監査対応のバイトのはなし
今日は、監査対応のうまいやり方みたいな話題をよく見かけたので書いてみる。
あまり時間をかけたくないので乱文である。
おれの得意な仕事のひとつに監査対応のバイトというのがある。正直、なぜそんなニーズがあるのかわからないところもあるが、世の中には、他人の立場とか都合とか事情とかに疎い人も多いようで、とりあえず、双方の話を聞いて落としどころを探してあげるという仕事はとても感謝されやすい。
とてもわりのいい仕事である。
監査対応のバイトは、監査法人の事情に通じている会計士にたいへんおすすめな仕事である。しかし、明らかに向かない人もいるので、最初にそれを書いておく。
会計士の中には、目の前に身内でない会計士が現れると、途端にそいつを言い負かすことが自分の使命だと思うバカがいる。とてもみっともないし、何も生み出さないのですぐに改めたほうが良い。
たぶん同じ理由で税理士が視界に入ると、途端によくわかんないことを言い出す輩もいるが、マジでやめたほうがいい。餅は餅屋だし、一見ろくな仕事をしていなさそうでも、クライアントから報酬をとれるやつには何かある。そこを侮ってはいけない。
税理士の中にはくだらないやつもいるが、本物のPROもいる。おまえは、それを決して忘れてはいけない。
特に、昨今よく在野で見かけるのは、大手監査法人が嫌になって辞めたようなやつが、監査法人憎さも相まって、こんな連中よりおれはずっとイケてるんだみたいな世界観で、監査法人をバカにしたくてしょうがないようなやつらだ。
後に述べることにするが、そういうやつは、監査対応という商売の仕組みを全然わかっていないので、よく考えたほうが良い。基本的に、人は使いこなしてナンボなので、有能そうなやつには頑張って働いてもらえばいいし、無能そうなやつには、それなりの仕事をしてもらえばいいだけの話である。
目の前の敵を打ち倒せば、自分が有能であることが証明できるとか勘違いしてる輩は、行動が自らを無能であると証明していることに、早く気づいたほうが良い。要は、みんなに気持ちよく働いてもらうことだ。そうすれば楽ができて評価もされる。
その他、人の発言の真意をくみ取る努力をしない人間、というか、そういう感性がない人間にもあまり向かない。
こういうタイプでなければ、あー、監査法人的には、こういうのが欲しいんだろうなあとか、会社としてはここで折れるわけにいかないよなあ、とかわかれば大体務まる。
一つ気をつけなければいけないのは、雇い主が被監査会社であることは事実だが、全てにおいてクライアントの都合を押し通すことが必ずしもベストではないということだ。
世の中には、監査法人さえOKであれば、大体何でもいいと思う人間も多いようだが、監査法人がOKを出しても、監視委員会にぶん殴られたり、あたまの悪い監査法人が審査会に激ヅメされてエラいことになったりするパターンがあるので、最悪の事態が発生しても経営陣のクビが飛ばない路線に誘導してあげることが時として重要になってくることがある。
おまえの身の安全を確保するうえでも重要だ。指南役になりたくないだろ?
そういう意味では、アウトとセーフの境目はよく理解していないといけないし、やっぱ、自分なりのポリシーみたいなものはある程度必要となる。
気をつけないといけないのは、ポリシーは持っても良いが、関係者とのコミュニケーションを絶対におろそかにしないことだ。
仕事のゴールを考えてみよう。
監査対応のバイトのゴールは、被監査会社と監査法人の双方を満足させることだ。よって、必然的にどちらも100%の満足ではない。そのバランスの取り方が上手ければ、双方から評価されるし、失敗すれば速攻クビになる。
まず、ここを必ず押さえておく必要がある。
次に背景について整理してみよう。
会計士であればよく理解しているはずであるが、昨今、監査法人は業務をこなすリソースが足りないし、その影響で、個々の練度も低い傾向にある。
元々才能があるやつは別として、普通のやつは、いまひとつ能力が伸ばせないような環境に置かれていて、、、話すと長くなるのでまとめると、要するに全体として仕事がちゃんとできないようなことになっている。
他方、被監査会社のほうといえば、これも色んな事情によるのだが、敢えて大雑把に言うと、昨今、監査法人側のスキルが高くないことも手伝って、内製化しないといけないナレッジやスキルが増えている。
そして、監査は厳格化、、というのは個人的には語弊があるような気がするんだが、、まあ、適当では終われないようなムードに支配されているので、あれやこれやと、要求される事項は増えている。
要するに、昔は通用したことであっても、いまは通用しない、そんな時代だ。
しかし、経理や会計がわかる人材というのは、2019年現在非常に採用が難しく、とんでもない給料を払わないと、なかなか戦力を増強できない状態にある。まあ、経理マンの採用問題について話をし出すと長くなるので、今回は割愛しよう。
監査対応のバイトは、結局クライアントファーストであるのは間違いないので、その視点から考えてみよう。
経理には戦力が足りないが、デキる人間を雇う予算もない。従って、監査対応のバイトはコスト面でメリットがある。
今まで、言われたことのない資料とかを要求されてよくわからないので、事情や歴史的背景を説明してほしがっている。会計とかわからない営業ばたの経営層に説明をしたりしないといけなかったりするし。
これは、本来監査法人がしっかりすればいい話だとは思うが、それをできない責任者クラス(M&P)も多いので、我々バイトマンがそこを補完することができる。
監査法人につかまると、肝心な経理の実務が進まないという問題があるが、よくわかんない監査法人の話を聞くのは、ラインに入っていない我々が行うので、決算が滞らない。
要するに、監査法人がよくわかんないこと言ってるんですけど?みたいなことを、うまく通訳し、監査法人が受け入れやすい説明や資料をサッと提示し、監査チーム(昨今ではなんらか不満とか心配を抱えているのが通常である)の、よくわかんない悩みとしか思えない談義を適当にこなして、経理マンが業務に集中できる状況におく、これが最低限のところである。
クライアントは味方ではあるが、もちろんパーフェクトではない。経理マンには体感、減点をさけることを重視する価値観の人もわりといるし、おれは会計士とかハイソな資格とかもってないけど、現場で叩き上げてきたんだ、みたいな妙なプライドがある場合も結構ある。
事実スキルが高ければ、それはいいんだが、中には、無駄に戦おうとするバカな奴もいたりする。あと、めんどくさいからなんにも言われたくないだけのやつとか。
ただ、不思議なもので、やつらは監査法人を敵視する一方、顧問の言うことには従順だったりするので、おまえが一言いえば、修正が入ったりすることもある。
おかしな経理マンを懐柔して、いい方向に導く、これはなかなか社内では消化が難しいなので、そこに商売の余地がある。
そこから、プラスアルファを作るノウハウを書いておく。いま思いつく限りだ。網羅はしていない。
・監査チーム、経理チームのスキルを把握しておく。
会計士諸兄の中には、抵抗がある人もいるかもしれないが、会計士の中でも会計に明るい人間というのは結構少ない。
従って、本当に難しい問題を持ち込むべきなのは誰か、ということはわりと重要で、特に一歩間違えれば会社にとって致命傷となる相談事というのは、会計に詳しいやつとディスカッションしないと意味がない。
監査チームメンバーの能力を査定し、問題の難しさに応じた持ち込み先を指定してあげること、これは、監査法人と被監査会社の両方にとってメリットがある。会計士なら、ウエがバカであり得ないことをアグリーしてしまった、という経験はあるだろう。
同じことは、経理サイドにも言えることであり、一見わかったようなことを言っていても、本質を理解しておらず、ひたすら自分の都合でものをいうようなやつを代弁しても、しょうがない。
簡単に言うと、話の分かるやつとそうでないやつを区別することが全体最適につながる。
・イケてないやつにやさしくする。
監査チームにまともな奴がいない場合、監査チームに任せていては通る話も通らなくなることがある。そういう気配を察知したら、審査等を意識した説明資料は作ってあげたほうが良い。
場合によっては、貼り付ければ調書になるようなものまでおれは作ることにしている。
分析も、G/L通査すればわかるようなことまで、無意味に聞いてくるやつとかいるので、準備してあげたほうが、色々早い。経理も働き方改革から逃げられない昨今、監査法人を早く帰らせることは重要だ。
なかには、間違った指摘をするやつもいたりして、経理サイドではそれを悩んでいたりする場合もあるので、間違いであることをプライドを傷つけないように指摘してあげると言ったことが必要になることがある。会計士であれば、これぐらいはわかって当然というのは、結構な割合で通用しないので、親切にレクチャーしてあげよう。
ただ、特に大手監査法人には、たまにめちゃくちゃ賢いやつとかが混ざっているので、最初から、こいつら雑魚だ、みたいに思うのは間違いのもとである。ちゃんと、スキルを把握しよう。
・信頼感をタテにたまに無茶を言う。
いつもまともなことを言っていると、監査法人からも信頼されてくるので、たまにはそれを悪用して「これ無理あるよなあ」ということをプッシュする事も重要である。これは、クライアントサイドのポイント稼ぎになる。ただ、クリティカルな問題ではできるだけやらないほうが良い。
常に無茶ばかり言っていると、監査法人からクレームだったり、あることない事言われたりして、仕事をうしなう可能性があるので、注意が必要だ。
ちなみにこれは、クライアント同席の会議とかで、いつになくアツくなって見せる、といった見せ方が最高の効果を発揮するとおれは考えている。
・勝手に決めない。
おおかた結論が見えていることも多々あるが、クライアントに結論を出した感を感じさせてあげることも重要である。たとえ、完全におまえが決めているようなケースであったとしても、クライアントを立ててあげることで、将来の報酬が約束されることが多々ある。
クライアントがまっとうな意思決定ができるように誘導してあげよう。
あと、マジでヤバいケースではこれがおまえを守る。所作として完全に身に着けておいたほうが良い。
・先回りする。
どうせ、監査法人の言いそうなこととかすぐわかる(よね?)ので、前もって、準備をしておくことは、監査法人と被監査会社の両方から、もしかして、この人は神なんじゃないか?みたいな評価されるポイントなので、できるだけ後手に回らないほうが良い。
地味だが、監査法人が忙しくて、依頼資料すら送ってこないケースもある(しかも大手だぞ)。そういう場合は、監査提出資料というリストを作ってあげて、なんなら提出予定日とか担当者とかも入れておいてあげると、色々とスムーズになる。あと、監査法人は平均2回は同じ資料をくれというので、出した資料をリスト化しておくのは、その対策にもなる。
最後に、「次からは、この監査提出資料リストに必要なものを加えて事前に送っていただければ、スムーズに対応できると思います。」とかやんわり注意しておくと、自分の仕事も減ってとてもいい。
また、明らかに監査手続きが漏れている場合(必ずある)、「こういう検討はいつされますか?」とか、忘れていることをサジェスチョンしてあげると、あとからめんどくさいことを言われるリスクをかなり減らせる。
ちなみに、おれの経験上、監査法人がすぐ忘れるのは、期中除外の除外時点F/Sの検討(売却損益がP/Lに跳ねるし、P/Lはそもそも連結するから)とかである。特に売却が急に決まったりすると、そもそも監査法人が知るのが遅くなったりして、すごくいまさらな段階で、往査に行かせてくれとか言い出す場合もある。特にデカい会社は注意しないといけない。
そういうことにならないように、この手続きを実施したいならこのタイミングしかないですよ、とかは、マジで親切ベースで言ってあげたほうが良い。
見ないなら見ないでいいや、というのは後に会社の首を絞める場合が多々ある。
クライアントもあまり先が読めていない場合もあって、次に監査法人が何を言い出すのか、と戦々恐々とするようなケースもある。そういう場合は、この決算の争点はここになるでしょう、といったことは前もって教えてあげたほうが良い。猶予があれば動かせることは結構ある。
・前もって決算を固める。
かつては、監査法人内でもよく言われていたことだが(今でも言われているかもしれないが)、決算月後に、会計処理方針を決めているようでは、スムーズに仕事などできるはずがない。例えば、3月決算であれば、3月中に、決算をほぼほぼ固めておかなければ、終わるわけがない。
理想は、4月以降は調書を書くだけ、という状態にしてあげることである。会社にとっても、想定外の事態を減らせるのでとても都合がいい。
・減損とかは1年後に行うものを見繕っておく。
上記とも関連するが、予算というものがあるので、決算数値を見てから減損を決めているようでは色々と厳しい。予算策定段階で、次に減損しなければならないであろうものを、会社に認識させておくとよい。
しなくて済んだら、それはそれでバッファーができるので良い。色々と使える。監査法人も、なんかスムーズにいったなみたいに思ってくれるが、あまり恩着せがましくアピールなどはしないほうがいい。
・迅速に対応する。
開示とかでありがちであるが、原稿に手書きでメモって、直して送ります、みたいなやり方をすると、経理の人はほかの仕事もあったりするので、それだけで1日かかったりする。
きょう日、開示のエディターはASPでノーパソでも使えるので、講評の場で、聞きながら即直して、対応するぐらいでもいい。(関係各位の了解が必要なものを除く)
また、開示については、修正箇所を提示しない会社もあるが、修正作業をしながら修正箇所を記録するのはごく短時間でできるのに対して、修正前と修正後を比較して、内容を把握するのはすごく時間がかかる。
ホンのひと手間で、仕事はとても早く、ミスなく終わるようになる。
・たまに飲みに行く。
まあ、育ってきた時代によるが、監査法人がクライアントと会食するというのはなかなか大変だったりもする。その点、我々はクライアントの人間ではない(と、言えなくもない)ので、仮に飲み代を全額出したとしても、接交費でバレたりすることはない。監査法人も安心だ。
また、昨今の監査法人事情を把握しておくことは、我々の業務上重要なことである。監査法人が気兼ねなく飲みに行ける存在であろう。投資とか営業の一環と考えてもいい。
・あだ名をつける。
世の中にはまじめなクライアントというのもいるもので、会計士を面白おかしいやつらだとか思ってはいけない、みたいな会社もある。ただ、実際は面白おかしいやつらなので、あだ名とかをつけて、ハードルを下げてあげると、途端にいい雰囲気になることもある。
まあ、くだらないマメ知識だ。
・根回しをする。
これは、今まで言ってきたようなことを実践して、双方から信頼を得た場合にだけ許されるワザである。
クライアントが無茶を承知で、ワンチャン狙いの主張をしようと考えている場合で、おまえはそれを通すべきでないと考えるのであれば、予め、監査法人に、こういう話題が出るから、その場で却下して差し支えない、といったことを伝えておくと上手くいく場合がある。
ただ、その際に、「先日○○さんと打ち合わせさせていただいたのですが…」みたいな事を言われると、おまえはいったい誰の味方なんだ?みたいな話になり、一瞬で立場がやばくなったりするもろ刃のつるぎである。
逆もあって、社内的な力学でどうにも動かせない問題がある場合に、監査法人から指摘をさせて、「監査法人に言われたんだからやらざるを得ない」みたいなストーリーを仕立てることもできる。
誰も悪くない、でも監査法人がうるさいから仕方ないんだ。これはわりと好まれる筋書きである。
その代わり、おまえは監査法人をたまに「しっかり見て頂いて安心感ありますよね!」とかフォローしておく必要がある。おまえが信頼されていれば、おまえの評価は社内で重要視される。
書いてきた通り、コミュニケーション能力はかなり必要になるし、全体感というか、大局観というか、そういう能力はあったほうが良い。ただ、それさえあれば、わりと簡単で人に喜ばれる仕事だ。コミュ力というとなんかそびえたつハードルみたいな感じもするが、話が分かる人間であり、人に情報をおおむね正しく伝えられさせすればいい。ただ、ずっとムスッとしているとかはあまり良くない。
仕事がちゃんとできているかどうかのバロメーターは簡単で、監査法人から「○○先生はずっとこのクライアントに関与していただけますか?」といったような発言がでれば、おまえの評価は相当に高いので安心して良い。クライアントも監査法人に頼られるセンセイに来てもらっていると、若干プライドをくすぐられるので効果は抜群だ。
会社の評価は、安定して金をもらえているかどうかなので、あまり気にしなくていい。ダメならすぐクビになる。
なお、バイトといったが、それは何というか暗喩みたいなことであり、ただ単にニッチでカネを稼ぐということであって、おれの仕事が本質的に必要なのかというとそこには疑問がある。
できれば、監査対応のバイトが必要ない世の中であってほしい。
これはおれの願いである。
誠にありがたいことに、最近サポートを頂けるケースが稀にあります。メリットは特にないのですが、しいて言えばお返事は返すようにしております。