2020年最高だった映画たち
今年も終わりですね。未曽有のパンデミックがあったこともあり、大作映画は軒並み公開延期。3月から6月くらいまではぱっくりとあいてしまっています。こんなに公開が少なかった年もないんじゃないでしょうか。仕方ないことですが、悲しいですなあ。
ただ、それでもやっぱり面白い作品というのはあるもので、今年よかった映画を少しでも紹介していこうかと思います。GO TOも停止されたことですし、外食もなかなかしづらい状況なので、配信されてる作品を見てはどうでしょうかね。私には一銭も入らないので、なぜ推薦してるのかわかりませんが。
でも、書いてみたら少しとか言って1万字を超えたんですが、どういうことですか。水増し請求ですか。わたしは桜を見る会をまだ許してないし、モリカケも絶対に許しませんし、トランプ=源義経説を信じています!それではいってみましょう!これを読んで年を越してください!よいお年を!
パラサイト
元旦に見て「あ、これは今年ナンバーワンの映画だ」と思ったのですが、その予感は的中し、そのまま俺オブザイヤーの映画に君臨。俺の1位になっても仕方がないと思いますが、おめでとうございます。ストーリーは「半地下」に住む貧乏家族がひょんなことから金持ち家族のところで働くことになり、彼らは徐々にその家へ浸透していって「パラサイト」していくことになるのだが……というもの。経済格差が一応のテーマになってはいるのですが、その単一のテーマにとどまらず、ミステリー、バイオレンス、コメディ、エログロをごちゃ混ぜ。ここまで要素が混在していると普通はまともな作品にならないのだけれど、監督のポン・ジュノはそれを見事に融合してエンタメと文学のジャンルにはまらない唯一無二の映画を作り出しました。前半のコメディ展開から中盤以降の怒涛の展開は圧巻。しばらく出ないんじゃないですかね、こんな映画。世界で5本の指に入る俳優ソン・ガンホを始めとするキャストも魅力的で、本当に韓国映画のパワーを感じさせてくれるような作品でした。カンヌのパルムドールとアカデミー作品賞・監督賞の受賞も当然と思えるくらいの素晴らしい仕上がり。名場面を上げればキリがないのですが、個人的に思い出すのはお母さんの腰の入ったキックです。笑う場面ではないのに死ぬほど笑ってしまって、ああ、これは本当にすごい映画だと思いました。正月明けの1月8日に金曜ロードショーで放送されるらしいのですが、大丈夫か!平和なお茶の間に、これは大丈夫か!お父さんは心配です!
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1/1からはNetflixでも!
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これがいいなら『グリーン・インフェルノ』も地上波で流そう
ヘヴィ・トリップ
予告編のサムネがひどい!!しかし、映画自体はもっとひどいぞ!年始早々から爆笑してしまった北欧メタル映画。フィンランドの田舎町に住む主人公トゥロは「終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル」を標榜するメタルバンドのボーカル。しかし、12年も活動しているのに、ライブ出演は0、オリジナル曲も0。そんな彼らは一念発起してオリジナル曲を作り(偶然できる)、ノルウェーの巨大メタル音楽祭を目指すのです(呼ばれてない)。全体を覆う脱力感がフィンランド映画っぽく、牧歌的な雰囲気の中で唐突にとんでもないことが淡々と行われるのでどうしても笑ってしまいますね。大監督アキ・カウリスマキの映画も淡々として独特なんですが、フィンランド人ってみんなこんな感じなんでしょうか。そんなわけはないと思いますが、そうだったとしてもこちらは困らないのでそういうことにしましょう。苦難の末(?)に辿り着いたライブ会場の映像は必見。熱狂した観客たちがリフトするものを見れば、笑いながら崩れ落ちることでしょう。
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※『ヘヴィ・トリップ』の一場面です
エクストリーム・ジョブ
こちらも『ヘヴィ・トリップ』に負けず劣らず腹を抱えて笑ってしまった韓国映画です。ダメダメ麻薬捜査チームが、ヤクザたちを監視するために向かいのチキン屋を買収してそこを偽装して経営を始めます。しかし、絶対味覚を持つ刑事がいたおかげでチキン屋は大繁盛して捜査どころではなくなり、というアホすぎるスタートの映画です。映画内のあらゆる箇所にドリフ的な笑いが散りばめられており、3分に1回は笑わせられるというある意味では地獄の2時間。長い長いコントを見せられているようで、ほんとに腹筋がどうにかなるかと思った。展開も序盤の捜査失敗コメディ、途中の成り上がりチキンストーリー、終盤のアクションシーンときっちり分けて中弛みなし。笑いだけでなくラストでキメるところはきっちりとキメるエンタメの王道のような作品でした。韓国では『パラサイト』よりも興行収入が上だったとか。まあ老若男女全員が『パラサイト』を見る国とか絶対いやなんですけど。週末の夜に酒でも飲みながらゲラゲラ笑ってみるのがよいのではないでしょうか。メチャクチャにチキンが食べたくなるので、あらかじめ用意しておくのが正解です。
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笑うしチキンは出てくるし腹が減る!
フォードVSフェラーリ
フェラーリに勝てるレーシングカーをフォードが開発する。そのために雇われたマット・デイモン演じるシェルビーは、ドライバーとしてクリスチャン・ベールが演じるマイルズを招へいする。そこからの試行錯誤と戦いを描いた映画です。しかしそれはフェラーリとの戦いだけではなく、フォード社のお偉方との戦いでもあり……。結局、車を作るというのは単に物理的に作ればいいというわけではないのです。世の中のほとんどの製品は人が関与しているのであり、なにか新しいことをしようとすれば畢竟それは人を納得させなければいけない。そこらへんの押し引きのうまいシェルビーと偏屈なマイルズ、2人が揉めながらも手を変え品を変え、実力を見せつけて少しずつ車を完成させていく姿はもはやプロジェクトX。圧倒的存在感のある副社長レオ・ピーブも昨今見ないくらい清々しい悪役で、進捗阻害要因として君臨します。私だったらさっさと銃で撃ってますね、あの副社長。そして、達成困難なプロジェクトの先に待つカタルシス。エンジン音が響き渡る、最高の車映画です。個人的に気になるのは太ったり(『バイス』、『アメリカン・ハッスル』)痩せたり(『フォードVSフェラーリ』、『マネー・ショート』、『マシニスト』)が激しいクリスチャン・ベール、内臓やられてないかな、というところです。
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役作りもほどほどに(『マシニスト』より)
音楽
大橋裕之先生が原作のアニメ。今年は鬼滅以外で唯一見たアニメの映画でした。くすぶっている高校生がなんとなくバンドを始めるという一見理由レスな物語です。 大橋先生の漫画で明確な理由が示されることって元々あんまりないんですよね。ただ、読んでいくとそうなっていく必然性がなんとなくわかるというか、そんな感じの漫画なのです。まあ、私がわかった気になってるだけなのかもしれませんが。『音楽』というタイトル通り、声優も音楽関係者が目白押し。主人公の研二は元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎が声を担当し、そのほかにも岡村靖幸なんかが参加したりしています。また、音楽シーンにも当然力を入れていて、音楽ライブシーンでは実際にステージを設営し、ミュージシャン、観客を動員したライブの撮影が実施されたとのことです。どういう気合いの入れ方なんですか。アニメーションもぬるぬると動くような絵で、大橋先生の味を殺さないまましっかりと動いています。初期衝動という言葉がすごくよく似合う物語。音楽界の鬼滅の刃です。ロックしませんか。
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なぜか作品内の別バンド「古美術」のアルバムが実際に発売(欲しい)
ジョジョ・ラビット
妄想のヒトラーが友達のジョジョ。ヒトラーユーゲントに入ろうとするも失敗したジョジョは、家にユダヤ人の女の子が隠れていることを発見。ヒトラーに傾倒していたジョジョだが、彼女と話すうちにユダヤ人への認識は間違っていたのではないかと思い始めます。ナチスを描く映画にしては異様にポップな調子なのですが、それでこそタイカ・ワイティティ監督ですね。変にナチスを悪者にしすぎるだけでなく、そこに普通に所属していていろいろな思いを持っていた人もいたということを描けるようになってきたということが時代の変化というものなのでしょうか。『この世界の片隅に』で憲兵が圧倒的な悪者として描かれていないことを憤っている人もいましたが、俺はそれでいいと思いますね。この映画、ストーリーもそうなんですけど、役者さんが全員いいんですよね。ジョジョも超絶かわいいのですが、脇を固める役者たちも相当に最高です。母親のロージーを演じるスカーレット・ヨハンソンは強くて優しい上にかわいいし、ユダヤ人少女エルサを演じるトーマシン・マッケンジーもこれからどんどん出てきそうな女優。友達のヨーキーもめちゃくちゃかわいいです。さらに出色なのはナチス将校キャプテンKを演じるサム・ロックウェル。近年名優感をビンビンにだすようになった彼ですが、この映画でも素晴らしい配役と演技。ラストシーン近くの彼と部下のフィンケルには笑いながら涙することでしょう。登場人物ほとんどが愛らしく抱きしめたくなるような映画です。
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信じがたいほどかわいいヨーキーとジョジョ
ザ・ピーナッツバターファルコン
今年見た中で一番ほんわかした作品。はぐれ者の漁師タイラーとダウン症で施設から逃げ出してきたザックは偶然出会う。ザックの夢は憧れのレスラーであるソルト・ウォーター・レッドネックのレスラー養成所に入ること。途中で追ってきた施設職員エレノアも合流し、3人は養成所を目指します。社会か弾き出された者たちが旅に出るというのはロードムービーの典型ですが、トウモロコシ畑や大河の情景などが非常に美しく、それだけで魅了されます。また、障がいを抜きにしてもザックとタイラーの友情とエレノアの愛情は微笑ましく、家族のよう。永久に見てられそうな感じもあります。実はザックを演じるザック・ゴッツァーゲンは実際にダウン症で、夢は「映画スターになること」だったそうな。この映画の中の「レスラーになること」は彼の夢と形は同じであり、この映画がラストまでいくこと自体が二重に夢が叶っているということになるのです。驚くほどの鮮烈な場面は1つもありませんが、安心して見続けられる映画。見てる間ずっと楽しい気持ちなります。オススメです。
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こんなん絶対いい映画に決まってる
屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ
画面が、臭う!!今年最も気分の悪いとにかくつらい映画である。ハンブルクのザンクト・パウリ地区でバーで娼婦をひっかけては殺人を犯していたフリッツ・ホンカを映画化しました。なんで映画化したの。この映画の何がすごいって、ホンカの生活の圧倒的なリアリティなんですよね。ホンカが娼婦をひっかけていたバー「ゴールデングローブ」の場末感、恐ろしい量の酒瓶、食ってるもののしょうもなさ、部屋の雑然とした散らかり具合などがあまりにもリアルすぎて、殺人が行われる前から「なにか覗いてはいけないもの」を見ているような気になってくるんですよ。人の生活って本質的には見ちゃいけないものだと思うんですよね。また、実際の殺人の手口も極めて無計画で衝動的。あまりの手際の悪さと隠蔽の杜撰さにこっちが手を貸したくなるほどのDIY感です。映画の間こういうホンカのしょーもない感じがずーっと続くんですけど、だんだん画面から臭いが出ているような気がしてくるんですよね。悪臭です。電車で風呂入ってなさそうな人が隣に座ったときの、あのすえた感じのあの臭いです。こんな嫌な臭いを嗅げる映画もなかなかないので、怖いものが見たい(ホラーとかそういうのではなく)人はぜひ。ちなみにホンカが娼婦を引っ掛けていた「ゴールデングローブ」は現存しており、「ホンカの部屋」というひどい看板がかけてあるそうです。
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悪趣味の極み!
1917
『パラサイト』がなければまず間違いなくアカデミー作品賞を獲ったのではないかと思われる極上の作品。伝令として前線の部隊に行くことを命じられた主人公スコフィールドとブレイクが旅立つところから始まるのですが、その危険な道中をワンカット風(実際にはワンカットではない)に撮ったその映像の臨場感はすさまじいものでしたね。敵がいるのかわからない中間地帯を疑心暗鬼で進み、罠のありそうな塹壕を探索し、爆弾で死にかけて、川に飛び込む。いつの間にか自分が主人公と共に伝令に走っているような感覚になるほどの没入感に陥ります。ワンカット風の作品は数多あれど、大抵はもっと画面が静かなわけですよ。それが多数の人が動いている戦場で、スコフィールドは走り回っているし、周りでどんどん爆発はしていくし、そんな状況でよくこんな映像を撮れたものだと感心します。ひたすら逃げるスコフィールド、クエストとそれを達成するために次々と訪れる障害、そしてチェックポイントのように現れる名優たち。ゲーム的作り(実際、監督のサム・メンデスも意識したと言っていたような)だという評もありますが、まさにそのとおりだな、と。恐ろしい勢いで人が死んでいく戦場を突き進むスコフィールドの視点は、説教臭い反戦映画の何百倍も雄弁に戦争の無益さを説いています。なるべく大きな画面で!
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セーブポイントの1つ
ミッドサマー
世界共通でみんな大好きな「チャラい大学生が酷い目に合う」映画です!ちなみに私も大好きです。たとえばイーライ・ロス監督はチャラい大学生に対する怨恨が深く、『ホステル』、『グリーン・インフェルノ』などで思う存分大学生をひどい目に合わせているわけですが、今作品におけるアリ・アスター監督の所業も負けていません。それどころか、むしろ他の他の映画に比べるとこの祝祭に来ている学生のチャラさは控え目であり、途中からは「さすがにそこまでひどい目に合わせなくてもいいのではないか」とチャラ大学生側に立ってしまうほどの苛烈な処遇を課しており、アリ・アスター監督は大学生に一体どれほどの恨みがあるのかと心配になってきます。大学生時代にウェイ系の同級生に目の前で好きな女の子を寝取られたりしたのでしょうか。なんかそんな顔してます、アリ・アスター。さて、内容を言ってしまうと面白さがどんどんなくなってしまうタイプの映画なので、これ以上言いません。思う存分スウェーデンの奇祭を楽しみましょう!
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万国共通の寝取られオタクスタイル
デッド・ドント・ダイ
みんな大好きジム・ジャームッシュ監督の最新作は超絶ゆるふわゾンビ映画でした。アメリカの田舎町で変死事件が起こり、警察署長を演じるビル・マーレイと警官のアダム・ドライバーたちが捜査に乗り出すところから始まるのですが、実は町にはゾンビが現れていたのです。そんな始まりですが、切迫感はゼロ。いつものジャームッシュのぬるいノリで豪華俳優陣がコントをずっとやっています。アダム・ドライバーが変なちっちゃい車乗ってるとか爆笑にはいたらないまでも小さいボケをひたすら繰り返すスタイル。ゾンビが増えていってもそのゆるふわテンションは変わりません。というか、ゾンビごときにリズムを崩されては巨匠ジム・ジャームッシュの名は名乗れないのです。それどころか、途中でこれが映画であることを臭わすメタ発言をアダム・ドライバーにさせたり、ティルダ・スウィントンに日本刀でゾンビを斬りまくってもらったり、もうやりたい放題です。そしてそのすべてがほとんどストーリーテリングに意味がない。だけど、それがいいのです。昨今の社会情勢もあってニュースは暗いものばかりだし、映画もシリアスなものばかりが多くて疲れてしまった。そんな気持ちの人はこの映画を見るのが良いのではないでしょうか。見ても成長したり、何かいいことはあったりしません。でも映画ってそんなもんなんですよ。
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謎ティルダ・スウィントン
悪人伝
マ・ドンソクが!!殴る!!「二の腕スター」「歩く丸太」「アカデミー賞暴力の部」ことマ・ドンソクの兄貴ですが、今回も容赦なく殴ります。まず、シリアルキラーがヤクザの親分であるドンソク兄貴を刺します。勇気ありますね。一命を取り留めた兄貴は悪人刑事であるチョン・テソクとともにこのサイコパス犯罪者を追うというのがストーリーとなっています。悪人と悪人が組んで悪人を追うという韓国ノワール爆発の作品。となると、気になるのは暴力の量ですよね。マ・ドンソク兄貴と言えば暴力なのですが、映画によってはそこまで暴力をしてないことも多いのです。演技派なので。ただ、この映画についてはその心配はいりません。まず冒頭から兄貴がサンドバックをめちゃくちゃに殴っています。そして、すぐにわかるのですが、その中には人が入っていて血まみれで出てくるんです。どうですか、期待しちゃうじゃないですか、こんな冒頭の映画。その冒頭の期待に違わず、ノンストップ暴力列車。途中で「マ・ドンソクが女子学生に傘を渡すトトロみたいなシーン」もありますが、基本的には暴力です。年末年始は暴力!!混迷を極めた2020年を腕力で吹っ飛ばしていきましょう!
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絶対に入りたくないサンドバッグ2020
バルーン
冷戦期の東ドイツ。西側にどうしても脱出したい主人公一家なのだが、国境の警備は万全。それならば上空を超えていけばいいじゃないか。気球で。マジでそんなこと考える奴いるのかと思ったのだが、これが実話なのです。気球とか超地味じゃねーか、国境で銃撃戦を掻い潜る脱出劇のほうが盛り上がるだろと思うかもしれませんが、これが意外や意外にスリリング。密告制度が常態化している東ドイツでいかに人の目をだまして気球を作るかという、映画史上初(たぶん)の気球製作サスペンスなのです。怪しまれないように分散した洋品店で布を買い集め、燃料を効率よく燃焼させる方法を考え、いい風が吹く日までにどうやって気球を完成させるか。気球製作の厳しい現場に触れたことで、人によっては見終わった後に「父さん、僕、気球で食っていこうと思ってるんだ」と即病院送りのことを言ってしまうかもしれません。敵役の警察も無能ではなく主人公家族を追い詰めていくのが非常に良いです。ただ、1点気になったのは、布が足りなくて寄せ集めで作ったので仕方ないのですが、夜間に隠密行動をするには熱帯魚感が強すぎる気球になってしまうことです。志茂田景樹さんは喜ぶとは思いますが、バレるだろこれ。
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さすがに派手過ぎん?
ヘイター
ポーランド製Netflix映画。論文を盗用して大学を首になったトメク。学費を出してもらっていたクラジュキ家にも退学がバレてしまい、世話になっていたのに疎まれてしまいます。行き詰ったトメクはネットでフェイクニュースを流すソーシャル会社に就職するのです。最初は人気Youtuberの評判を落とすことから始まる仕事ですが、どんどんとエスカレートしていく流れが非常に自然。トメクが何の感情もなくPCを使って相手を陥れていく姿は不気味ですが、そこに葛藤も不安もないことがかえってリアルです。そう、ほとんどの人はPCの先にいる人間の人生など想像も配慮もしていないんですよね。昨今、誹謗中傷によって多くの人が傷ついていますが、たとえそれが露わになったとしても後悔するような人は少数派。「やられて当然だ」とずっと思っている人のほうが多いんじゃないでしょうか。この『ヘイター』はフェイクニュース関連の映画では『新聞記者』よりもはるかに面白くて、陰謀論など全然ないこちらのほうが500倍身につまされます。どんどん人相が悪くなっていくトメクの無表情は必見です。
TENET
今年最高にお金がかかった映画はもちろんこれでしょう!動員数が見込めないので大作が次々と公開を延期する中、早々に封切ったこの映画は単なる大作ではありません。まだまだ先がわからない中で公開されたTENETはこれからもアホがアホほど金かけて大作映画を作ってくれるんだと我々に信じさせてくれる、そんな象徴のような存在でした。そして、内容も使った金に見合う気宇壮大一大SF活劇。ノーラン監督もよくもここまで大風呂敷を広げたものだと思いますが、その心意気やよし。途中で飛行機突っ込ませたり、走っている状態で特殊車両で四方を囲んだりとか、「それは本当に必要だったの?ノーラン監督がやりたかっただけじゃないの?」という場面も散見されますが、いいんですいいんですノーランはんがやりたかったらやったったらいいんです。話はかなり複雑で予備情報なしで見ると何が起こったかさっぱりわからなかった場面もありますが、それでも火薬と金の量で面白いんです!こんなご時世にこの手の映画を見られたことが幸せでした。ちなみに見た後に「よくわかんないところあった」って言ったら「いやー、俺初見で全部わかったわー、予備情報なしでわかったわー、最初っから全部わかってたわー」っていうミサワみたいなボーイに会えたのでほっこりしました。
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ひたすらにロバート・パティンソンが良すぎる映画でもあります
キーパー ある兵士の奇跡
さあ、今年最高のサッカー映画ですよ。ちなみに今年見たサッカー映画はこれ1本です。元ドイツ空軍兵の捕虜であるバート・トラウトマンがイングランドでいかに成功していくかという実話に基づく物語。バート・トラウトマンはマンチェスター・シティの伝説的GKで、大英帝国勲章ももらっています。ある一人のストレンジャーがいかにして異国に馴染むか、というのは今も昔もテーマにはなるのですが、基本的にはやっぱり実力を示していくしかないわけですよね。自分がここにいなきゃいけない理由、それを見せつけるのが手っ取り早いわけです。その点、トラウトマンはその圧倒的なゴールキーパーとしての実力で文句をねじ伏せていってしまいます。そりゃドイツ人だろうがなんだろうがやっぱり得点を防いでくれるキーパーのがいいわけで、いくら同国人だからといって急にドリブルして相手にボールを獲られるキーパーとかじゃだめなわけなんですよ。誰とは言ってませんよ、誰とは。トラウトマン役のデビッド・クロスは非常にイケメンで、先述の『バルーン』にも実は出てます。牧歌的な時代のサッカー描写もよく、サッカー好きなら見て損はないんじゃないでしょうか。ちなみに、トラウトマンの必殺技がキーパーからのロングスローでクソ地味なのでぜひ見てください。
配信はまだありません!
トラウトマン、FA杯決勝で首の骨折ったままプレーして勝ってます
もう終わりにしよう
今年一番難解だった映画でした。ルーシーは付き合って6週間のジェイクの実家へと向かいます。雪深い彼の実家で、そこで繰り広げられたのはいかにも不可思議な映像。両親が急に老いたり、何度も同じような場面が繰り返されたりというもの。ルーシーはそれに翻弄されながらも受け入れるのですが、一番困惑するのは我々視聴者。そのまま物語は進んでいき、終わったんだか終わってないのだかよくわからないまま終末を迎えます。最初見た時、えっ、なんなのこれは、と思いました。『アダプテーション』や『マルコヴィッチの穴』で視聴者を翻弄してきたチャーリー・カウフマン監督なので覚悟はしていましたが、それでもわけがわからなすぎました。2回目を見て、ネットの解説を見てからようやくなんとなく納得できたような気もします。ノーヒントでわかるか、こんなもん。しかし、それでも解釈の別れる場面は散見するし、一応納得した説明も本当に正しいのかどうかわかりません。ああ、まさにこれこそカウフマン映画だな、という感じでした。個人的にはここまで解釈が必要な映画は映画なのかとも思いますが(映画なんでしょうね、でも)、年末年始にもやもやっとしたい人はぜひ見てください。これをノーヒントで分かった人は「あー、全部わかったわー、最初っから全部わかってたわー」とミサワになってもよいと思います。
スパイの妻
NHKで放送されたドラマの劇場版だそうです。もう、圧倒的に東出昌大映画でした。いや、主人公は違うんですよ、高橋一生と蒼井優です。しかしですね、軍の将校として彼らをスパイとして追う東出昌大がもう本当に東出昌大なんですよ。あの機械的なセリフ遣い、長い手足を持て余している感じ、神経質そうな軍の上級幹部など、これ以上ない役柄じゃないでしょうか。やっぱり東出昌大はナチス将校とかの感情が消えた人をやらせたら天下一品なんですよ。なぜならどの演技にも感情が出ないからです。日本版ターミネーターをやるなら東出昌大しかいないと思っています。2時間たっぷり東出昌大が東出昌大している、こんなに東出昌大している映画は『寄生獣』以来じゃないでしょうか。もうこれは東出昌大映画と言っても過言ではないでしょう。唐田えりか風に言えばでっくん映画です。あ、映画も面白いです。高橋一生も蒼井優も素晴らしい演技だし、黒沢清監督がホラーの感じでサスペンス撮ってるのでずっと不穏です。でも一番不穏なのはやっぱり東出昌大でした。以上です。楽しんでください。
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東出昌大の縮尺がすごい!
アンダードッグ
今年最高のボクシング映画でした。なお、私が今年見たボクシング映画はこれ1本になります。前後編で約4時間半ですが、非常に良かったです。『百円の恋』で安藤サクラに華麗なステップワークを叩き込んだ武正晴監督&足立紳脚本のため、今回もべらぼうにボクシングシーンがいい。ボクシング映画というものはストーリーがでたらめでもボクシングシーンがかっこよかったら成立するものなのです。別にこれはミッキー・ロークの悪口ではありません。その点、『アンダードッグ』はボクシングシーンもストーリーもグッドなので最高です。対戦する2人の複雑な事情のボクサーもいいのですが、特に主人公のロートル噛ませ犬ボクサー晃を演じる森山未來の役作りがすごくて、筋肉の上にうっすらと脂肪がついたほんとの噛ませ犬ボクサーに見える体作りをしているんですよね。すごい役者さんですよ、大好きです。また、武正晴監督はしょーもない生活をしている人のしょーもない部屋を撮るのがとてもうまく、晃がドライバーとして勤めるデリヘルの控室とか晃の実家とかはアレな感じがすごくよく出ています。圧巻のボクシングシーンと底辺の人間ドラマをお楽しみあれ!
まだ映画版の配信はされてないようですが、Abema TVでは全8話のドラマで放送しているようです。映画とは多少内容が違う模様(未見)。
https://abema.tv/video/title/533-1
他の2人もかっこいいぞ!
ハッピー・オールド・イヤー
タイ映画!北欧留学でミニマルに目覚めたイキりデザイナー女子のジーンが、雑然とした実家の断捨離を開始しようとする、というなんだか日本でもありそうなストーリーです。ジーンは最初はまとめて捨てようとするのですが、そうはうまくいきません。映画の中でも煽られていますが、こんまり先生のときめかないもの全捨てメソッドなんてそうそうできるもんじゃないんですよね。むしろ、ときめかないもののほうに忘れたい過去の記憶が繋がっていたりしていて、余計に捨てられないことの方が多いんじゃないでしょうか。ときめくけど捨てたい、ときめかないけど捨てられない。人間と物っていうのはそういうもんじゃないでしょうか。結局、ジーンも物を捨てても過去は捨てられないということに気づき、自分の過去とじっくりと向き合っていくことになるのです。断捨離が正義となっている時代で、本当にそうなのかと考えさせられる作品。じんわりとよいです。ちなみに主人公のジーンを演じる女優さんはチュティモン・ジョンジャルーンスックジンという名前で絶対に覚えられません。
頭身のバランスがすごすぎるチュティモン・ジョンジャルーンスックジン