
サッカーとドレスコード
だいぶ経ちましたが、甲府のACL初勝利よかったですね。
試合も劇的でしたが、印象的だったのはスタジアムを訪れたみなさんの服装。甲府ではない各チームのサポーターがそれぞれの応援するチームのユニフォームを着てきたのです。
#Jリーグ の誇り。
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) October 4, 2023
ヴァンフォーレ甲府を応援するため
平日の国立競技場に駆けつけた他クラブのファン・サポーターたち🤝🤝🤝#ACL pic.twitter.com/UIZyQ3Czbq
非常に稀な光景なのですが、いろんな事情が重なりました。「J2でACL」というかなり珍しい状況でしたが、ACLのスタジアム規定によって甲府が本拠地を使用できないので、国立競技場を使用するしかなく、集客が危ぶまれていたのです。そこでヴァンフォーレ甲府は、他チームのサポーターでもいいから応援に来て!ユニフォームもそれぞれの着てきてOK!(これはファンが呼びかけたのかな?)とキャンペーンを打ったという流れでした。その呼びかけに乗って、様々なサッカーチームのサポーターが集まり、上記のような光景となったのです。
𝘼𝙁𝘾 𝙘𝙝𝙖𝙢𝙥𝙞𝙤𝙣𝙨 𝙡𝙚𝙖𝙜𝙪𝙚 𝟮𝟬𝟮𝟯/𝟮𝟰#VENTFORETKOFU
— ヴァンフォーレ甲府 (@vfk_official) October 3, 2023
vs. #ブリーラム・ユナイテッド
╭━━━━━━━━╮
🅼🅰🆃🅲🅷 🅳🅰🆈⚽
╰v━━━━━━━╯
いよいよACLホーム初戦🔥#甲府にチカラを ✊#DAZN 📺でも応援を! https://t.co/FWORa1Raft#vfk #ACL #buriram pic.twitter.com/W3NFARlYmP
結果として、試合には勝ち、観客動員数も1万人越え。いろんなチームのユニフォームを着たファンが甲府を応援するという珍しい光景も見れて、万々歳という感じでした。よかったなあ、と私自身も思いました。
ただ、この光景に対して、異議を唱える人たちもいました。おおまかには「他チームの試合に、関係ない自分のチームのユニフォームにを着てくるのはあり得ない」というものでした。
いやいやいや、甲府のファンとか選手がいいって言ってるんだから、別にいいんじゃないの?と私は思ったし、そう思っている方も多数といった感じでしたが、少なくない数の人が違和感を抱いているようでした。私自身は、普通のリーグ戦で誰かが全く関係ないチームのユニフォームを着ていても全然気にしないし、別に着てきてもいいんじゃない?というタイプですし、自チームのユニフォームは着ても着なくても好きにしろという意見です。
何が引っかかってるのかな、とTwitterなどを見てみても、キモいとかは言われていましたが、他チームのユニフォームを着くことによるはっきりとしたデメリットは私にはよくわかりませんでした。「着てきていいって言うからってほんとに着てくるバカがいるのか」みたいなことを言っている人もいましたが、そんな「普段着でおいでください」と言われてTシャツで行ったら全員スーツだったという就活トラップみたいなのも、さすがに無茶苦茶すぎるでしょう。総じて「悪いから悪い」という意見が多かった印象でしたね。
ただ、このように反対する意見があるということは、ユニフォームを着るという行為に対して、なんらかの暗黙の合意が存在しているということがわかります。つまり、サッカーにも「ドレスコード」が存在するということです。
サッカー観戦におけるドレスコード
そもそも「ユニフォーム」を着る意味とはなんなのでしょうか。
選手であれば、その理由は明白です。敵と味方を判別しやすくするためです。お互い白っぽいユニフォームだと咄嗟にわけがわからなくなり、敵にパスをしたり、味方に両足の裏を見せるロケットスライディングをしてしまったりするんですね。軍隊で「誤射」を防ぐのと同じように、敵・味方の区別をはっきりさせるということです。まあそれでも誤射は起きてしまうそうですし、敵でも両足の裏を見せてスライディングをしてはいけません。片足の裏ならセーフ?いいわけないだろ、何考えてんだ、フアンマ・デルガド(今シーズン既に10枚のイエローカードを獲得※)。
※記事を公開したその日の夜の試合で11枚目をゲットしました、いい加減にしろ
では、サポーターやファンがユニフォームを着るのはなぜかというと、まずは、やはり敵と味方を判別しやすくする、という選手と同じ理由でしょうね。同じチームを応援しているのに、いきなりロケット花火をぶち込んだりしたら目も当てられません。同じユニフォームを着ていれば、こちらも誤射を防ぐことができますし、敵だからといってロケット花火を撃ち込んではいけません。爆竹もダメですし、熱々のもつ煮を投げてもいけません。
また、その逆で、一体感というものもありますよね。同じユニフォームを着ているだけで数千人以上を仲間と認識できるという感覚は、なかなかプライベートでは得られない経験じゃないでしょうか。同じユニフォームを着ていれば気軽に話しかけることもできるし、喜びの瞬間にはハイタッチもできます。「いやー、今日も井手口はやっぱ日本バンタム級6位顔だったよねー」と、試合後にうっかり敵の福岡のサポーターに話しかけてしまうという誤射を防ぐことも可能となります。
要するに、敵か味方かはっきりしろ、ということです。チームの側でも、これを推奨しているところがほとんどですね。

ほとんどのチームが、アウェイのファンがユニフォームを着て出没できるエリアを区切っています。ホームのファンと触れ合わせると揉めるから、あらかじめ隔離しておこうという政策ですね。常時触れさせておくと、通路での煽った煽られた問題からリアルスタジアムバトルになっちゃった時に駆り出されるのはチームスタッフなわけで、その後の説教タイム&警察おくりびとのコストを考えると、制定されても仕方ないルールと言えるでしょう。
チームの規則には「試合をしているチーム以外のユニフォームを着てくること」については、特に触れられていません。ただ、ごくたまーにそういう人がスタジアムにいると、写真撮られてSNSでボコられたりしてるので、そもそも「論外」ということなのでしょう。チーム側も当該対戦試合以外のチームのユニフォーム着用については全く触れていません。「当該対戦試合以外のチームのユニフォーム」って、間違いなくここでしか使わない単語でいいですね。
ここまでをまとめると、「スタジアムでユニフォームを着用することが推奨される」&「着るなら着用可能エリアのみ」&「当該対戦試合以外のチームのユニフォーム着用は言語道断」というのが、Jリーグでの「ドレスコード」ということになります。他にも細かいローカルドレスコード(「緑は絶対つけるな」「ユニフォームは着なくても上半身裸はOK」「全裸はNG」など)はチームごとにあるでしょうが、概ね共通のドレスコードというのはこんな感じでしょうね。Jリーグ、と書きましたが、海外も似たようなものなんだと思います。
One more look back at #Wembley and the #CommunityShield... what do you think - was is it a good day to be a #Gooner? pic.twitter.com/Q3S2N0CLJj
— Arsenal (@Arsenal) August 11, 2014
なぜ今回反対があったか
ドレスコードって「空気」なんですよね。明文化されているわけでもなく、それまでの歴史の積み重ねによって醸成された空気なんです。その明文化されないルールを知っているかどうかということ自体も、基準になっているとも言えます。なので、合理的説明が難しい。たとえば大体のオフィスワークの会社では、スーツを着用することがドレスコードになっていますが、じゃあ、なんでスーツじゃなきゃダメなんだっていうのを客観的に説明しようとすると、言葉に詰まっちゃいますよね。「失礼」「常識知らず」ということは言えるかと思うんですが、そもそもなんでデニムパンツにTシャツだと失礼なんだよ、っていうのはよくよく考えるとわからない。本来は何か意味があったのかもしれないけど、歴史を経るにしたがってその意味が消失し、コードだけが残っている状態です。
今回の甲府のユニフォーム大集合は、このドレスコードに引っかかったのです。「ドレスコードはあるけどそもそも甲府が言ったからいいじゃん」派が着てった人たちと賛成した人たちで、「甲府は言ったけどドレスコードに引っかかるからダメ!」派が反対していた人たちなんじゃないですかね。理由がドレスコードなので、反対する人たちの反応が「常識的におかしいだろ」みたいな感じになっっちゃったんだと思うんです。上述したように、言語化が難しいんですよ、ドレスコードの中身って。
自分のチームの試合じゃないんだからほっとけよ、と思うかもしれませんが、いろんな意見を見ていたら、けっこうな数の人たちが「うちでやられたら困る」という懸念を表明していました。確かに、いろんなチームのサポーターが勝手にユニフォームを着てくると統制が取れないというのはあるかな、と思います。甲府で多数の他サポーターが集結したのは「自分の応援しているチームの試合がない」という状況だったので、現実的にそんなことが起こるかっていうとかなり確率は低いと思いますが、自チームのユニフォームを着ることがドレスコードの入り口であり本質的な核になっているので、そこから外れさせる可能性を看過するわけにもいかないということなんでしょうね。
今後、ドレスコードはどうなるか
面白いのは、上記に書いたスタジアムでのドレスコード自体は、今回の甲府色々ユニフォーム問題賛成派・反対派の両方とも自明のものとして了解していることですよね。だいぶ初期の頃は「野球と違う自由さ」みたいなものがサッカーでは称揚されていた感じもしますので、このように画一性の象徴たるユニフォームの着用がドレスコードとなっているのは、隔世の感があります。
これは、地域密着とホームへの帰属をリーグもチーム強く掲げていった結果、敵と味方以外の中間の層(単なる見物客)が存在しなくなったのが一つの大きな要因なんでしょうね。このドレスコードは、30年ほど経った日本のプロサッカーリーグにおける総意であり、必然の結果と言ってもいいでしょう。もちろん、これは国内だけの現象ではなく、海外でも同じことになっているかと思います。色の揃ったスタジアムって綺麗ですしね。
#はじめてのエスパルス で北川選手が語った"スタジアムから見える綺麗な富士山🗻"、天気が良ければこんな綺麗に見えるんです。https://t.co/jemFOX7eWc@J_League #Jリーグ開幕#spulse #エスパルス pic.twitter.com/NyOCu4LE0a
— 清水エスパルス公式 (@spulse_official) February 20, 2019
今後もこの方向性は変わらないと思います。チーム数を全国に増やした結果、どちらも応援しないという中間層が多数見に来る試合はJ1のトップやタイトルマッチ、それか今回の甲府のような特殊な状況の試合に限られるようになっています。それ以外の試合では敵・味方しかほぼいない空間となるので、このドレスコードが否定される理由はありません。厳しくなることはあっても、緩くなることはないんじゃないでしょうか。ただ、そのようなコードの厳格化って内側の人への統制としては効くんですが、脱落者や新規参入の障壁にもなりそうですよね。
私はスタジアム(というかスポーツ観戦)は金を払って見に来る自由な空間だと思っているので、あまり厳しいドレスコード(その他のお作法)がないような世界になっていって欲しいな、というのが願いです。時には甲府みたいな企画があっても面白いなと思うし、それが許されるリーグであって欲しいものですね。敵と味方という構図の緊張感だけでなく、スポーツのエンターテイメント性・競技性というものを第三者として楽しめる気楽さがあってもいいんじゃないでしょうか。早くコリンチャンスのトンチキユニフォームを着てスタジアムを訪れてみたいものです(たぶん着てっても怒られなさそうだけど)。
ついに念願のコリンチャンスユニフォームをてにいれたぞ!! pic.twitter.com/dNlqZ5rGdU
— tkq (@tkq12) November 3, 2022
最後に、メタルでも同じようなことを考えている方がいたので、紹介します。面白かった!
ちなみに上記の記事にスキを送ると素敵なメッセージが出てきますので、仲良くできそうだな、と思いました。
