なんでネパールに住んでいるの?-(2)


ネパールの山奥でニジマスの養殖をしている村田です。

前回に引き続き何故私はネパールに住んでいるのだろうと考えてみました。

今回の話の中心になるのは青年海外協力隊の訓練所です。

青年海外協力隊に参加
当時私は鹿児島県の在る養殖場で二年間みっちりと働いていたので上手い具合に養殖部門の要請が出ていれば絶対に合格できるだろうとタカをくくっていていた。

そこで、
「先輩のアドバイス通りやって見ることにしました。で、アフリカに行こうと思うので会社辞めます!ありがとうございました。」

さっさと仕事も辞めて群馬県の実家に転がり込んでしまった。

会社を辞めたのが三月いっぱい、4月の応募に間に合って試験も上手い具合に合格出来た。

派遣希望としてアフリカ地域を申請していたので任地はモロッコ(フランス語圏)と決まった。

その後JICAの長野県駒ヶ根訓練所で1ヶ月くらいみっちりと語学のフランス語を習得して、その後更に本番フランスの語学学校で1ヶ月フランス語に磨きをかけて任地に向かった・・・と言えればカッコよかったのだが、現実はこれとは程遠い感じだ。

そもそもの間違いの原因は協力隊の募集要項にあったQ&Aだ。

Q : 私は外国語が苦手で英語も出来ませんが、協力隊に参加できるでしょうか?

A : 全然大丈夫です。
協力隊の試験では英語の試験もありますが、これは英語力を見るものではなく、語学の素質を見て現地語を十分に習得できる力が有るかを判断するもので点数は関係ありません。
更に、協力隊の訓練所では世界的なレベルの講師が寄ってたかって、たった1ヶ月で貴方をバイリンガルに仕立てあげて見せます・・・みたいのが書いてあったのだ。

当時まだ生真面目だった私はその言葉を信じて、中学〜大学の英語の試験で25点以上取ったことの無い事も棚に上げてしまい、どのような過程を経てフランス語がペラペラになれるのだろう・・・お手並み拝見・・・とばかりに大船に乗ったつもりで、合格後訓練所から送られてきた事前学習キットを一度も開かずに、ノコノコと訓練所に出かけて行ってしまった。

駒ヶ根語訓練所
駒ヶ根訓練所ではまず最初に大きな講堂に200人くらいが集まっていて入所式があった。

全員が一人一人前の方の高いところに上がって自己紹介をした。

確か 翌日から直ぐに語学訓練が始まったと思う。

まず事前学習をどれだけきちんとこなしたかが外国人講師によってしっかりチェックされた。

「これを読んでみろ!」

と言われて何やら訳の分からないアルファベットが綴られたホワイトボードを見せられる。

一瞬焦ったものの、落ち着いてよく見れば簡単だ!最初に並んでいるのはアルファベットだ・・・
「エイ、ビー、シー・・・」
(正解は:アー、べー、セー・・・でした。)
たちまち講師の顔が鬼のように変貌し頭から湯気が立ち昇る。

「はいダメ!アンタ全然ダメね! 何でなんも勉強してこなかったの! これからどうなっても知らないよ! 明日から楽しみだわ  ヒッヒッヒッ!」

そして、翌日から私の人生で最も過酷な日々が始まった。

後にも先にもあんなに勉強した事は無いだろう。(高校受験も大学受験も今から思えばあんなのは屁みたいなものだ。)

もう、それは筆舌にも表現の方法が無いほどの過酷な訓練で、本当にこのまま頭が壊れてしまい人格が崩壊するのではないかと本気で心配になったほど。(今は当時とおお違い大分楽になっていますので、もし協力隊に行きたい人は安心してください。でも、事前学習をサボると・・・ ヒッヒッヒッ!!)

その毎朝からは空が白むと同時に起床。
昨日の語学の復習、その後何故か真っ赤な体操着に着替えて、訓練所前に集合。
点呼が行われ、遅れた班にはペナルティー。
その後なんか知らないけど真っ赤な体操着を着たまま近所を何キロも走らされ、直ぐに朝食。

朝食が終われば昼までみっちり五人ほどの小クラスに別れて語学。
昼食後も語学。
夕食後も語学(自習)
十時、消灯後も二段ベッドで布団を被って懐中電灯で語学。

余りの過酷さにリタイヤも続出。

頭を使うとめちゃくちゃ腹が減る、面白いほど腹が減る。

駒ヶ根訓練所では飯だけは美味かったし、私の食欲も最後まで落ちなかったので、辛うじてリタイヤせずに最終試験をほぼ最下位でパスできた事は派遣後の自信に繋がった。

とは言えフランス語なんて、どうやったってひと月位で話せるようになる訳が無い。

来る日も来る日も語学に明け暮れて同室の住人に

「おい!村田、お前昨夜もフランス語の寝言を言っていたぞ!」

と文句を言われ、

「そおいうお前だってスペイン語うるさくて眠れないんだよ!」

と言い返す。

そんな日々の中ある日の授業中ふと窓の外を見て首を傾げた。

そこには五、六人の隊員候補生が芝生に寝転んだ講師の周りに集まって野外で授業を受けている・・・のだが我々のクラスとは明らかに違う。

なんかもう、余裕シャクシャクでリラックスしきって全員ニコニコで寝不足の痕も見えなければストレスの片鱗も無い・・・まるで何かの拍子に平行世界のあちら側が見えてしまったようなあるまじき光景なのである。

一度気が付くと 、そいつらの不謹慎な野外での授業があちこちで目に付く・・・授業ばかりではない。

訓練所も流石に土曜日曜は休みになっているのだが、余裕のない落ちこぼれフランス語圏の私はヒイヒイ言いながら自習に専念するしかない。

それなのに、そのクラスの連中と来たらバレーボールをしたり、テニスをしたり、挙句の果てには講師とキャンプに行ったり、しているのだ!

「おい!あいつら何処の候補生だよ?」

「ネパールだとよ!」

「あんなんで良いのかぁ?」

「なんか知らないけどさぁ、あいつらもう普段からネパール語しか話してないらしいぜ! 俺達なんかこれだけ頑張ってもフランス語ほぼ喋れないのになぁ。」

なんだそれは!まるで募集要項のQ&Aを地で行ってるじゃないか!

あれはやっぱり嘘では無かったのだろうか・・・?

でも、その時の自分には本当に余裕が無くて、あいつらの乗った飛行機がネパールに着く前に落ちれば良いと願うくらいしか何も出来なかった。

12月に入ると一応訓練終了で一旦実家に戻る。
フランス語圏以外の隊員はまごまごしていてせっかく覚えた単語が頭から抜けてしまわないうちに早急に任地に出発する。
だが、フランス語圏の隊員にはダメ押しのフランスでの更なる語学訓練が1ヶ月待っていた。

つづく。

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