有栖川有栖を好きになるための七冊の本① ロシア紅茶の謎
「有栖川有栖に捧げる七つの謎」にあやかり、有栖川有栖のおすすめを七冊挙げていこう、のコーナーを勝手に始めさせていただく。第一回ということで、有栖川有栖入門におすすめの短編集を。
本作ロシア紅茶の謎は、火村シリーズ初の短編集となっていると同時に、有栖川有栖の「暗号ミステリ」、そして「トリック」が味わえる作品となっている。
収録作は以下の通り
動物園の暗号
屋根裏の散歩者
赤い稲妻
ルーンの導き
ロシア紅茶の謎
八角形の罠
「動物園の暗号」
動物園の飼育員が殺された。一枚の紙を握りしめて。そこには動物の漢字がひたすらに綴られていて…
最初は、ダイイングメッセージもの、いや正確には「暗号もの」の一編。ただただ動物の名前か綴られた紙は何を意味しているのか?かなり有栖川有栖の趣味がおおいに溢れた暗号となっており、普通の人はまず解けない。「鉄」の方は挑戦してみてください。
「屋根裏の散歩者」
アパートの管理人が殺された。どうやら被害者は屋根裏を徘徊し、住民たちを除いていたらしいのだが…
題名から分かるように、江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」オマージュの物語ではあるが、それ以上に強烈な暗号が記憶に残る。被害者は住民たちを記号で日記に書いていたのだが、そのうちの一人が殺人犯だった。しかし、記号が誰を示しているのか分からない。
この「暗号」は読者にはだれも解けないものだ。ただ、あまりにもバカバカしくて、読んだ人は忘れない暗号でもある。
「赤い稲妻」
女がマンションから墜落死。現場は密室。そして被害者のパトロンの妻はほぼ同時刻に列車事故で死んでいた。夫はアリバイを主張するが…
有栖川作品の中でも上位に位置する良短編。愛人がマンションから墜落し、妻は列車事故で死ぬ、という二つの事件はどのようにつながるのか?
白峰良介の『飛ぶ男、墜ちる女』の別解として書いた作品らしいが、密室を解明することで、犯人の残忍さが際立つという構成になっている。ラストの火村のセリフも皮肉が効いている。
「ルーンの導き」
殺された男が握っていたのは四つのルーン石だった。これは何を意味するのか?
今回はスタンダードなダイイングメッセージもの。ではあるのだが、有栖川作品らしく、ロジックでの犯人当ての作品でもある。四つのルーン石の真意はかなり回りくどくはあるのだが、ある種最初期の有栖川作品らしく、小ネタの組み合わせというのが心地よい。
「ロシア紅茶の謎」
衆目環境下で毒殺された男。誰も毒を入れることは不可能なはずなのだが…
表題作。本作ではかなりぶっ飛んだ毒殺トリックが用いられている。そこまでやるか?というたぐいのトリックではあるが、犯人の心情的には、不自然ではないのが見事だ。
有栖川作品には、面白い毒殺トリックが多いが、本作はその始まりでもある。
「八角形の罠」
八角形の舞台で行われる演劇の最中、暗闇で殺された男優。やがて捜査の最中に第二の殺人が…
本作は短編ながら、読者への挑戦つきという珍しい構成になっている。これはひとえに本作が文字通りの演劇の脚本の小説化だからだ。ちなみに演劇では、北村薫が完全正答したらしい。
本作は、火村シリーズ初の短編集にして、「暗号」「トリック」「ロジック」など有栖川作品の原点ともいえる短編が多数揃っている。有栖川作品に入る短編集から入るにはうってつけの作品だ。
担当 森林木木