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「技術はあるのに産業は作れない」をまた繰り返す?

最近、研究開発系のスタートアップを意味する「ディープテック」という言葉や、大学発ベンチャーなどが注目されるようになってきました。

ただ、最近の取材の中で、まだまだ日本は新しい科学技術を産業化することが苦手なのだろうな、と感じてしまう出来事が続きました。先日、都内の某有名大学に所属する先生とお話ししていたときのことです。

その先生は、日本はもちろん、世界的に注目されている、ある科学技術の領域で世界トップクラスの成果を出している研究者でした。まだ産業化には遠いものの、既に世界ではスタートアップ企業なども続々と登場し始めている注目分野です。

実は今、その先生の研究領域の中で、世界規模で「人材の取り合い」が発生しているのだと言います。

噂レベルではあるものの、日本の大学や研究所に所属する研究員にも、海外のスタートアップなどから「引き抜き」のオファーが届いているのだとか……。当然、そういったスタートアップは、VCなどから多額の資金調達をしているため、給料や待遇もかなり良いそうです。将来の見通しがそれほど明るいとは言えない日本の若手研究者にとっては、非常に魅力的なオファーだといえます。

せっかく世界トップクラスの研究をしていても、人材が外に出てしまえば、産業化するフェーズで国内に技術が残りません。なんとしても国内に研究者をとどめておきたいところですが、国内の企業で産業化を目指す……という道も明るいわけではありません。

この先生の話によると、この分野では博士号を取得する学生の数自体はそれなりにいるものの、卒業後に企業で同じテーマの研究開発を続けられるケースは非常に少ないのだといいます。

企業研究者は企業の利益のために研究開発をしなければなりません。そうなったときに、10年先の産業のための研究に投資しようとしている企業は限られているのが現状です。

もちろん、研究人材の価値は、特定の専門分野に留まるものではないということは理解していますし、ある程度余裕がなければ投資ができない企業の事情も分かります。ただそれでも、次の産業として世界的に期待されている分野の専門人材の使い方として、日本の仕組みが果たして適切なのか、考えてしまいました。

失われた30年の間には、こうやって世界トップクラスの科学技術が国内の産業に結びつかずに時間だけが経ってしまったのでしょうか。このまま同じ道筋を辿ってしまいそうでなりません。


※こちらはBusiness Insiderの無料会員用に用意したコラムです。三ツ村は金曜担当として、日々の取材で見聞きしたことや面白い研究論文などについて解説することが多いです。
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三ツ村崇志/Business Insider Japan 副編
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