死者蘇生

不愉快に思われる表現がありましたら申し訳ありません。

the cabsが再結成するという。

2013年2月27日に解散を発表した。
僕は遂に一度もライブを観に行けないまま、だった。
当時のメンバーからのコメントは18歳のガキにもわかるほどの深刻さで、
取り繕うこともできないほどの事態であることを思い知らされた。

解散を知ったのは高校の卒業式の練習中のことだった。
友達に「おい解散だってよ……」と言っても誰もピンときてなかった。
「あぁお前が聴いてたバンド? ギターが失踪してたんだっけ」
その程度の認知度だったが、僕にとっては一大事だった。
その後の練習は上の空だった。

トイレの個室に隠れて何度もメンバーのコメントを読んだ。
できるはずもない理解をしようとすればするほど気持ちは沈み、
「ああthe cabsというバンドは死んでしまったんだな」
と思わずにいられなかった。
何度読み返しても「解散」「中止」の文字は哀しいほどにしっかりと記されていた。
でかいとこで追加公演するってこの前発表したばっかりじゃん。

当時は今ほど再結成や活動再開の例が無かったはずだから、
(知らなかっただけかな)
只管に絶望するしかなかった。

「とても後味の悪い解散になってしまい申し訳ない」
「解散が唯一の選択肢だった」
「どうか皆様思い出のなかで留め、忘れていってくださることを願います。」

解散コメントより。上から一太さん、義勝さん、國光さん。

18歳のガキには2,500円すら惜しく、
やっと観に行けるはずだったツアーのチケットは現金に戻った。
手元において置くことを選べなかった。
そういえば手数料って返ってきたんだっけ。
写真くらい撮っておけばよかった、と思ったけど、
あったらあったでみっともない気もする。
縋ってるみたいで。
いや、素直に記念に撮っときゃ良かったか。笑

払い戻しは開催予定だったライブハウスで行われた。
初めてのgrafはライブを観に行くのではなかったというのもまた哀しい。
きのこ帝国と2マンの予定だったが、当時の僕はそのバンドを全く知らなかった。
そのライブ自体はきのこ帝国のライブとして行われた。
後に知り合うことになる友人曰く物販でメンバーにサインをもらった際に半券に印刷された演者の欄を見て、
「キャブスね……」
と溜息をつかれたらしい。
きっと彼らの中にも思うことや複雑な気持ちがあったのは想像するに容易い。
(友人は普段サインを求めないタイプだがこの日ばかりはそうはいかなかったらしい)

程なくして僕は奇しくも同じベースボーカルを擁するバンドのKEYTALKに出会うのだが、
実はその話は全く重要では無い。
この12年の間に彼にthe cabsの影を感じたことは殆どない。
それは本当の意味でthe cabsを知らないということかもしれないな。
(昨年インスタライブや弾き語りで'花のように'を歌ったという話は聞いた)

2013年の僕は大学受験に失敗し浪人生として生きていた。
楽しいこともたくさんあったが、正直辛いことの方が多い生活だったと記憶している。
この時期のせいで僕の中に幾分か根暗な部分が増長されたとさえ思っている。

そんな生活を支えてくれたのはイヤホンから流れる大好きなバンドたちの曲や、
身分を弁えずに観に行ったライブだった。

その中でもthe cabsを選んで聴くことが多かった。
それだけでは飽き足らずSoundCloudにあるösterreichの曲だって何度も聴いた。

喩えようのない喪失感を埋めようとして聴けば聴くほど、
自分の中で存在感は増幅していった。
何周したかわからない全てを詰め込んだプレイリスト、精神を磨り減らしながら聴いたんだろう。
一周、また一周と、狂ったように聴いた。

今では聴く回数もあの頃よりは減ったが、
ふと耳にすればあの頃よく見た風景を思い出してしまう。

2013年の12月末にジョゼというバンドがツアーでgrafに来た。
外は寒かったけどライブハウスの中は暖かった、暖かすぎた。
熱気ではなく暖房を過剰につけた時のような、
頭をぼーっと飛ばしてくれるようなあの空気。

アンコールで出てきたボーカルの羽深さんが
「今年は厄年だった」
と口にした後、演奏したのは'地図'だった。

イントロのアルペジオが鳴って何の曲か判ったはずのフロアから歓声は全く上がらなかった。
固唾を飲んで見守っているような、噛み締めているような。
僕はほんの少しだけ泣いてしまった。
だってここはgrafだから。

何と言っていいかわからないまま終わってから羽深さんに
「あの、アンコール……」
と言いかけると、
彼は優しい顔でしーっと唇に人差し指を当てがい、
「ありがとう」
と微笑むだけだった。
僕にとっての初めての生のthe cabsはジョゼによるカバーだった。
そのジョゼも随分前に眠りについた。

年の瀬、正に故人を偲ぶ演奏。
「あぁ本当に死んでしまったんだ」
という事実だけが迫ってきた。

義勝さんの活動はKEYTALKを追っていたから実によく知っている。
一太さんはpaioniaのサポートで一度ライブを観た時、
別の、しかも解散したバンドの話で申し訳ないと前置きして、
"the cabsが大好きだった、あなたのドラムが観れてうれしかった"と伝えられた。

少し時は経って國光さんはösterreichとして活動を再開。
精力的とは言えないが時折音源がリリースされる。
CDは買っていたし聴いてはいたものの、
「この人って本当に存在するのかな……」
と疑うほど舞台に立つことはなかった。

2019年にösterreichから'楽園の君'と名付けられた曲が発表された。
タイトルを初めて見たとき、聴くまでもなく、
「成仏できるのかな」
と感じたのを覚えている。

少し怯えながら聴いたその曲には'Leland'の歌詞が引用されていて、
ずっと身体中に棲みついていた亡霊が穏やかに成仏してくのが目に見えるようだった。

その後國光さんとcinema staffが新曲を制作、ツアーに帯同するという続報。
cinema staffのファンでもあった自分は
"遂に俺は高橋國光を観測できるのか……!"
と日程を確認するも、
地元福岡はなんとあのKEYTALKの福岡ワンマンと同じ日付で、
既にチケットを取っていたそちらを優先してしまった。
あの日の福岡にはthe cabsの2/3がいたんだね。

そんなことで諦められるわけもなく、
年が明けて2020年1月31日、
このツアーのファイナルの名古屋へ向かった。

本編最後の曲の前に呼び込まれて出てきたのは紛れもない高橋國光その人。
彼の姿を見た瞬間、意味も分からず泣いてしまった。
「俺がずっと会いたかった人だ」
5人で演奏したのは共作した'斜陽'。
拳をあげることもできないまま、
目に焼き付けるわけでもなく、
視界を滲ませる涙を拭うのに必死だった。

アンコールでツアーファイナルだからと、
國光さんが特別に話してるときもずっとそうだった。

彼は自身の苦悩、
音楽との距離、
cinema staffへの憧憬、
今の心境を手短にだが話してくれた。
「cinema staffになりたかったんです」とも。

その後に演奏されたのがセルフカバーのような'楽園の君'だった。
'楽園の君'は楽曲となって数年かけてようやく世に放たれて、
the cabsが果たせないままだったライブのステージという場所でツアーでは毎夜演奏されたという。
即ち「楽園の君」の旅でもあったというわけだ。

あの日を境に僕の中でのthe cabsは、
完全に過去のものになった。
ちゃんと「成仏」した。
勿論聴き続けているし、自分なりに愛でているつもりだった。

でもいつかまた、なんて全く思わなかった。
やるわけがない、あるはずがない。
三島さんもこう言っていたことだし。

諦めていたわけじゃなくて、
初めから希望なんかなかった。
そもそも死んでしまった。
ずっと待っていたなんて口が裂けても言えるはずがない。
(そう言っている人への批判ではない)

受容、咀嚼。
どれだけ苦しかったか。
やっと昇華してからももう5年が経とうという。

それからというもの。
國光さんと義勝さんが三島さんを介して飲んでいたり、

義勝さんのソロ曲に一太さんが参加したり、

解散当時では考えられないような交流を見れたりもした。

「あんな形の解散だったけど時間が経てばこうして交われる未来が来るんだな
「当時絶望した高校生の俺に教えてあげたいな」
とそれだけでもかなり胸が熱くなる展開だったし、
故人が遺していった縁みたいなものを感じていた。
御の字、それに尽きる。


バンドって売れれば良いわけじゃなくて、傷跡を残していけたらいいかなって。

Rooftop2013年1月号

傷跡は消えないままだけど、痛みは幾分か失くなった。

それなのに。
今になって再結成、そしてツアー。

未だ驚愕を感情が支配している。
正直手放しで喜べていない。
決して嫌なわけでもないし、寧ろ嬉しいのだが。

死人が生き返るなんてあり得ない話だ。
だって本当に死んだと思ってたんだよ。
いや確かに死んだんだよ。

自分の中でしっかり葬った上でたまに遺品を眺めたり、
発掘されたように出てくる映像をこっそり観たり、
そうやって想っていたのにね。

未だ実感がないのは当たり前で、
3人揃った姿を見れるのはいつだろう、
夏のツアーまでお預けだろうか。

果たして本当に会えるのだろうか、あの3人に。


追伸

ねえ、あの頃のあなたの待っていた「_____」はどんなものでしたか?
報せを受け取って、どう感じていますか?
これを読む可能性は低いかもしれないけれど、
もし読んでくれたなら連絡をください。
久しぶりにお話ししたいなんて思っています。

いいなと思ったら応援しよう!