E資格試験2024年シラバス改訂について出題傾向の変化と対策をまとめてみました
2024年#2(8月30日~9月1日開催)のテストからE資格試験のシラバスが改訂されます。
参考:E資格の試験出題範囲シラバス E2024#2(第1.1版)
このシラバス改定に伴い、多くの小項目がオプション(出題対象外)へと変更され、深層学習に特化した内容になることが予想されます。
この記事では、シラバス改訂によって各分野の出題内容がどうなるかを予想し、その背景にあるAI分野の動向についても少しだけ考察していきます。
数学
※灰色の項目が今回の変更で出題対象外となった項目です。
線形代数のすべてと確率・統計の一般的な確率分布についての分野がオプション化されました。
機械学習
回帰やクラスタリングなど一般的な機械学習手法についてオプション化されました。
数学及び機械学習分野では半分近い項目がオプション化、つまり出題範囲が大幅に削減されています。
これらの分野は「最新のAI分野では不要になったレガシーな知識」というよりは「基礎のためあえて問う必要がない基本的な知識」といったところでしょうか。
実際、AIや深層学習分野の多くの論文が確率や統計の知識を前提とした内容になっており、重要性は全くと言ってよいほど低下していません。
また、Kaggleの数値予測コンペでは LightGBMなど決定木系の手法がまだまだ使われており、数値解析分野においてディープラーニング以外の機械学習分野がレガシー化するのは当分先になると考えられます。
E資格試験においては出題されない分野となりますが、実務や勉強の両面において役立つ知識が多々ありますので、よろしければチェックしておくことをお勧めします。
深層学習(基礎、応用)
音声学習分野がバッサリと削除。
また、2022年に追加されたばかりの「グラフニューラルネットワーク」「能動学習」「メタ学習」がオプション化されることとなりました。(グラフニューラルネットワークについてはシラバスに載ってすらいません)
一方で画像系・自然言語系の分野についてはほとんど範囲削減がありません。ただし内容については少しずつアップデートされています。
各分野でやや古くなった内容が縮小・一部削除され、代わりに同分野の最新の手法や今後発展が期待される内容が追加されています。
この傾向はE資格試験全体で表れているのですが、以下に述べる通り画像系は特に顕著です。
(1)画像認識
CNN系の画像認識手法が「ResNet・WideResNet」を中心にまとめられました。
代わりに Vision Transformer(ViT)の小項目が追加されています。
ViT とは2020年にGoogleが発表した画像認識手法で、畳み込みによる局所的な情報の抽出を行わず、Transformerの手法を用いて画面全体から物体を判定していきます。 画像認識モデルにおいてCNN系の既存手法を上回り一躍SoTA(その時点での最先端レベルの性能をもつモデル )となったことで大いに注目を集めました。
(2) & (3)物体検出
2022年版ではひとまとめにされていた「物体検出」と「セマンティックセグメンテーション」がそれぞれ小項目に分割。
「わざわざ独立させた」=「重要性が増している」と考えることができ、 FCNやU-Netなどセマンティックセグメンテーションの問題が増えると予想されます。
(4)自然言語
この項の冒頭で説明した通り「グラフニューラルネットワーク」が削除。
一方で深層学習の基礎の大項目の中で、「Transformer」が独立した項目として分割されました。
Transformerは自然言語分野において使われる手法でしたが、近年はその汎用性が認められ様々な領域で応用されています。たとえば先に挙げた画像認識タスクにおけるViTの他に、時系列データ解析や音声解析などです。
TransformerをE資格試験シラバスにおいて「深層学習の基礎」と位置付けたことは、 Transformerおよびそれらの応用手法に対する期待の表れを感じ取ることができます。
(5)音声処理
先述の通り、すべてがオプション化。さらにはデータ拡張の項目でも「音声のデータ拡張」だけが削除されてしまいました。
(6)生成モデル
2024年改訂では「スタイル変換」がシラバスから記述自体を削除されています。
内容的にはCycleGANと重複しておりわざわざスタイル変換のみを取り上げる必要はないという判断でしょう。
それ以外はあまり変化はなさそうです。
(7)強化学習
AlphaGOがキーワードから消えていますが、DQNに統合されただけで全体としてはあまり変化はありません。
開発・運用環境
分散処理の小項目「連合学習」がオプション化した程度であまり変化はありません。
具体的な内容としては「軽量化」「高速化」「並列化」など、莫大な量のデータセットや計算コストに対しての対応策が並んでいます。
実務において深層学習を用いたAIシステムを構築する際にはAIの「認識精度」自体ももちろん大切なのですが、それと同様に「速さ」や「軽さ」もまた課題となります。「リアルタイムでAI判定を行いたい」「複数のカメラ映像を並列で画像処理したい」「低スペックのPCでAIを動作させたい」など、使用環境によって要求される事柄は様々です。
これらの分野は深層学習が増えるこれからの時代にますます重要さを増していくと考えられますね。
まとめと予想
E資格試験2024年改訂をまとめると以下のようになりました。
削減された分野
数学
機械学習
音声系の深層学習
ほぼ削減なしの分野:
深層学習の基礎
画像系・自然言語系の深層学習
生成モデル
強化学習
開発・運用環境
削減された分野の設問は他分野の設問に割り当てられるため、必然的に「ほぼ削減なしの分野」の問題に比重が増すこととなるでしょう。
では、これらの中で特に重要視されるのはどの分野の問題か?シラバスの変化やAI業界の動向から予想をしてみました。
①深層学習の基礎
シラバスの冒頭に【シラバス改訂のポイント】として「機械学習並びに深層学習の基礎アルゴリズムの理解に特化」との記述があります。
E資格試験としても、流行や技術発展で日々変化・多様化していく応用分野より陳腐化しにくい基礎分野を重視していくのはある種当然とも言えるでしょう。
②画像系・自然言語系の深層学習
画像処理および自然言語処理を行うAIは、BtoBの製造業からBtoCのサービス産業まで幅広い業界で急速に導入が進められています。
また近年は与えられたデータを解析するだけでなく AIが自分でそれらのデータを作成する「生成AI」の発展が目覚ましいですが、そのメインとなっている分野がこの2分野でもあります。
汎用性と発展性を持つこれらの分野がE資格試験でも重視される可能性は高いと考えられます。
③開発・運用環境
E資格試験が深層学習に特化していくということは、必然的に計算量増加は避けられません。
また①の深層学習の基礎と同様に、技術進化による陳腐化が比較的発生しにくい分野であるとも言えます。
以上が E資格試験2024年改訂について出題傾向の変化の予測および対策でした。最後までお読みいただきありがとうございます。
あくまで一個人が考えた予想ですが、この記事が皆様の学習の一助になれば幸いです。