日本のTwitterは世論を反映しない?:データ分析から明らかにする選挙期間中のTwitter空間
イントロダクション
「ハッシュタグで連帯」、「Twitterデモ」という言葉をご存じでしょうか。Twitter上で政治的な意見がバーストし、一つの運動にまで進展することを言います。2020年5月に、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが何度もツイートされ、トレンド入りしたことを記憶している方もいらっしゃるでしょう。
Twitterは今や立派な政治プラットフォームになっています。誰でも自分の意見を表明できる貴重なメディアです。国会論戦において、Twitterでの言論が取り上げられることも珍しくありません。
それでは、Twitterでの言論は、世論を正しく反映しているのでしょうか? 実は海外では、SNS上の投稿やエンゲージメントが、選挙結果を予測するかどうかを明らかにしようとする研究が盛んです。これらの研究は、概ねSNSでの様子から選挙結果を予測することができることを明らかにしています(イギリス: Burnap et al., 2016, フランス: Wang and Gan, 2017, オランダ、ギリシャ、ドイツ: Tsakalidis et al., 2015, アメリカ: Heredia et al., 2018, パキスタン、インド: Jaidka et al., 2018, インド: Barclay et al., 2015, インドネシア: Budiharto and Meiliana, 2018)。
日本における研究:Twitterで政治的なツイートをしたのは7.7%
日本ではどうでしょうか? 筆者は、2021年10月に行われた衆議院議員選挙の際に、社会調査とTwitter調査を組み合わせた分析を行いました。
まず、社会調査の結果を見てみましょう。衆議院選挙が終わった直後、全国の700名の男女(割当は日本全国の年代分布に基づく)を対象に、インターネットによるアンケート調査を行いました。その中に、次のような質問を入れていました。
政治的・社会的な出来事に関する話題についてのTwitter利用についてお聞きします。10月(衆議院選挙期間中を含みます)を振り返って、平均してツイートをした回数について最も近い選択肢を1つお選びください。複数のアカウントをお持ちの場合は、各アカウントの利用状況の合計値をご回答ください。
この質問に対して、700名中646名(92.3%)が、「全くしていない」という選択肢を選択しました。政治的・社会的な出来事に関する話題についてツイートをしたのは、回答者のうちわずか7.7%の人たちでした。「Twitterは世論を反映しているか?」ということについて雲行きが怪しくなってきました。
日本における研究:半数以上のツイートが反自民党的
続いて、Twitterデータを見ていきましょう。上記7.7%の内訳を確認していくことになります。Twitter APIを用いて、投開票日前日の10月30日に投稿された、「自民」または「自由民主党」を含むツイートを網羅的に収集しました。選挙時においては、公示日以前及び投開票日当日は選挙運動が法律で禁止されています。従って、投開票日の前日が最も選挙関連の投稿が多くなった日でした。全部で59,576ツイートが集まりました。
これをどうやって分析するかですが、次のような方法を取りました。ご存じの通り、2021年10月の衆議院選挙は与党自民党の圧勝でした(図表1)。ということは、Twitterが選挙結果を予測するならば、自民党に言及したツイートは自民党に親和的なツイートが多くなるはずです。
ということで、筆者の研究チームは、上記の59,576ツイートについて、anti自民党、neutral、pro自民党の三つに分類することを目指しました。6万件近くあるツイートを人力で分類していくのは不可能です。そこで、「教師あり機械学習」という今流行りのディープラーニングの手法を使いました(1)。その結果が図表2の通りです。
pro自民党が一番少ない・・・!!! そして一番多いのがanti自民党でした。選挙結果と全く異なりますね。実はこうなることは予想されていました。というのも、SNSにはネガティブな情報が集まりやすいということがこれまでの研究から明らかになっていたからです(Fan et al, 2014; Tanihara, 2022)。そして選挙戦の文脈で自民党に関するネガティブな情報とは何かというと、anti自民党的な言説であるわけです。
これまでの情報をまとめると次のようになります。①選挙期間中に政治的なツイートを行った人はわずか7.7%、②その7.7%の半数以上は、自民党に対して否定的なツイートを行っていた。③この結果は、実際の選挙結果と全く一致しない。
なぜ日本のTwitterは選挙結果を予測しないのか?
それでは、どうして海外におけるSNSの状況と日本のTwitterの状況は異なるのでしょうか。それは、日本における自民党の立ち位置の特殊性にあるかと思われます。自民党は、憲政史上、1993 年から1994年及び、 2009 年から 2012年を除いて長い間与党の地位にいました。2021年の衆院選においても、選挙前の与党は自民党で、選挙後も与党であり続けることが予想されていました。そのため、有権者の選択は、必然的に「現政権を信任するかどうか」ということにフォーカスされます。アメリカやイギリスのように、保守政党かリベラル政党かを選択する選挙ではありません。こうした状況においては、前述のとおり、antiの方がアクティブになるのは必然です。というのも、ネガティブな感情がツイートの動機になるのであれば、現状の日本の政治に不満がある者は、自民党に対して否定的になるからです。
「ネット右翼」という言葉があります。日本では、保守的な人の方がネット上ではアクティブであるというイメージが強いかもしれません。しかし、選挙期間中のTwitterの様子を見てみると、必ずしもそうではないことが示唆されます。
脚注
(1) 具体的には、BERTとという自然言語処理分野におけるディープラーニングの手法を導入しました。BERTは2018年にGoogleの研究者が開発したもので、文章分類や機械翻訳をはじめとした自然言語処理分野における様々な記録を塗り替えました。
参考文献
Barclay, F. P., Pichandy, C., Venkat, A., & Sudhakaran, S. (2015). “India 2014: Facebook ‘Like’ as a Predictor of Election Outcomes.” Asian Journal of Political Science 23(2): 134-160.
Budiharto W, & Meiliana, M. (2018). “Prediction and analysis of Indonesia Presidential election from Twitter using sentiment analysis.” Journal of Big Data 5:1–10. https://doi.org/10.1186/s40537-018-0164-1
Burnap, T., Gibson, R., Sloan, L., Southern, R., & Williams, M. (2016). “140 characters to victory?: Using Twitter to predict the UK 2015 General Election.” Electoral Studies 41, 230–233.
Fan, R., Zhao, J., Chen, Y., & Xu, K. (2014). “Anger is more influential than joy: sentiment correlation in Weibo.” PLoS ONE 9(10): e110184.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0110184
Heredia, B., Prusa, J. D., & Khoshgoftaar, T. M. (2018). “Social media for polling and predicting United States election outcome.” Social Network Analysis and Mining 8:1–16. https://doi.org/10.1007/s13278-018-0525-y
Jaidka, K., Ahmed, S., Skoric, M., & Hilbert, M. (2018). “Predicting elections from social media: a three- country, three-method comparative study.” Asian Journal of Communication 29(3):1–22. https://doi.org/10.1080/01292986.2018.1453849
Tanihara, T. (2022). “The bias of Twitter as an agenda-setter on COVID-19: An empirical research using log data and survey data in Japan.” Communication and the Public.7(2): 67-83
Tsakalidis A., Papadopoulos, S., Cristea, A. I., & Kompatsiaris, Y. (2015). “Predicting elections for multiple countries using Twitter and polls.” IEEE Intelligent System 30(2):10–17. DOI: 10.1109/MIS.2015.17
Wang, H., Can, D., Kazemzadeh, A. et al. (2012). “A system for real-time Twitter sentiment analysis of 2012 US Presidential election cycle.” In: Proceedings of the 50th annual meeting of the association for computational linguistics, pp 115–120
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