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2024年最高だった映画&ドラマ

さあ、今年も恒例のまとめです。今年も面白い作品が多かったですなー。配信、映画館、今年公開か否かなどはそんなに気にしてません! 私がルールなので!

というわけで、早速いってみましょう! なんか気になったら年末年始にでも見てね!

去年の分はこちら!


トーク・トゥ・ミー

オーストラリア産ホラーでめちゃ面白かった。少年少女たちがある特級呪物を手に入れて、SNSで流行する「90秒憑依チャレンジ」をやるというストーリー。しかし、そこはアホなティーンたちのこと、「やべえ、これ!」「もっかい!もっかい!」と、パーティーでみんなで特級呪物チャレンジをしまくってしまいます。マリファナ感覚で憑依させるな。案の定とんでもないことになっていくのですが、こういう青春の過ちが取り返しのつかないことになる映画ってとてもいいですよね。我々も取り返しがつかないことをしてしまったこともありますが、さすがに憑依されている人は少ないと思うので、そこまでいかなくてよかったなと安堵します。非常に心地よいスピード感でしっかり怖い、年末駆け抜けホラーにどうでしょうか。

呪物で遊ぶな


ヴィーガンズ・ハム

売れない肉屋がうっかりヴィーガンを殺してしまい、うっかりその肉を肉屋で売ってしまったら大評判になってしまったという、肉屋コメディ。フランス人が皮肉に振り切ると、こういう映画ができます。とにかくポリコレ的なものの極北にある映画で、「これうまいけど何の肉?」って客から聞かれて「イラン豚」と答えたり、「ヴィーガンの肉は雑味が少なくて美味しい」とか二重、三重に言ってはいけないことを平気でぶち込んでくるので、昨今のWOKEマシマシ映画に辟易した人は見てみるといいんじゃないでしょうか。最初は肉を売るために仕方なくヴィーガンを殺していた肉屋夫婦ですが、次第にヴィーガンハントに人生の喜びを見出し、破綻していた夫婦仲がみるみる改善していく、第二の青春映画でもあります。夫婦共通の趣味があるって大事ですね。パートナーとの仲がうまくいってない人は参考にしてみてください。ネトフリでも見れるでよ。


ソルトバーン

バリー・コーガンキモキモ映画です。オックスフォード大学で陽キャ金持ちハイクラスのフェリックスと友達になった陰キャイモダサ男のオリバーは、夏休みに彼の巨大な実家で過ごすことになる、というストーリー。オリバーを『イニシェリン島の精霊』や『聖なる鹿殺し』の怪演で知られるバリー・コーガンが演じるのですが、もはやバリー・コーガンのためにあて書きしたんじゃないかと思えるようなシナリオが秀逸です。これがもう、すげーキモい。元々ちょっと頭の足りてないような役が多いんですが、今回は不気味さを湛えつつも魅力があるという彼にしかできないような演技を披露。ほんとにキモくて怖くてキモかったです。彼以外の俳優もどこか静かに狂っていてエロくて、イギリスの金持ちの屋敷が静かに狂っていく様がとてつもなくぞくぞくして最高。巨大な邸宅を覆う虚無の幕をきみも一緒に暴いてみませんか。

退廃オブザイヤー


カラオケ行こ

和山やまさんの原作漫画を山下敦弘監督が映画化した、珠玉の作品です。カラオケ大会で負けると組長に変なタトゥーを彫られてしまうヤクザの狂児(綾野剛)が、中学生の合唱部岡聡美くん(齋藤潤)に教えを乞ううちに仲良くなっていくという年の差友情物語。なんですが、この濃厚な何かはなんですか。濃厚すぎますよ、ほんと。なにが濃いってBL感なんですが。もうドチャクソにエロいわけですよ。別にそんな直接的な描写があるわけではないし、私もその界隈に詳しいわけではないんですが、それでも滲み出てくるBのLがすごい。原作漫画ではそこまで感じなかったので、主に綾野剛のエロさと齋藤潤くんの可愛さ、及び映画版の脚本・演出によると思われます。しかし、友人にこのことを言ったら「全く感じなかった」と返されたので、私のBLスカウターがイカれていたのかもしれません。普通の映画としても脚本・演出が最高。綾野剛が絶唱する紅が聞ける、思春期の声変わりが演出に重大な影響を与えたという奇跡のタイミング、めちゃくちゃいそうなボンクラ後輩中学生など、見どころもたくさんあるので、ぜひその目でお確かめください。

ド、ドチャクソやないかい、こんなの!


スペースマン

アダム・サンドラー主演で宇宙の未知生物との遭遇もの、ということで『プロジェクト・ヘイルメアリー』みたいなコメディSFを期待していたのですが、全然違いました。これは宇宙痴話喧嘩SFです。蜘蛛みたいな宇宙人が宇宙船に入ってくるのですが、そいつに相談するアダム・サンドラーの悩みがテレフォン人生相談レベル。嫁さんと仲良くできない、みたいな宇宙でやるにはめちゃくちゃしょーもない規模の話で思わず笑ってしまいました。宇宙人じゃなくて加藤諦三に相談しろ。そして、この蜘蛛型宇宙人がなぜか地球人の真っ当な倫理観を備えていてウケますね。なんでだよ。お前誰なんだよ。スカっともなるほどとも全くならない、壮大なスケールの映画世界で繰り広げられる極小四畳半ブルースをぜひご覧ください。

アダム・サンドラーである必要性がない、船越英一郎にやらせろ


正欲

昨年末に公開ですが、見たのは今年なので。ヤバい映画でしたね。「水」に興奮する主人公の女性と、同じ性癖を持つ同級生の男を中心にした、いわゆる”性癖”に関する話です。多様性が叫ばれてる時代ですが、「お前らの認める多様性ってどこまで認めるの?こんなわけわからん性癖でも受け入れられんの?」ということを突き付ける、かなり挑発的な内容。この作品では「水」という不気味さはあるけど無害な性癖が選ばれていますが、これは正直意図的に薄められているもので、水ではなく「幼児性愛」であるとか「下着愛好者」とかを当てはめると、途端にヤバさがわかりますよね。お前らはポリコレだとか多様性だとか叫んでるけど、理解できる多様性しか受け入れるつもりはないだろ、多様性の外に弾かれた者の存在すら認めないつもりだろ、正しい欲しか受け入れないつもりだろ、と画面を通して語り掛けてきます。そして、そんなマイノリティにすらなれない者たちでさえも、社会的に正しくありたいという欲があるという。本当に色々考えさせられる良作。小説版もかなり面白いです。ぜひ。ネトフリでも見れるでよ。


JURY DUTY

1シーズンのドキュメンタリーですが、これはなかなかのアイデア作品。ある事件の陪審員に選ばれたロナルドでしたが、実は、被告、原告、陪審員、裁判官、聴衆など彼以外の全員が”仕込み”なのです。陪審員長に選ばれたロナルドは、トンチキ事件の陪審員に選ばれた一癖も二癖もある陪審員たちを導いて、結審へとつなげることができるのか! というのが見どころ。時折「そりゃ、やりすぎだろ」という仕込みもあるのですが、これが陪審員という非日常の空間だとなかなかバレないんですね。ロナルドが仕込みの中でどう動くかというのも面白いのですが、どうやってバレないようにしているのかという二重のハラハラを楽しめるのが特徴です。また、ロナルドは真面目で誠実な青年なので、その実直さに感動したりもします。俳優のジェームズ・マースデンが自分役で陪審員になりしょーもない俳優役をやっているのも面白い。コメディドキュメンタリーとして優秀。ぜひおすすめします。

とにかく余計なことばかりするマースデン


デューン 砂の惑星 PART2

なんかここまで完成度が高いと特に言うこともなくなってくるデューンです。ティモシー・シャラメ&ゼンデイヤは相変わらず何食って生きてんのかわからない体型してるし、ハルコンネン家はしっかり全員ハゲとるし、原作の世界観をしっかりと再現というか、完全にこれ原作超えてるやろという出来。その完成度の高い映像を見ながら、ハンス・ジマーの地鳴りのような音楽で後頭部を殴りつけられるわけですよ。ストーリー的にはまだ先がありますが、印象に残らないわけがない。映像体験として素晴らしいので、ぜひ大きい画面で見てください。特に今作では、ハルコンネン男爵のイキり甥っ子フェイド=ラウサを演じたオースティン・バトラーが強烈。『エルヴィス』もよかったですが、血なまぐさいサイコが憑依したかのような演技は、すさまじいものでしたね。ここまでレベルが高いと3作目はどうなってしまうんだろうという気がしますが、まだまだ公開は先っぽいので、それまでなんとかがんばって生きていきましょう。

セクシーすぎる男


三体

あの大ヒットSF小説がついに映像化!しかし、大幅に脚本は変更! 舞台もいきなりイギリスだし、二部の主人公ルオ・ジー(っぽい人)は黒人男性に! 大丈夫なのこれ? って感じでしたが、けっこう大丈夫でした。大丈夫、というか、あの壮大な作品をある程度の尺で収めるためには、こういうやり方しかなかったんだろうという感じです。ストーリーを概ねなぞってはいるのだけれど、登場人物は原作の1部、2部、3部の人が入り乱れていきなり出ているし、これは原作の忠実な映像化と考えてはいけないんだな、と私は気づきました。どちらかといえば、リミックス。原作ファンには多少思うところあるかもしれませんが、これはこれで全然面白いんですよね。脚本書いた人すごいと思います。原作ファンにとっては、あー、これが映像ではこうなってんのね、と楽しめますし、原作が難しくてさっぱりわからなかった人や未読の人も理解可能でしょう。ぜひ、身構えずに見てください。脳を宇宙のかなたに飛ばすあのシーンはしっかり再現されています!中国製作版は原作に忠実らしい(未見)ので、興味を持ったらこちらもどうぞ!(全30話)


ニューオーダー

とにかく最悪でしたね。メキシコで結婚式をしていた富豪の娘マリアンですが、その日にちょうど反政府勢力が抗議活動をしていて、反政府勢力に捕えられてしまうというお話。捕まったマリアンが、全く状況も何もわからずに捕虜として扱われ、それを助けようとする周りの人も混乱する状況の中で右往左往する様が非常にリアル。現代で秩序が根底からおかしくなったらどうなるのか、というひたすらにキツくて不愉快な映像を見せられ続けます。ずっといやな感じ。あとで紹介する『シビル・ウォー』も同じテーマですが、誰が味方で誰が敵なのかが全くわからないのはどちらも同じで、こちらのニューオーダーの方がより救いがなくて気分が悪いですね。ちなみに監督のミシェル・フランコですが、『或る終焉』、『母という名の女』と容赦ない映画を撮っていますので、面白かったらこちらもどうぞ。


オッペンハイマー

クリストファー・ノーランが映画を撮ったら、それを見ないという選択肢は我々映画ファンにはないわけですよ。現代において、ノーランというのはそういう感じの立場なんです。というわけで見ましたが、これが普通に面白かったです。基本的に日本人は兵器として使われた側の視点でしか原爆を見られないわけですが、アメリカは使った側の視点しかないわけじゃないですか。アメリカから見た場合、原爆は科学の”勝利”であると同時に、その勝利の代償として生み出してしまった”災厄”でもあるんだな、と。オッペンハイマーを演じるキリアン・マーフィーの顔面の大半も、災厄を生み出した科学の葛藤に使われています。そして、その強い顔面の残り半分は、共産主義との闘いというアメリカの歴史の側面に注がれます。ずっとキリアン・マーフィーの顔面を眺めながら、そういう時代だったんだな、と当時の空気を感じることができるのではないでしょうか。ただ、普通に面白かった、と言いましたが、普通を超えてきた感はあんまりなかったですね。ノーランは次は何を撮るんでしょうか。できたらテネットみたいなトンチキ映画を撮って欲しいです。

キリアン・マーフィー顔面映画


悪は存在しない

『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ&アカデミーで賞を取り、今をときめく濱口竜介監督の最新作です。ただ、『ドライブ・マイ・カー』とはだいぶ離れたところにある映画です。ある静かな地方にグランピングの施設を作るために企業が進出し、その交渉をめぐってひと悶着が起こるというストーリーです。正直、よくわからんかった。いや、わからないといっちゃうと語弊がありますね。いろいろ考察することはできるんですよ。タイトルの「悪」という言葉が意味するものとか、謎めいた娘の行動とか、一つ一つのそれっぽいセリフの裏の解釈とか、あとはあの衝撃のラストシーンとか。それでも、いろいろと解釈を考えた上で、結局それはわからないんですよね。一つ一つの仕掛けの整合性を取るつもりもなくて、真面目に考える人ほど答えから遠ざかっていく。結局濱口監督にも答えなんてないのではないでしょうか。視聴者を出口のない迷路に放り込んで右往左往させてる状況も含めて、「映画」としているのかもしれません。元々、実験的な「場」の映像を撮ってきた監督なので、必然といえば必然の流れなのかもなあと思いましたが、印象的ではあったものの、自分はやっぱりこういうのあんまり好きじゃないんだな、と再確認しました。

娘がめちゃくちゃかわいい


ニトラム

さあ、いやな気分になろうぜェーーーっ! 主人公マーティンは知的障害的な人で、衝動でとんでもないことをしてしまうトラブルメーカー。親から疎まれている彼は、MARTINのスペルを逆から読まれて「NITRAM」(ニトラム)と誰からもバカにされていました。そんな彼がどうやって最終的に銃乱射事件を起こしたかという話です。オーストラリアのタスマニアで実際に起こった事件なんですね。事件自体はいたましいのですが、こういう知的に保護されるべき人間が普通の社会の荒波に向かうとどうなるのか、ということをまざまざと見せられて暗澹たる気持ちになります。『ケーキの切れない非行少年たち』も同じような事象を問題にしていますが、昨今の闇バイトに手を染めている人たちの中の一定数はこういったぎりぎり健常者的な人も多いのではないかな、と。社会に出ると、何度教えても仕事があまりできない人に会うことがありますが、いろいろと考えてしまいますね。監督のジャスティン・カーゼルは『スノータウン』でも実際の事件を題材にしてオーストラリアの闇を掘り返していますが、その合間に『アサシン・クリード』の実写版を監督したりする謎の振れ幅を見せています。これからも娯楽作で生活費を稼いで、オーストラリアの暗部を見せて欲しいものです。

こちらも最悪!


ゾンビボーダーランド

むいむいの叔父貴とやってる「Jリーグ映画部部室」のEURO2024参加国映画の回で取り上げたクロアチアゾンビ映画です。たぶん生まれて初めて見たクロアチア映画ですね。とにかく、クオリティは低いです。ゾンビの適当さはなかなか見ないレベルで、ちょっと顔になんか塗ったゾンビが普通の人間っぽい動きをしているので、ジョージ・ロメロ作品を200回くらい見返した方がいいと思います。ストーリーもめちゃくちゃなんですが、随所に挟まれる民族ジョークがかなり強烈。ゾンビを人間に戻す方法が「セルビア人の血と酒を混ぜて飲ませること」だったり、最後にそれを飲んだ人の目が赤く光ってニュー・セルビア人になったりと、「この映画は本当に大丈夫なのか」と何の関係もない極東の人間をどきどきさせてくれる作りとなってます。他にも色々際どい話がありますので(面白いとは言ってない)、ぜひアマプラで見れるうちにご確認ください。

作りの適当さは異常


ミッシング

2024年邦画しんどい選手権を見事「あんのこと」と分け合った、ドしんどい映画。幼い娘が突然行方不明になった家族のその後を描くという、絶対に幸せなわけがないストーリーです。娘を失った母を石原さとみが演じているのですが、そこにビラ配り、テレビ出演、嘘情報などありったけの最悪イベントが次から次へと放りまれていくわけです。それに対して持てる限りの演技力を駆使して翻弄され、狂乱する石原さとみ。100マイルのストレート級のしんどさがバンバン投げられてくるので、見てるこっちの気持ちがしっちゃかめっちゃかになってしまいます。さすが『空白』で無限追尾古田新太ミサイルを開発した吉田恵輔監督です、全然容赦ありません。石原さとみ不幸千本ノックです。楽しんでるだろ、絶対。とにかくこんな狂乱の石原さとみも中々見たことがないので、ぜひ二時間たっぷりお楽しみください。

夫役の青木崇高もまあまあ狂乱しているのですが、全然目立たない


関心領域

アカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞を受賞したナチス映画です。アウシュビッツ収容場の隣で幸せに暮らすナチ党員の家族の普通の生活を描くという、ほんとに何考えたらそんなひどい設定作れるんだという映画。ナチスのジェノサイドについては、すでにありとあらゆる登場人物と切り口で撮られていて、その普遍的な人類の悪行については語り継いでいくべきだと思う一方、最近はさすがにマンネリがすごいなとも思っていたのですが、これはまた新たな映像体験でした。直接的な虐殺描写はほとんどなく、遠くで聞こえる「音」や家族が暮らす「背景」にだけジェノサイドが見え隠れするという演出は、地味だけど的確にボディに効いてきます。私たちも普段ひどいことを見たり聞いたりしているけど、そんなことは存在しないように生活していますよね。人は関心を持たなければ、どれだけでも残酷になれるのです。人間の良心の限界について考えさせられる、本当に”悪い”映画でした。そして、見終わった後には、やっぱりナチス映画はもういいのではないかと思ってしまう私もいましたね。

奥さんが自分のことしかほんと考えてないんだけど、これは我々の姿そのもの


マッドマックス フュリオサ

あらすじが「行って、帰ってくる」でお馴染みの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のスピンオフです。面白かった! 今回は前作にも出ていたフュリオサの前日譚ということなので、さすがに怒りのデス・ロードばりのシンプルストーリーとまではいきませんでした。しかし、それでも出てくるキャラやギミックの立ち方はすごく、前作の世界観が好きだった人は満喫できるんじゃないでしょうか。アニャ・テイラー・ジョイ演じるフュリオサもよかったのですが、圧倒的によかったのは、悪役のディメンタスを演じるクリス・ヘムズワース。若い頃のフュリオサから何もかも奪っていった無慈悲な悪役……のはずなのですが、根っから狂ってるわけではない合理的常識人なので、後半はもうなんか狂った世界にすっかり疲れちゃってるんですよね。人間いつまでも狂ったふりをできるわけではないですし、最後は地が出ちゃうんだな、となんかしんみりとなりました。末路もひどいし、ディメンタスでもう一度スピンオフ作って欲しいです。

バイク三頭立てチャリオットは頭悪すぎて最高


FALL

トンチキ高所映画がきたぞー! クライミングが好きなベッキーと夫のダン、そして親友のハンターだったが、クライミング中の事故でダンが死んでしまって、ベッキーは引きこもりに。そんなベッキーを見かねたハンターが「この状況を変えるためにあの600mのテレビ塔にクライミングするのよ!」と言って、二人でテレビ塔に登ります。二人が登ったところで唯一のはしごが老朽化で壊れてしまい、降りられない! どうする! となるサバイバル映画です。なんでやねん。そもそもテレビ塔に登り始める動機がビタイチわからないのでまったく共感できないのですが、ハラハラ感だけはものすごいです。落ちかけたり助かったりまた落ちかけたりと本当に怖い。どちらかと言えば映画というよりも、あらゆる手段を講じて我々をビビらせるタマヒュン映像素材集のほうが実態には近いと思われます。途中でハンターがダンと不倫していたことが暴露されるなどストーリーはむちゃくちゃですが、まあ特に気になりません。ぜひ高度グラグラ映像でタマがある人もない人もヒュンヒュンしちゃってください。

タマヒュン映像の宝庫


ビバリーヒルズコップ アクセルフォーリー

よーう、お前らぁ、なーにしけた面しちゃってんのよ!? 俺たちのエディ・マーフィーが帰ってきました。最初の1作目が公開されたのが1984年ということで、実に40年越し。問題児だが腕は立つはみ出し者の刑事という、刑事ものの一つの形を踏襲するものではあるのですが、ビバリーヒルズコップが新しかったのはスタジャンのエディ・マーフィーが口八丁で修羅場を乗り切る「はったり」です。今作品でも、めちゃくちゃ適当なことを言いながらピンチを乗り切ったり乗り切れなかったりというノリは健在。今作はそれに加えて、確執がある娘も登場するという親子物の側面も出してきたりもしてますね。エディもそこそこ貫禄がついてきて、いつまでもチンピラスタジャン刑事はさすがに厳しいのです。ただ、根本的な軽さは今まで通り。スカスカな音楽、解決したんだかしてないんだか怪しいストーリーなど、ビバリーヒルズコップの要点は抑えた今作は飯を食いながら見るのに最適。ぜひ、山寺宏一さんの吹き替えでお楽しみください。

横幅1.5倍増(当人比)


ルックバック

アニメはほぼほぼ見に行かないんですが、これは行きました。非常によかったですね。漫画版のほうをすでに読んでいたので備えてはいたのですが、音楽と映像が組み合わさると破壊力が1+1=2じゃなくて200になりますね。10倍だぞ、10倍! 正直なところ、漫画よりもだいぶ出来がいいように感じました。田舎で出会った藤野と京本が一緒に漫画道を駆け上がっていき、やがて袂を分かって、それでも繋がっているという青春の孤独と友情を歌い上げています。いろいろなギミックやヒントが仕掛けられていて、それは藤本タツキさんの広範な知識と巧さなんでしょうけど、正直そこに注目しても仕方ないというか、そんなところに注目しなくても成立する物語なので、全然気にしなくてもいいと思います。1時間弱、年末忙しい中でも見れるので、どうでしょうか。私は普通に映画館で泣いてました。

こういうシーンが後から泣けてくる


ドッグマン

リュック・ベッソンのトンチキ犬使い暗殺者映画! 幼い頃に横暴な父親に犬小屋で飼われていたダグラスは、父親が撃った銃で脊髄を損傷し、半身不随に。施設を経て、女装してショーパブで歌うようになったが、それだけでは食えず、足りない生活費は彼が操る犬たちが稼いでくるようになる……いやいや、そんなバカなと思うでしょうが、そういう映画なのです。とにかく、犬たちの練度が凄まじいです。電源コードは抜くし、携帯電話だけ狙って盗んでくるし、金持ちの家の金目の物だけとったりします。闇バイトで捕まるちょっと頭の足りない子の100倍くらい有能な犬たちじゃないですか。『銀牙 -流れ星 銀』クラスの能力はあると見て間違いありません。町村レベルの地方自治体とかだったら数週間で転覆できるでしょう。やはり、リュック・ベッソンに真面目な映画を撮らせてはいけませんね。これくらい素っ頓狂なアクションを作らせてこそです。いずれ実写版銀牙を作って欲しいですね。

いざとなったらこのレベルの技も出せます


このろくでもない世界で

あんまり期待しないで見に行ったら拾い物だった、韓国ノワール。義父の暴力から義妹を守っていた主人公のヨンギュですが、金が必要になったために裏社会へと入っていくという流れ。そこで出会った兄貴・チゴンが男気のある男で、それにどんどんヨンギュがひかれていきます。このチゴンの兄貴がかっこよくて、ワルではあるんだけど筋は通すという、ヤクザ映画定番のヒーロー、通称菅原文太モデルそのものなんですよね。筋の通らないことをやった部下は、「何もそこまで」と思うくらいにボコボコにします。韓国映画の暴力は容赦がないので、とても好感がもてますね。ノワールはこうでなくちゃ。基本的には、このチゴン兄貴かっけー映画です。ずっとチゴン兄貴がかっけーまま話が進んでいき、ラストシーンを見終わってもチゴン兄貴かっけーで終わります。もうこの映画は兄貴映画です。兄貴オブザイヤーです。どうしようもないクソな街で起こったどうしようもない運命の物語、まだ配信はされてないようなので、いずれ見れるようになったらぜひ見てください。

兄貴オブザイヤー


フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

ザ・「こういうのでいいんだよ」映画。月着陸ミッションが進む中、失敗したときの保険にアメリカ政府が「偽の着陸映像」を作っていた、というコメディです。昔から冗談(半分は本気)で言われている、月着陸の映像は偽物という都市伝説(?)が元ネタですね。ただ、アメリカ政府陰謀論的な重い展開になるわけではなく、スカーレット・ヨハンソンを中心としたポップな軽い物語の仕上がり。それにしても、いいですね、スカーレット・ヨハンソン。最近は母親役をやることも多くなってきましたが、あの時代の衣装も似合ってるし、年を取っても全然素敵です。笑いながらビンタされたいです。私の中ではビンタされたい女優1位がスカヨハで、2位がアニャ・テイラー・ジョイです。マーゴット・ロビーはむち打ちになりそうだから圏外ですね。あなたのビンタされたい女優は誰ですか? また、脇を固めるチャニング・テイタムが珍しく知性が存在する役をやってますし、謎の政府エージェントを演じるウディ・ハレルソンもしっかりしていて、佳作。休みの日の午後にちょうどいい作品です。

チャニング・テイタムが服を着てる!


地面師たち

今年のベスト大袈裟ドラマ賞だったんじゃないでしょうか。ストーリーも面白いのですが、とにかく画面がうるさかったですね。綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧が一堂に会する絵面は、もはや邦画界のラーメン二郎。ヤサイニンニクマシマシ過ぎるのではないでしょうか。2話目くらいでもう胸焼けしそうです。また、キャラもコテコテで豊川悦司演じるハリソン山中の「黒幕っぽい人がやりそうなこと全部乗せ」みたいなのも最高でした。後半はハリソン山中が出るたびに腹抱えて笑ってましたからね、私。もし続編で解釈違いの行動をしたら、「ハリソンはそんなことしない」って言う自信があります。「ライフの方が安いので」「最もフェティッシュなやり方で」「タワマン立ちバック」など数々のネットミームを生み出した今作ですが、そういったミーム知識を得て見ると、「待ってました『エクスタシー』!!」「よっ、山中屋!」みたいな歌舞伎のキメが登場した感じで見たら、さらに面白いでしょう。ぜひ年末に家族みんなで楽しんでください。

最初に騙される駿河太郎(鶴瓶の息子)のモブ演技好き


フォール・ガイ

しょーもないライアン・ゴズリングがいい! 最近は大作出演が多めですが、本来ライアン・ゴズリングとはそういう俳優ではなかったのです。鬱結婚映画『ブルーバレンタイン』でひどい目にあったり、『ラブ・アゲイン』で恋の指南をするチャラ男を演じたり、 『ナイスガイズ!』でラッセル・クロウとトンチキ探偵コンビを組んだり、そういう感じだったんですね。なんか『ラ・ラ・ランド』以降、深刻俳優みたいな扱いになっていますが、もっと軽妙な作品に出て欲しいというのが私の願いでした。というわけで、この『フォールガイ』は満点。挫折を味わって引退していたスタントマンが、再びスタントを通して女とプライドを取り戻していくという王道系シナリオ。これがライアン・ゴズリングがしょうもなくていいんですよね、うじうじして哀愁がある。そして、ラストのスタントを使って敵を追い詰めていく様はなかなかの見ごたえ。スタントへの愛に溢れていますし、単純に気持ちいい! エンドロールではスタントの種明かしもあり、笑って年末年始を過ごしたい人はぜひ。

ばかばかしくていいでしょ、この絵面


あんのこと

『ミッシング』と並んで、2024年なんで休日にこんなしんどいもん見なきゃいけないんだ邦画選手権のタイトルを獲得しました。実話を基にしています。母に売春させられて金を巻き上げられる生活をするあんは、その過程でドラッグをやって捕まります。そこで出会った刑事に紹介された回復プログラムを受けるうちに、家を出て仕事も見つけ、人生が好転する兆しが見えてきたところで、コロナですべてがおかしくなってしまう、というストーリー。実話なので、きっついです。何もかもがしんどいのですが、特に目を引いたのは河合青葉演じる母親のクソっぷり。全く働かず、ぐちゃぐちゃの家に酔って男を連れ込むんだり、祖母をダシにして脅し、髪を掴んで、時にはなだめすかしてあんをコントロールしようとする姿はまさに毒親の鑑でしたね。特に、娘のことを「ママ、ママ」と呼んで甘える姿は、幼さと異常さが混じった大人になれない親を表現するのに、すごくいい演出でした。毒親評論家の皆様は是非見ておいて損はないんじゃないでしょうか。映画自体もきついですが名作です。年末年始に魂を磨きたい人はぜひ。

炎の毒親ムーブ


ヒットマン

様々な殺し屋を演じて依頼を受け取り、その相手を逮捕してきた実在の捜査官を基にした物語です。グレン・パウエル演じる捜査官がノリノリで七変化をして逮捕しているのですが、そのうちに依頼人の1人である女性絡みでトラブルに落ち……という内容。決して傑作ではないんですが、適度に緊張感のある展開とブラックなストーリーで、軽くみられるコメディで私好みでした。ただ、感想をfilmarksとかで見ていたら、そのブラックな展開のところが「倫理的に受け入れられないので低評価」という感想をけっこう見ました。おいおい、これフィクションだぞ、なんの冗談なんだと思いましたけど、特に最近はこういう人を目にすることが多いですね。公正世界仮説はわりとポピュラーな感覚なんだな、という思いを新たにすることができました。ともあれ、ポップで軽いコメディはおやつにはちょうど良く、ビターな部分も含めてご賞味ください。

これはただのノーカントリーのハビエル・バルデムでは


極悪女王

『地面師』とともに、今年話題になった和製Netflixドラマです。1980年代の女子プロレス団体「全日本女子プロレス」の実話を基にした物語。キャストが本当にいいですね。スターであるクラッシュ・ギャルズの長与千種を唐田えりか、ライオネス飛鳥を剛力彩芽という、ちょっと後がなさそうな感じの二人が演じていて、なんか笑っちゃいます。そのスターの陰に隠れるダンプ松本を演じるのがゆりあんで、その闇落ちの瞬間がもはやジョーカーでよかったですし、女子青春譚としてすごく楽しめる内容でした。あとは当時の全日本女子プロレスのむちゃくちゃさがすごいですね。あまり女子プロレスの事を知らず、興行側の松永兄弟とかほんとめちゃくちゃだなと思ったのですが、さらに知るために吉田豪さんの本を読んだら、事実はもっとひどかったです。「ブック」という言葉は当時使わなかったなど、若干時代考証的に問題があるようでしたが、門外漢の私はあまりその問題点に気づきませんでした。昭和だけに成立することを許された全日本女子プロレスという一瞬の花火、そこに咲いた女子プロレスラーたちの煌めきを楽しみましょう。


SHOGUN

我らが真田広之がエミー賞を総なめにしたドラマシリーズ。徳川家康っぽいキャラを演じる真田広之が、石田三成っぽいキャラが中心の大阪方と関ケ原前夜っぽい年代で争う設定です。このSHOGUNなんですが、この「っぽい」が重要だと思いました。授賞式では、ミスター真田は「時代劇を継承した」というようなことを言っていましたが、ハリウッドに持ってくるにあたって、時代劇をそのままの形で導入したわけではありません。確かに衣装やセットなど外形的なものは「めちゃくちゃ金賭かけた時代劇」って感じでしたが、いきなり序盤で切腹したりというクレイジーサムライ文化をスパイスとして入れてるんですよね。五奉行・五大老制度という外国人には理解しがたい仕組みも、奉行と大老を統合した上でシンプルにしながらも、適度に意味ありげな役職にしたりもしています。見てるうちに、「あ、これ、ゲースロ見てる感覚なんだ」と私は気づきました。2010年代に世界を席巻したドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」も架空の中世風イギリスの中に過度な残虐性と「鉄の玉座」などの「っぽい」文化を取り込んで大成功を収めました。SHOGUNも実際の日本の正確な描写はしっかりと抑えつつも、いかにも日本「っぽい」を混ぜる感覚が絶妙なので、欧米ではサムライゲースロとして楽しまれてるでのはないでしょうか。絶対にシーズン2があるのですが、炎の手裏剣を操る謎の最強忍者集団とドラゴン部隊が出てくると思います。楽しみです。

浅野忠信演じる藪重が見苦しいムーブでとてもいいです


犯罪都市 PUNISHMENT

マ・ドンソクが殴る! 殴ることによってどんどん捜査が進む「暴力プロファイリング」はシリーズ第4作も冴えてます。拳対ITという、どっちが主人公側なんだかわからなくなる今作のテーマですが、ITを使った犯罪もなんのその、マ・ドンソクが適当にぶん殴って解決していきます。やはり男は腕っぷし、プログラミングなんぞなんぼできても最後は拳がものを言うんですよ。男ならエンターキーをグーで殴れ。相変わらず悪役がかわいそうになるほどボコボコにされるラストも健在で、マ・ドンソクはちっともピンチになりませんが、まあこの映画はそういう映画なのでそれでいいのです。4ですが、今までのシリーズを見てなくても全然問題ないですし、遡って見る必要も特にありません! 年末年始にこれを見てすっきりしましょう!

公式公認のダメワードも健在!


シビル・ウォー

爆速でアマプラに来ていたので、映画館で見た俺は若干なんでだよと思いましたが、結局映画館で見ておいてよかったです。アメリカで内戦が起き、それを取材に行くジャーナリスト集団のモキュメンタリー(ドキュメンタリー風のフィクション)という作り。『エクス・マキナ』『アナイアレイション』のアレックス・ガーランド監督ということで、内戦が起こったアメリカはこうなりそう、という想像力豊かなアメリカを堪能することができます。SF風味の映像が美しい。秩序と道徳が崩壊していそうでぎりぎり保っているけど、場所によっては剝き出しの暴力があるというのがリアルでしたね。そう、秩序というのは一枚の薄い紙で一気にそれが燃え尽きるのではなく、ところどころに穴が開いていくものなんですよ。なんとなく、トランプが落選してクーデターめいたものを起こす世界を意識して考えたのかな、という気もします。トランプが当選しちゃったので、目論見どおりとはいきませんでしたが、それはそれで味わいがありますね。前述の『ニューオーダー』と共に政府崩壊映画欲張りセットはどうでしょうか。

激ヤバのジェシー・プレモンスが最高でした


Mr. マクマホン: 悪のオーナー

アメリカのプロレスといえば、誰もが思い浮かべる悪徳オーナーのビンス・マクマホンのドキュメンタリーです。いやー、面白かった。巨大プロレス団体WWE帝国を築き上げた男の一代記は、虚実入り混じった内容で非常によくできています。プロレスをショーとして盛り上げるために、あくまでオーナーだったマクマホンは途中からMr.マクマホンとして敵役になるわけですね。相手レスラーを「クビだ!」と煽ったり、逆にやり返されたりと、とんでもないことをやったりやられたりするわけです。娘や息子もショーの材料にするし、嫁さんもパイルドライバー食らって気絶するんですよ。マクマホンはあくまでそれはショーの上での役割だと言い切っているのですが、そう綺麗に割り切れるわけではなく、その境目はどんどん曖昧になっていくのがわかりました。そして、起こる数々のトラブル。結局、ビンス・マクマホンは性的トラブルで訴えられて、事実上引退しています。ステロイド、過激なショー路線、死と隣り合わせの試合などなど、コンプライアンスも何もかもが混とんとしていた90年代までしかできなかったことで、今後こういう人がでることはないでしょうね。彼はマクマホン以外のなにものでもなかったのです。今年見たドキュメンタリーで一番面白かったです。

トランプにバリカンで頭を刈られたりもします。


侍タイムスリッパー

今年最も反響を呼んだインディー邦画です。幕末の会津藩武士が、現代にタイムスリップしてきて、時代劇の斬られ役として糊口を凌いでいくという作品です。侍がタイムスリップということで、なんかそんなん見たことあるよなー、と思って半信半疑で映画館に行ったのですが、これが非常に面白かったです。テンポがよく、あるあるネタ的なもので笑わせるのですが、根底に横たわる時代劇愛のおかげで、コメディだけにとどまりません。斬られ役ということで殺陣の出来も非常によく、見ごたえは十分。エンドロールで監督の安田淳一さんが、監督以外にも脚本、演出、撮影などあらゆるところに名前が載っていて、安田さん死なないかな? と若干不安な気分になるものの、そこもまたインディー映画の味ですね。出ている俳優も全くの無名ばかり。まだまだTOHOシネマなどで上映中なので、年末滑り込みにどうでしょうか?

服部先生の邦キチでも取り上げられてます!


マインドフルに殺して

ドイツ発のポップでダークな殺人コメディで、なかなか面白かったです。マフィアの弁護士を務めていたビョルンは家庭に行き詰まりを感じて、マインドフルネス講座に通うようになります。そこで得た考え方や瞑想を通して、マフィアとのトラブルを切り抜け、うまく人を殺していくようになります。なるなよ、そんなん。本当にマインドフルネスとかそういうメンタルライフハックを心の底から馬鹿にしているんだな、ということがわかって面白いですね。時々、「そんなわけあるかい」と吹き出してしまうほどの強引な場面もありましたが、概ねテンポよくさくさくと話が進んでいきます。何をどう考えてもシーズン2があるんですが、これけっこう量産できそうですね。マインドフルネスで対処できなくなったら、ゲルマン魂とかで乗り切って欲しいものです。

マインドフルネスの呼吸法で落ち着いて死体を解体します


破墓

うおおお、墓を暴くぞおおおお!!! 久々にぐぐっとくる韓国伝奇ホラーがきました。謎國村隼映画である『哭声』以来でしょうか。とびっきりヤバい墓の依頼を受けてしまったチェ・ミンシク演じる風水師サンドクのチームが、悪霊相手に奮闘する話です。もう、知らんがな、なんですよ。方角がどうとか、場所がどうとか、掘ったら何が出てきたとか、もうわけわからないんですよ。それでも、証拠を積み重ねるわけです。こういう方角で、こういうものが埋まってたから、と。そうするとわけがわからないなりになんか説得力が出てくるんですね。こいつぁヤベえ墓だ、激ヤバ墓太郎だ、と。そういう前段があるので、激ヤバ怨霊対最強風水師チームという戦いが、さもすごいものと思えるんですよ。そして、実際にラスボスの日本の謎の大名というすごい悪霊が出てきちゃうわけですよ。生の鮎が大好きという意味不明の設定がけっこう笑ってしまいますが、最凶悪霊として十分な存在感です。面白かったので、また墓を破ってください。続編待ってます。次は國村隼も出してください。

謎儀式からの除霊失敗は定番


グランパは新米スパイ

Netflixの1シーズン完結のドラマ。サムネの圧倒的『裸の銃を持つ男』感に若干不安になりますが、これがかなり面白かったです。高級老人ホームで起こった盗難事件の調査に、引退した大学教授チャールズがスパイとして送り込まれるところから話がスタート。正体がバレることなく、チャールズははたして真相に辿り着けるのか。と言っても、やはり老人ホームなので、スパイものの緊張感は皆無。名作ドラマシリーズ『グッドプレイス』のスタッフ・キャストの作品ということもあって、ちょいちょい他のスパイ映画をオマージュしていたり、全編コメディタッチで安心して笑いながら見られます。ただ、コメディだけでなく、自然に人生の琴線に触れてくるのも、『グッドプレイス』と同じ。見た後にはいい気分になれるんじゃないでしょうか。ちなみに、このドラマシリーズのは、虐待調査のために老人ホームに潜入したチリのドキュメンタリー『83歳のやさしいスパイ』を元ネタにしてるとのこと。こちらも中々面白かったので、気になった人はぜひ。


ドリーム・シナリオ

ニコラス・ケイジがひどい目に合う! ある日を境に、人々の夢の中にニコラス・ケイジ演じる冴えない教授が現れるようになります。最初は害がなくて、ただ見ているだけなのですが、そのうちに夢の中で襲ってくるようになり、という理不尽ホラー系映画。とにかく、ニコラス・ケイジがかわいそうです。何がかわいそうって、ニコラス・ケイジは特に悪いことしてないんですよね。そりゃ、ちょっと精神の上がり下がりはあるかもしれませんが、そんなの誰でもあるでしょう。しかし、そのせいで夢が狂暴化していき、ニコラス・ケイジは皆から糾弾されます。なんてひどいのでしょうか。罪があるとすればニコラス・ケイジがニコラス・ケイジであることくらいです。テーマとしては人の身に降りかかる理不尽な不幸という救いのないテーマなのですが、ニコラス・ケイジであるがゆえにそれがなんとなく緩和されています。ただ、なんとなくニコラス・ケイジはニコラス・ケイジであるがゆえに罰したほうがいい気になってくるし、やっぱり不幸になるニコラス・ケイジは面白いので、不幸ニコラス・ケイジマニアたちは是非見てください。

フォルムが完璧


百年の孤独

ここでまさかの百年の孤独映像化にわたしは歓喜しましたよね。日本語版の文庫発売に合わせたわけでもないでしょうが、ちょうど文庫版を読み終わったところなのでなおさらでした。同時期にNetflixで南米文学の名著フアン・ルルフォの『ペドロ・パラモ』も映像化されていて、こちらはまあそんなもんかなあという出来だったのでたいして期待はしていなかったんですよ。でも、これが本当に面白かった。ある夫婦が旅立って村を作り、そのマコンドという村が滅びるまでの七代百年の物語です。主人公格が次々と入れ替わっていきながら、代を重ねていくものの変えようのない運命を繰り返していく様は、まさに百年の孤独の世界観そのもの。ウルスラもアウレリャーノ・ブエンディーアもレベーカもみんななんとなく想像していたような風貌でした(少なくとも私は)。ていうか、映像がある分、似たような名前が並ぶ小説よりも家系を把握しやすいまであります。1シーズンでは当然終わらないと思っていましたが、続編もある模様。待ち焦がれる間に、先に原作を読んでみてはどうでしょうか。あまりにも美しい文章による、捉えようのない混沌。私が人生で一番好きな小説です。


それでは、よいお年を~!

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