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いい酒場は、色気が溢れている

まちを歩いてると、たまに物凄い色気を感じる人っているじゃない。
色気がただ漏れすぎて、少し離れた場所にいてもわかるみたいな。

決して露出の多い服を着ていたりって、派手に着飾っているわけじゃない。
見た目は地味でも、その人の内面から色気が溢れ出ているイメージ。
イミテーションじゃない、リアルな色気の持ち主ってやつだ。


それは酒場にも同じことが言える。
いい酒場には、その佇まいから色気が溢れている。
歴史ある大衆酒場なんて、年月を経るごとに魅力が増す経年美を感じる。
まるで歴史ある寺社仏閣みたいなものだ。

この店に入ってみたい。
この店で飲みたい。
そう思わせる何かがいい酒場にはあるもんだ。

初めて降りた駅や旅先なんかでお店を探すときは、この色気を頼りに入ることが多い。
思い返してみれば、これまでにそう思わせてくれたお店はいくつもあった。
色気たっぷりな女性に話しかけるのは勇気がいるけど、色気のある酒場に入るのに勇気は必要ない。
好奇心と下心があるのは同じなのに不思議なもんだ。

初めての酒場では、まずはお店の正面に立ち、五感をフル活用して入るべきか否かを見極める。
目に飛び込んできた情報はくまなくチェック。お客さんが出入りする瞬間は、店内の様子をうかがえるこれ以上ないチャンスだ。
聞こえてくる笑い声はいい酒場の証。
周囲に漂う香りも重要なヒントになる。排気口から出てくる煙は、まるで男を惑わすフレグランスのようだ。

酒場を見極める精度は、経験を積むごとに増していく。
そりゃ最初のうちは失敗することもあるさ。
色気を感じて入ったはずなのに、自分には合わなかったという経験も一度や二度じゃない。

そんなとき、お店のことを悪く言っちゃいけないよ。
店のことを悪く言ったら、その店を愛してる人たちに悪いからね。
ただ、自分には合わなかっただけ。
そう思って、何が合わなかったのか考える。
で、また次に色気を感じた酒場へ入ってみる。
これが精度を上げていく唯一の方法だ。
俺は自分の感覚に、絶大な信頼を置いている。

こんなことがあった。目の前に2つのお店があって、どっちも行ってみたい。
でもこの後の予定を考えると、ハシゴをしている時間はない。
どちらか一方を選ぶには、自分自身の直観に頼るしかない。

右には、年季の入ったのれんがかかる大衆酒場。続々とお客さんが吸い込まれていく。
地元の人に愛されている店に悪い店はない。
俺の直観が、この店に入れと言っている。

左には、カジュアルな雰囲気のアメリカンダイナー。インポートビールを多数扱っているらしい。
この手のお店も好きなんだよな。バーガーに食らいつきながら飲むビールも最高だ。

なかなか甲乙つけがたい両店だが、俺は自分の感覚に自信を持っている。当然、この日は右の大衆酒場を選んだ。

左のアメリカンダイナーは比較的新しいお店だ。この人気ぶりなら、また次回、この街を訪れたときにも来れるだろう。

しかし、右の年季の入った大衆酒場は、店主が高齢なパターンも考えられる。このタイプのお店は、いくら人気があっても急に閉まってしまう可能性があるからやっかいだ。
もしかしたら、今日入らなければ次はないかもしれない。

そして何より、今はバーガーよりもマグロぶつで一杯呑りたい気分。
迷っている時間ももったいない。

俺が右の大衆酒場へ向けて歩を進めようとしたとき、目の前をセクシーな美女2人組が通りすぎた。
後に残る妖艶なフレグランスの香り。
2人はそのまま、アメリカンダイナーへと入っていった。
なんだか無性にバーガーが食べたくなってきた。


#創作大賞2024 #エッセイ部門

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南原卓也(美味いビールが飲みたい)
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