【勝因】『全方位型サッカーの安定感』~ラ・リーガ第9節レアル・マドリードVSバルセロナ~

2022-2023 ラ・リーガ 第9節
10/16 @サンティアゴ・ベルナベウ
レアル・マドリード(3-1)バルセロナ
12分 カリム・ベンゼマ
35分 フェデリコ・バルベルデ
83分 フェラン・トーレス
90+1分 ロドリゴ・シウバ・デ・ゴエス(PK)

試合を選んだ理由

レアル・マドリードとバルセロナが対戦する世界的なライバルマッチであるエル・クラシコ。今季のリーグ戦での1戦目として行われた第9節は、レアルが3-1でバルセロナを下した。レアルの強さとは一体何なのか。それを知るべく、観戦することにした。

スタメン

全方位型サッカーの安定感

レアルの強さを一言で表すなら、安定感という言葉を選びたい。

それはなぜか。

ボール保持、ボール非保持、カウンター、ポゼッション。これら4つをチームとしてハイレベルにこなすことができるから。

キックオフすると、バルセロナがボールを握る展開で進んでいく。選手たちはシャビ・エルナンデス監督が整備した立ち位置を取って、GK、CBからしっかりと丁寧にパスをつないでいき、タッチライン沿いに立ったウイングが仕掛けてゴールに向かった。

対するレアルは、最初にカリム・ベンゼマとヴィニシウス・ジュニオールを先頭に[4-4-2]の形からハイプレスを掛けに行く。バルセロナからボールを取り上げようと勢いを持って奪いに行くも、試合開始から5分ほどで辞めた。[4-4-1-1]で構える守備に移行する。

レアルもボールを握るために、相手のボールを奪いに行ったのかと思ったが、ボールを持たれることを受け入れた。しかし、これは持たれるのではなく、持たせたのだった。

ルカ・モドリッチがインサイドハーフのポジションを飛び出して、バルセロナのアンカーを務めるセルヒオ・ブスケツを徹底的にマンマークした。執拗にマークすることによって、中盤の底でビルドアップの方向転換を務めるバルセロナの舵取り役を封じ込める。モドリッチでバルセロナの左右に揺さぶるビルドアップを弱体化させながら、トニ・クロースとオーレリアン・チュアメニでハーフスペースを埋めた。ハーフスペースを封じることで、バルセロナが狙っている中央に引き付けて空いたサイドに展開して、突破力のあるウイングが1対1の局面をドリブルで突破するという攻撃をやらせない。

中盤の3選手の働きによって、バルセロナに中央を使わせず、外回りのパスを出させたのだ。

中央を閉ざされたバルセロナはCB→SB→WGというパス経路で前進するしかない。WGにボールが渡っても、そこには対人守備に定評のあるダニエル・カルバハルとフェラン・メンディというSBが待ち構えている。バルセロナのWGを務めるハフィーニャとウスマン・デンベレは、相手が準備を整えた状態でドリブルを仕掛けていくことになり、局面を打開することができない。レアルがボールを持たず、相手の長所と思惑を打ち砕くことに成功した。

そして、レアルが12分に質の高いカウンターで試合を動かす。

自陣ゴール前で相手のクロスをカルバハルがカットし、自陣左サイドのヴィニシウスを経由して、ボールはクロースに渡る。この時点でまだ自陣から抜け出せてはいなかったが、前を向いた背番号8はドリブルで前進。相手に囲まれながらも、抜群のキープ力を生かして敵陣に進入すると、相手3選手を引きつけて倒れながらスルーパス。これに抜け出したヴィニシウスがPA左から放ったシュートはGKにストップされるも、こぼれ球をベンゼマが押し込んだ。

その後もバルセロナがボールを保持しながら攻めあぐねていると、レアルが35分に追加点。ヴィニシウスが激しいプレスで相手のクリアミスを誘い、敵陣でボールを奪う。彼に付いていくように駆け上がったチュアメニ、メンディとつないで、バルベルデが地を這うミドルシュートを左スミに決めた。

前半はレアルがボール非保持でバルセロナのリズムを狂わせ、カウンターで2点を刺した。

後半は追いかけるバルセロナが逆襲のためにプレスを掛けたが、空転してしまう。バルセロナが発動したハイプレスによって、中盤が間延びしたのだ。優れた技術を持つ選手の集団であるレアルは落ち着いてパスを回してプレスをいなしていく。特にモドリッチ、クロースのプレス回避力がずば抜けている。相手の重心の逆を突くドリブル、ボールを相手から隠すようにしてクルクルと回るターンで、ボールを奪われない。2人に囲まれても、お構いなし。ドリブルでのキープができないと判断するや否や、正確な1タッチパスでフリーの味方にパスを付ける。

モドリッチ、クロース以外の選手も基礎技術が高く、安易なミスをしない。しっかりと味方にパスをつないでいく。52分にはハーフウェイライン付近の左サイドでモドリッチが巧みなターンからのアウトサイドパスで3選手の間を掻い潜ってパス。ヴィニシウスが右サイドにロングボールを蹴り込むと、これ受けたベンゼマが切れ込んで左足を一閃。シュートはGKの手を弾いてネットを揺らした。しかし、サイドチェンジを受けたベンゼマのポジションがオフサイドだった。

突き放しに失敗したレアルは、バルセロナの鋭いネガティブトランジションを食らい、即時奪回を許してしまうと、83分に失点を喫した。途中出場のアンス・ファティが左サイドを突破して折り返したボールをフェラン・トーレスが押し込んだ。

1点差に詰め寄ったバルセロナが同点、ないしは逆転に向けて勢いを出していくと思われたが、レアルは大人なサッカーができる集団だった。試合終了間際、バルベルデが相手の背後に広がったスペースにパスを蹴り込むと、途中出場のロドリゴ・シウバ・デ・ゴエスがドリブルを仕掛けていく。PA右に進入したロドリゴがエリック・ガルシアに倒されてPKを獲得し、これを自ら沈めた。

レアルがバルセロナを下し、今季無敗を継続。尖ったストロングポイントがないけれど、目立ったウィークポイントもない。どういう状況でも、どういう局面でもチームとして相手を上回ることができる。保持、非保持、カウンター、ポゼッションで成り立つ巨大な正方形のようなレアルの安定感が強さの秘訣だと感じるエル・クラシコだった。

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難波拓未|サッカーライター
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