【レビュー】『エースの勝負強さが輝き、チームの底力で掴んだ勝点3』~第35節ファジアーノ岡山vsいわきFC~
試合結果
スタメン
総力戦で手にした値千金の勝利
6位・岡山と8位・いわきがシティライトスタジアムで激突した。両者の勝点差は「4」。一方はプレーオフ圏内を死守するために。もう一方はプレーオフ圏内に肉薄するために。激しい火花を散らしながら、残り4試合で迎えた大一番が幕を開けた。
主導権を握ってゴールに向かったのは、ホームの岡山。シャドーとWBの連係でサイドの深い位置に進入していく。特に効果的だったのが、右サイドから左サイドへのダイナミックな展開だ。木村太哉と本山遥が右サイドでタメをつくり、同サイドに圧縮する相手選手を引き寄せると、ボランチを経由して逆サイドでフリーの末吉塁へ。背番号17が俊敏性を生かしたドリブルでマッチアップする五十嵐聖己を切り崩した。
鋭いサイド攻撃を仕掛け続ける中、末吉が獲得したCKから均衡を破る。14分、田部井涼がゴール前に送ったボールは相手GKに弾かれ、こぼれ球を拾った藤田息吹が低く抑えたミドルシュートを放った。これも相手DFにブロックされたが、PA内に転がったボールを岩渕弘人が左足一閃。強烈なシュートがネットに突き刺さった。
岡山は21分にもセットプレーから追加点を奪う。4試合ぶりに先発した一美和成が華麗なターンで獲得したFKを、田部井が左足で直接狙う。壁を越えてから急激に落ちる軌道でゴール右スミを捉えたシュートは相手GKの好守に防がれた。しかし、またしても岩渕が押し込んだ。
こぼれ球への反応が尋常じゃないほど速かった。「自分が決めてやるんだ」という強い気持ちを感じる2ゴール。それも、そのはず。岩渕にとって、いわきは大卒後に加入して4シーズンを過ごした特別なクラブ。いつもは得点後に全身で喜びを大爆発させるが、どちらも両手を挙げて古巣へのリスペクトを示した。とびきりの笑顔は浮かべながら。
黄金の輝きを放つ背番号19に引っ張られるように、岡山の選手が躍動していく。ボールを奪った後にゴールを目指すプレーも、ボールを失った後に相手を囲んで奪い返すプレーも非常に速い。少ないタッチでのパスがテンポよくつながり、湧き出てくるように後ろからボールを追い越す。シームレスに攻守を展開し、リードを2点に広げた後も相手陣内でのプレーを増やした。
防戦一方のいわきは、前半終盤にカウンターから山口大輝、谷村海那、熊田直紀がそれぞれシュートシーンを迎えたが、どれも精度を欠いた。
後半は追いかけるいわきが2枚替えと布陣変更をしてスタートした。大森理生が3バックの中央に、スピードが武器の加瀬直樹を右サイドに起用。中盤が山下優人を頂点とする逆三角形になり、谷村と熊田が2トップを構成し、両WBのベースポジションを高くした。
田村雄三監督が施した変更は効果てきめんだった。2トップが岡山の3バックを押し下げ、3人の中盤が数的優位の状況でセカンドボールを拾い、WBが前向きに仕掛けていく。
岡山は[5-2-3]で対応していたが、56分に1点を返される。木村太哉が加瀬を倒して与えた右FK。山下の鋭いキックがゴールに向かってくると、大森にバックヘッドを決められた。
木山隆之監督は自陣での守備を強いられる状況を踏まえ、一美に代えてルカオを投入する。191cm90kgの背番号99が有する推進力で押し返しを図り、木村も右サイドへ抜け出す動きで陣地回復役を担った。
後半の中盤に差し掛かると、ピッチ内の激しい戦いに呼応するように、両チームのベンチワークも活発に。いわきが64分に大西悠介を投入して再び布陣を[3-4-3]に変更すると、岡山は70分に神谷優太と太田龍之介を同時に送り出した。
その後は一進一退の攻防が続く。いわきがロングスローを含めてサイドからクロスを放り込み、岡山は長身のルカオと太田も自陣に戻って跳ね返し、GKブローダーセンも勇気を持ってクロスに向かっていく。88分には空中戦にめっぽう強い柳育崇と、古巣対戦の嵯峨理久が入った。
いわきがロングボールを放り込み続ける中、バイタルエリアで競り勝ち、17ゴールの谷村がボックス内に抜け出す。しかし、ここに立ちはだかったのが柳育崇だった。しっかりと体を寄せ、スライディングでブロック。これにはGKブローダーセンもすぐに駆け寄って健闘を称えた。5分のアディショナルタイムも、ファジレッドの背番号5がことごとく跳ね返し切った。
2‐1の勝利を告げるホイッスルが鳴ると、9,960人が駆けつけたスタジアムが沸き立ち、岡山のベンチ前にはスタッフと選手による歓喜の輪ができた。90分を通して先発した選手も、途中出場した選手も、力強く、たくましく、勇ましく戦い続けた。勝点3が必須の試合をしっかりと勝ち切り、プレーオフ圏内を全員の力で死守した。
ここぞの試合でパワーを出し切る。望んだ結果をつかみ取る。いつもより長い2週間という準備期間があったとはいえ、前節の悔しい敗戦からしっかりと立ち上がり、その姿勢を結果で示す。チームとしての底力を感じる90分だった。