ご当地ヒーロー「ダルライザー」が映画になるまで(後編)
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和知 健明(わち たけあき)プロフィール
1980年福島県白河市生まれ。桐朋学園大学短期大学部(現・桐朋学園芸術短期大学)芸術科演劇専攻卒。東京での演劇活動を経て2015年よりダルライザープランニング代表。2017年企画から製作・脚本・主演を担当した『ライズ ダルライザーTHE MOVIE』が公開。2022年4月より白河商工会議所青年部令和4年度会長。
――ダルライザーを続けられていて、成功と思われたことは何ですか。
後で話しますが、映画も含めあまり成功したと思ったことは多くなくて。でもあえて言えば、ダイスを作ったというのは成功要因のひとつだと思いますね。ダイスのおかげでネット上に広がっていったんです。ダイスってたまにバズるんですよ、急に(笑)。「異形頭」っていうジャンルが好きな人たちっているじゃないですか。同じスーツ姿の「映画泥棒」とかね。最初は、普通のピタッとした全身タイツでデザインしていたんです。ただ、ショーを直近に控えているのにデザイン画を描いてるようじゃ間に合わないなと思って「スーツ、スーツ……」と思っていた時に、自分がウエディングプランナーとしてスーツを着て仕事をしてたのを思い出したんです。「あっ、これ着せよう。これならすぐ揃えられるし」という感じで最終的にダイスはああいうデザインになったんですね。
それでデザインが仕上がってから、見た感じ頭良さそうだから、ダルライザーは力、ダイスは頭を使って戦う、という設定ができあがっていった。ダルマは丸くて転がしても起き上がるけど、ダイス=サイコロは四角くて転がらない。だけどサイコロって転がすものだから、お互いの転がし合いにしようということで、6面あるから6人、しかも6人だったら車1台あれば、どこでも動けるなと。ショッカーみたいに毎回やられちゃう悪役を何人も抱えていたら人件費もかさむし、ましてや、やられちゃったらとんでもないお金が吹っ飛んでいくじゃないですか。それだと、悪の組織も維持できないだろうと思ったんですよね。だから非常に理に適った悪の組織(笑)。
―― リアリティがありますね(笑)。
これが「面白い」って受けたんですよね。あと、ダルライザーは「努力と工夫」で「何度でも起き上がれ」というのが決めゼリフなんですけど、「工夫」の部分って見えないと思います。
僕らがやった工夫は演技したことがある人なんて白河商工会議所青年部にはなかなかいないので、メンバーを僕が指導しました。でも、演技経験のないメンバーはアクションの手を覚えるのが大変だと思ったので、みんなに「1人2手か3手ずつ覚えてください」というふうにしました。僕は6対1だから、×6のアクションをするんですよ。僕は経験があるので、6×3で18手覚える。ダイスのメンバーにとってやさしい、そういうヒーローショーを創った感じですね。
映画もそうですけど、僕が一番見てほしいのは、僕がヒーローになる姿よりも、ダイスのメンバーを見て、演技未経験だった市民がやっているということなんです。ダルライザーは、「夢をあきらめるな」とか、「転んでも起き上がれ」と伝えているんですけど、何かなりたいものになろうと思ったら、簡単にはなれないじゃないですか。必ず壁にぶち当たるけれども、そこであきらめちゃうと進まないじゃないですか。
「やれば出来る」ということを伝えるのに、地元にずっといる市民の皆さんに演技の指導をして、しかも映画に出て、彼らが「映画で観ました」と声を掛けられるようにまでなったら、それは一種の成功だろうなと思います。僕は夢を諦めて帰郷し、今はこんな活動をしているので、努力すれば何歳でもいつからでも何かになれると伝えたかった。
そういう意味で、僕はダルライザーの映画は特殊な楽しみ方をしてほしくて、ストーリーはもちろん劇映画として考えましたけど、一番は市民の皆さんがやっていることを観てほしいというか……。街の中にストーリーを落とし込むというのが、僕の狙いです。白河に遊びに来ることは、映画の舞台に来るんじゃなくて、映画の世界に来ると言ったらいいかな。ハードにお金を使わなくても街を楽しくできるようなことをしたいなと思っていたんです。
――逆に大きな失敗と思われたことはありますか。
2008年にダルライザーというキャラクターを立ち上げて、2017年に映画を公開してるんですが、ダルマだけに「七転び八起き」にかけて8年目の2016年に公開したかったんですよ、本当は。1年遅れた原因は、脚本が難航したことなんですが。企画を立てていたのが2015年で、その頃まだDVDが全盛期だったんです。小さな映画なら一本1,500円で買ってくれて(ビッグタイトルは5,000〜14,000円)、レンタルでも版権料が入る収入予測計画を立てていました。でも映画の公開前にサブスクリプション動画配信が一気に出てきたんですよ(※Netflixの日本展開が2015年から)。結局、公開後には動画配信がほぼメインストリームになっちゃって、レンタルビデオショップも仕入れ方が変わって、置いてもらって版権料のみ。だから興行収入という面では、当初考えていたのと全然違っちゃったんですね。
また、2時間、できれば90分の上映時間にしようと話していたんですけど、熱が入ってきちゃって、撮った素材だけで4時間か5時間ぐらいあって。それを編集して、だいたい編集が終わって3時間(笑)。監督に「3時間は絶対ダメ」って言ったんですけど逆に「和知くん、面白いから観てみて」と言われて観たら確かに面白い(笑)。それでも何とか2時間半にしたんです。
そしてできあがった映画を白河市で公開しました。市の信用金庫のビルで、でっかいスクリーンとプロジェクターを借りて来て、自分たちで流したんです。ここまで準備して、しかもダルライザーという地元に根差したヒーローが映画をやるから、観客が入るだろうと思っていたんですよ。でも蓋を開けてみたら、初回は30人、2回目も40人とかで……。平日になったら、夏休み期間とはいえ1回に3人とかなんですよ。さすがに「これ、ヤバいな……」と。
映画の撮影中、僕の右腕をやってくれていたラインプロデューサーに 「和知さん、大丈夫です。僕の経験した最低記録は2人だから」なんて慰められていたんですが(笑)、お盆休み近くなってから少しずつ増えて来て、平日なのに50人、60人……と入るようになって、それが100人、150人……。最終回はキャパは250だったところ220人入りました。終わってみたら20日間の上映で計3,380名。自主映画の壁は3,000人と言われていて、それを超えたら5,000人行くと言われてるんです。だから上映を延長したいなと思ったんですけど、ちょうど翌週に小学校の演奏会が入っているからダメだと言われて(笑)、会場が取れなかったんです。
白河市ですごく話題になっていたのを、池袋シネマ・ロサのプロデューサーの奥様がTwitterで見たらしくて「僕の妻が『面白い映画が盛り上がってるよ』と言ってるけど、どんな映画か観せてもらえませんか」って言われて。それでDVDを送って観てもらったんです。「面白いけど2時間半ですか、長いなぁ……」と(笑)。そこは、これが僕らの映画なのでと言って押し通したんです。それで今度、新人監督映画祭に出品すると言ったら、ロサのプロデューサーがわざわざチェックしに来てくれたんですよ。で、上映後に「人が一番入っていましたね。しかも観客の反応もいい。僕が劇場の社長を説得します」と言ってくれて、ロサで上映することがようやく決定したんです。
ただ、ロサしか扱ってくれなくて(※後に2時間に編集したものを全国10か所で上映)。全国の映画館に問い合わせたんですけど「2時間半は無理だ」と言われちゃいました。その後、白河市で一時ミニシアターを個人で運営してたんですけど、お客さんがぜんぜん入らなくて、暇だからどうやったら2時間になるかというので、毎日編集作業をしてたんです。で、あるシーンを、ふと「ん?」と思って丸ごと取っちゃって、構成を変えたら「なんかうまくいったぞ」と思ってそれで初めて119分に収まったんですね。それが、すごくいい経験になっていて、ウエディングプランナー時代から映像制作はしていましたが、あれ以来編集速度が劇的に上がりました(笑)。
コロナ禍になってから、イベント出演がなくなったぶん「和知さん、映画を作ったんだから映像作れますよね」という相談が自治体や企業からよく来るんです。そういう意味では映画を作ってなかったら、たぶん映像の注文も来なかったでしょう。基本的に僕のスタイルは「転んでも起き上がれ」なので、映画に失敗もあったとはいえ今の糧になっていれば別にいいかなと。
――続編映画の計画はありますか。
続編の製作は実現したいなと思うんです。ロサのプロデューサーに、すぐに作ったほうがいいって言われてたんですよ。公開した時に、レイトショーですけど映画がけっこう記録を出したんですよね。2時間半の映画で、しかもご当地ヒーロー映画でこんなにお客が入ると思ってなかったと。だから、構想はしてたんです。ただ、もしあのタイミングで続編を作っていたら、おそらくですけどコロナ禍が始まった頃に公開だったと思うんですよ。その時は映画も何もかも立ち行かなかったじゃないですか。だからある意味、あの時作らなくてよかったなと思って。
――何かほかに新企画はありますか。
今はダイスのWebドラマを作りたいんですが、現在脚本が難航していて……。当時のダイスの設定のまま作るとちょっと時代が古いので、現在に置き換えようと思って考えてるんですけど、ダイスにそれぞれ実在のモデルがいたのがものすごくリアルだったのに、新しく作ろうとすると途端にリアルじゃなくなっちゃうんですね。そこがクリアできていなくて。
ダルライザーのスーツも、実はデザインをリニューアルしたいんです。それこそ『スパイダーマン』や『キャプテン・アメリカ』みたいにアメコミが映画になると、スーツとかのディティールが細かくなるじゃないですか。そういうのを目指しています。
――今後もずっとダルライザーは続けていかれるということですね。
そうですね。続けていきたいとは思っています。でも、そもそもダルライザーというのはあのキャラクターのことではなくて「ダルマのように起き上がる人」のことを「ダルライザー」だと自分では思っています。そういう人たちを増やしていきたいというのが、常々自分の中にあって、そういう人たちが増えれば街が活気づくだろうと。だからそれを、地元の中学生とかに講演したりしています。
10年ぐらい前に初めて講演をした時の子どもだった人たちが、大人になって「実は僕、和知さんの話を中学校の時に聞いて、地元に貢献したいと思って戻ってきたんです」と言ってくれて、その人にはいまダルライザープランニングに所属してもらって一緒に働いています。あと、白河市で映画上映した時にも、観終わった後に「和知さん、僕は中学校の時に和知さんの講演を聴いて、いま役者を目指してます。役者になるまで、あきらめませんから」と言って帰って行った人がいたんです。それは感動しましたね。
そういう言葉をもらえることが、すごく嬉しいですね。彼ら彼女らが夢を叶えるかどうかはもちろん本人次第ですけど、自分がやっている20年~30年後の未来を活気づけるというのは、コンセプトとして間違いなかったかなと。まだ20年経っていませんが、これからいい結果が出てくれればな、と思っています。
(了)
ダルライザー公式サイト