また、痛みのため、股関節伸展の制限が出現しやすくなります。
これらの影響により、歩行の立脚後期での股関節伸展が制限され、術側に骨盤が回旋します。
※骨盤の過度の後方回旋に伴ってトゥアウトを認めるケースもあります。このようなケースでは荷重が不十分である場合が多いです。
理学療法評価では、股関節前面の軟部組織の状態と、伸展の可動性が得られているかを確認します。可動性が得られているにも関わらず、歩行時に伸展が出ない場合は、筋出力の問題が考えられます。
先ほど、お話ししましたが、術前に股関節が硬くなり、体幹の不安定性が出ている場合があります。この状態では、股関節の選択性が低下していることが多く、骨盤を安定させて股関節を伸展していくという機能が低下します。
ですので、体幹の安定性や股関節の選択性の評価も必要となります。
理学療法アプローチでは、以下が挙げられます。
・股関節前面の筋のリラクゼーション
・創部周囲の柔軟性改善
・大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋の伸張性改善
・腸腰筋、大殿筋の筋出力向上
・体幹の安定性向上
・股関節の選択性改善
(参考文献)
・理学療法プログラムデザインⅢ 運動器下肢編.文光堂