一時的にでも手にしたものは手放したくない?「保有効果」の視点から見た職場づくり
あなたは、
古いけど、なぜか捨てられずに
今でも大切に使っている物ってありますか?
私が持っている物で、
一番古いものは、
とあるキャラクターのイラストが
裏面に描かれている小さな手鏡です。
詳しくは覚えていませんが、
諸事情で小学6年の夏に
転校することになり、
その時の友達にもらった物だったと
記憶しています。
その手鏡、
私が大人になっても
いつの間にか化粧ポーチに入っていて、
数十年たった今でも時々使います。
おそらく、これからもずっと大切に
使うと思います。
このような心理傾向を行動経済学では
「保有効果」と呼ぶようです。
「保有効果」とは?
「保有効果」とは、
一度自分が手にいれたものに対して、
本来の価値よりも高い価値を
感じてしまう思考のクセ(=バイアス)
のことをいいます。
例えば、
従業員が長年使っている
パソコンやデスクなど、
会社から支給された備品に対しても、
強い愛着心を持っていることがあります。
さらに、
物品だけに限らず、
自分が手に入れた
役職や社会的地位に対しても
保有効果が働くとも言われています。
おもしろいところでは、
無料おためし期間で使ってみたり、
試着してみたりしただけで
保有効果が働いたり、
オークションで落札まであと一歩
という状況になったところに、
他の人がさらに高い金額を入札してきた
ようなケースでも
保有効果が働くという
実験結果もあったりします。
つまり、完全に手に入れていなくても、
一瞬でも自分の支配下に入ったと
感じてしまうと保有効果が働きやすい
ということです。
「保有効果」が人事にもたらす影響
この「保有効果」は、
人事の様々な場面で影響を
与えることがあります。
例えば、
新しい制度への抵抗
新しい働き方改革や
人事評価制度を導入する際、
従業員が既存のやり方に固執し、
変化を拒むことがあります。
⇒これは、
現在の働き方や評価方法を
「自分のもの」と捉えているため、
新しい制度への移行を
心理的に受け入れがたいからです。退職への抵抗感
長く勤めた従業員ほど、
会社に対して一定の愛着心を持ち、
退職への抵抗感を示すことがあります。
⇒これは、
会社を「自分の居場所」と捉え、
それを手放すことに対する
抵抗感を感じるためです。古い物への執着
会社から支給された備品が古くなって、
新しい物に入れ替えられた場合、
従業員は一時的に、
新しい物を受け入れようと
しないことがあります。
⇒これは、
自分の「もの」が
奪われたように感じ、
喪失感を抱くためです。
経営者が知っておくべきこと
「保有効果」は、
誰もが持っている損失回避性
(プロスペクト理論)に
依拠している効果で、
自分が保有しているものを
手放すことを損失と感じることから、
損失は避けたいという心理が働く
ことにより生じます。
些細な問題のように思えますが、
保有効果は従業員のモチベーションや
組織全体の活性化に
大きな影響を与えます。
経営者は、この心理傾向を理解し、
人事施策に活かすことが重要です。
まとめ
行動経済学の「保有効果」は、
従業員の行動や心理を理解する上で
非常に重要な概念です。
経営者は、
この心理的なメカニズムを踏まえ、
従業員が働きやすい環境づくりに
取り組むことで、
組織全体の活性化に
貢献することができます。
【注意】
※行動経済学は万能ではありません。
人それぞれ価値観や
思考回路が異なるため、
必ずしもすべての従業員に
有効な施策とは限りません。
また、
状況や組織文化によっては、
かえって逆効果となる場合も
考えられます。
行動経済学は、
あくまで一つのツールですので、
行動経済学を活用する際には、
自社の状況や従業員の特性を
しっかりと把握し、
柔軟に対応することが重要です。