都市の下駄箱をなくしてみたい

日本でも、米国でも、ドライバーレスカー(自動運転車)開発のニュースが報じられていますが、日本の自動運転車と米グーグルのドライバーレスカーは、アプローチがまったく違います。
日本の自動運転技術は、

自動ブレーキなどの運転者支援機能を高度化していって、その延長線上に完全自動運転が存在する。

というものです。
一方で、グーグルのドライバーレスカーは、

人工知能が運転のすべてを判断する。

というものです。

これは、「目標は同じだけど、アプローチが違っている」レベルの話ではありません。「目標がまったく違っているから、アプローチも違っている」という話なのです。日本の自動運転車は、極論すればガソリン車の置き換えです。今まで通り、自動車メーカーが製造し、ディーラーを通じて、個人や企業に購入してもらうというものです。
しかし、グーグルの描く未来は破壊的イノベーションそのものです。自動車の個人所有をやめて、社会で所有することを目指しています。

つまり、すべての車がシェアカーになるというわけです。車を使いたいときは、スマホをタップ。自分のいる場所まで、ドライバーレスカーがやってきます。目的地はスマホに入力済みなので、あとは乗るだけ。目的地で降りると、ドライバーレスカーは勝手に去っていき、次のお客さんところへ移動します。利用料金は距離に応じたり、あるいはサブスクのような月額固定制だったり、いろいろな形で支払うことになります(ここに業者間の競争が起こります)。

重要な点は、都市に駐車場というものが不要になるということです。需要の少ない夜間は、ドライバレースカーは郊外の広い駐車場に帰ればいいわけですし、乗客は目的地でドライバーレスカーをリリースしてしまうのですから、競技場、劇場、オフィスビル、ショッピングモール、高速鉄道の駅、空港といった都市施設に駐車場は不要になります。とくに日本のように国土が狭い国では、都市の土地をより有効活用できるようになるのです。

さらに、広い駐車場を確保するために郊外にしか建設できなかった郊外型施設も、都心に建てることができるようになります。たとえば、アウトレットモール、イケアのような家具店などですね。
都心にもショッピングモールはありますが、土地代が高く、多くの客が公共交通機関を使ってやってくるために、小さく軽くて高価な商品しか商売になりません。イケアが銀座に出店したとしても、地下鉄でダイニングテーブルを持ち帰ろうという人はそうはいないでしょう。
でも、ドライバーレスカーになれば、帰る10分前ほどに呼べばいいのですから、イケア銀座店も成立する可能性がでてきます。
競技場、劇場といったイベント施設も、地下に大規模なラウンド状の車寄せ(乗降場)をつくり、道路との接続出入り口を複数用意することで、周辺道路の渋滞を引き起こすことなく、ドライバーレスカーで往復することが可能になるかもしれません。

つまり、ドライバーレスカーが普及すると、駐車場が不要になり、都市では土地の有効活用ができる、そして郊外型としてしか成立しなかった施設も都心に建設することができる可能性ができてます。これは都市のデザインに対する考え方を大きく変えていくことになるでしょう。

考えてみれば、駐車場というのは「使わない自動車を置いておく場所」であり、空間を有効に使っているとはとてもいえません。無駄なスペースといってもいいぐらいです。
今、学校の中で「上履き廃止」の動きが広まりつつあります。なんとなく日本の習慣の中で、学校の中では上履きに履き替えていましたが、今や、どこのオフィス、どこの商業施設でも「土足」が普通です。
ところが学校では、「使わない土足靴、上履きを置いておく場所」として、下駄箱という無駄なスペースを使っています。上履きを廃止することで、下駄箱スペースが不要になる。空いたスペースに、Wi-Fiを設置して、ICT教育用のマルチ利用スペースにするという学校が増えてきているのです。上履きを廃止するデメリットは「雨の日に廊下が少し汚れる」程度のことで、美化委員がモップをかける程度のことで解決できてしまいます。

駐車場というのは、まさに「都市の下駄箱」です。現実的かどうかは別として、都市の下駄箱を廃止して、空いたスペースをどう活用したらいいか、都市の景観がどうかわるだろうか、私たちの生活はどう変わるかということを思考実験してみることは、実に楽しいことです。

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