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本当にめちゃ面白かった…… 『謎メキ!花の天カス学園』感想(ネタバレ有り)

きっかけは友人の、「今年のしんちゃん映画は面白すぎる」という一言。さらにネットでも評判は上々だったので、かる〜い気持ちで観に行くことに。

映画ふつうに観ると1900円って高いよな……と上映前は思いつつ。実際に観ると1900円の価値は十分にあったどころかもう一度観たくなるほどの出来でした。本当に面白かった。個人的には歴代でもトップ。「クレヨンしんちゃん」という作品を活かしきった作品としては一位かもしれない……。これは別のレビューでも見たのですが、○○監督作品!とか○○脚本作品!とかの、作り手の個性が強く出ているというよりは「クレヨンしんちゃん」としての個性が強く出ていました。両者のどちらが優れているかどうかとはともかく。

以下はネタバレをバリバリに含む感想です。




『謎メキ!花の天カス学園』あらすじ

風間くんのお願いで、超エリート小中一貫校「私立天下統一カスカベ学園」、通称天カス学園へ一週間の体験入学をすることになったカスカベ防衛隊の面々。青春を謳歌するぞ!と意気込みます。
最新技術の詰め込まれた天カス学園ではポイント制度が採用されており、エリートらしい行い(たとえば学業、スポーツにおいて優秀な成績をおさめるなど)をすればポイントが上がり優遇され、逆にノンエリートな行い(喧嘩や校則違反)をすればポイントが下がり冷遇を受けるという教育が施されていました。
風間くんは張り切ってエリート行為を重ねていきますが、他のカスカベ防衛隊メンバーはそんな風間くんについていくことが出来ない。それどころか、特に問題を起こし続けていたしんのすけとは「絶交だ!」という大喧嘩にまで発展してしまう。
一方学園には吸血鬼ならぬ「吸ケツ鬼」の噂が流れています。吸ケツ鬼に尻を吸われた者は突如おバカになってしまうという――
喧嘩からどこかへ消えてしまった風間くん。カスカベ防衛隊が彼を探しに行った先で見つけたのは、尻に歯型をつけられた風間くんと、彼が残したダイイングメッセージ! いや彼死んでませんけどね。
これは事件! 解決ならぬ解ケツせねば!
生徒会長の阿月チシオ(あつきちしお)も交え、カスカベ防衛隊は「カスカベ探偵倶楽部」を設立。事件解ケツを目指します――



●「感情コントロールうますぎない?」

観終わってまず感じたのが、
「感情コントロールがうますぎない!?!?」
というものでした。

この映画、上記のミステリー要素を軸としているのですが最終的に辿り着くのは「青春はミステリー」というキャッチコピーになるのです。事件解決が話のメインではなく、あくまで「青春って不思議だ。私にとっての青春ってなんだろう?」という話に繋がり、熱いクライマックスを迎えます。

なんというか話が二転三転していくのがとても上手かったんですよね……。
序盤は学園生活の光と影を見せつつ、風間くんが密かに抱える悩みを示唆する。風間くんはエリートになりたいと心から思っているのですが、同時に、カスカベ防衛隊のみんな――つまり友達と違う道を歩んでいくことになる未来が寂しい、本当はずっと一緒にいたいという気持ちも抱いているのです。でもそんなことみんなは知らない。風間くんがそれを口にしないし、なによりみんなは風間くんとはこれからも友達でいることが当たり前だと純粋に信じているから。この悩みは周りよりすこし賢い風間くんだからこそ感じてしまうものなのです。住む世界が変わればもう遊べないかもしれないと。

そこから事件発生後の中盤は一気にミステリーモードになります。このミステリーがめちゃくちゃちゃんとしていて、「私は新本格ミステリを見せられているのか……?」となりました。「クレヨンしんちゃん」という特殊設定もののミステリーとして満点だった。そんなバカなというようなダイイングメッセージやトリック、犯行方法なのですが、きちんと作中に伏線は張られているし、しんちゃんならこのトリックが通用してしまう。なんでもアリなアニメの世界だからこそ出来ること、もしくはアニメならではの表現だから出来るトリックが使われていてすごかったです。たぶんここでリアリティにこだわっていたらしんちゃんの映画ではなく、しんちゃんの皮を被った単なるミステリー映画になってしまうんですよね……この塩梅が出来てしまう監督と脚本には脱帽です。

そしてクライマックス、普通ならここは犯人当てでクライマックスを迎え、ちょっとワーキャーしておしまい……となるところなのですが!!違う!!

この映画、このクライマックスのためにミステリー要素を使っていたんだ!!!!

逆だ!と思ったんです。ミステリーのための映画ではなく、このクライマックスを書くために相性が良かったのがミステリーだったのか……!?と衝撃。もしかしたら違うかもだけど、そう感じさせるくらい盛り上がりの持っていき方がうまい。

感情コントロールがうますぎる……と思ったのはまさにこれで、興味を惹きつけ、途中途中小さなカタルシスを与えながら最後に一番大きなカタルシスを持ってくる! ミステリー要素ももちろん面白かったのですが、やっぱり最後印象的に思うのはクライマックスのシーンでした。個人的にはチシオちゃんの「青春」が本当に泣けた。ビッグラブ抱きますこんなん。


●キャラがサイコ〜……!

天カス学園、登場キャラクターがめちゃくちゃ良いです。チャーミング。それぞれ細かな個性が映画内でしっかり抑えられていて、登場人物多めなのにみんな好きになってしまう……。

登場時間に制約がある中、確実にこのキャラを好きになれる、このキャラの良いところはここ、このキャラの性格はこう……というのが伝わってきます。これ、ある程度は私たちが今まで観てきたアニメや漫画の集合知が関わってくるかとは思うのですが、それに演じている方の演技や画的な動きが加わってさらに理解することが出来る。

面白いなーと思ったのは、登場人物の一人である豆沢サスガくんの癖。サスガくんは人と話すときに片目を瞑る癖があり、それが印象的でした。(私は片目を暗闇に慣らしている伏線か!?と思いましたが違うと思います)

でも片目瞑る癖、ありますよね。私もよく瞑るからわかる。そういう小さな描写が人間らしさを作っている……。

また、ゲストキャラだけではなくカスカベ防衛隊達メインのキャラの描き方も良い!!

それぞれの個性がしっかり描かれているのはまさにこの映画の真のテーマ通り。キャラがブレたりしない。この子はこういう芯を持つよね、というのが制作陣の間でしっかり理解されているから、ゲストキャラも含め誰も物語の舞台装置にならないようになってる。

私がお気に入りなのはなんと言ってもマサオくんのシーン。マサオくんはミステリーパートで容疑者候補の学園番長の元に強制的に送り込まれてしまうのですが、戻ってきた頃には「アニキ〜!!」と番長を心酔。バリバリ不良スタイルで最後まで突っ走ります。鬼義理のマサ、爆誕です。この当て字もいいよね。

いやもう送り込まれた時点で「マサオくんだぞ……絶対心酔して不良になって戻ってくるだろ……」とわかっているんですが、その通り見事な不良になって帰ってくるのでこれには笑わざるを得ない。もうこの単純さが魅力的なんですよねマサオくん。純粋で良い。そしてこの純粋さを番長含めた不良達はしっかり彼の良さとして認め、次の番長として彼をサポートするんです。良すぎ。一番気持ちいいところ掻いてくれるこの映画。


●現代の「クレヨンしんちゃん」

正直もう話の構成とキャラだけで百点満点なのですが、ここからさらに点数を重ねてくる。
今回の映画、「クレヨンしんちゃん」らしさは一切失わないままちゃんと現代の価値観にアップデートされているんです。

今回の映画のテーマ、「私の青春ってなんだろう?」に対して用意されているアンサーは、「あなたの青春はなんだっていい」だと思います。なんでもいいんです本当に。友情や恋はもちろんのこと、人情やコンプレックス、後悔や孤独だってあなたの一部。ぱいぱいもあなたの一部。みんながみんな同じ方向へ行かなくてもいい。誰かと一緒でもいいし一人でもいい。前向きでも後ろ向きでもいい。とにかく「青春=あなた自身、あなたの生き方」を肯定する物語なんだな……と思いました。

また、自分自身の肯定で終わらず、誰かを肯定することも優しく面白く、この映画は語りかけてきます。その象徴がまさにチシオちゃんの青春。

チシオちゃんの青春とはずばりコンプレックス。チシオちゃんはジュニア世界大会で優勝もするほどのマラソンランナーなのですが、彼女、実は全力を出して走るとめちゃくちゃ変顔になってしまう……というコンプレックスがあります。さらにはそれを周りに笑われ、変顔で勝っているとまで言われてしまい、走れなくなってしまうんです。聞くだけならしょうもないかわいい悩みね〜と思うんですが、チシオちゃんからするとそんな小さな話ではない。

走ることが大好き。でも、笑われるから走ることが怖くなる。一生懸命頑張りたいのに足が竦んでしまう。

そんなとき、どれだけ周りから笑われても走り続けるしんちゃん達の姿を目にします。嘲笑される姿が自分と重なり、胸が痛むチシオちゃん。思わずしんちゃんの両親であるみさえ、ひろしに聞いてしまうんです。笑われていて平気なんですか!?と。

すると二人、笑われるのは慣れっこだと。それよりもずっと大切なのは、しんちゃん自身が胸を張って、自分の道を貫けるかどうか。両親である二人はそんな一生懸命なしんちゃんを応援している。自分達はしんちゃんを嘲笑ったりなんてしない。なにより一生懸命な人を笑う奴の方がずっとおかしい。ハゲタカに頭毟られればいいと。

チシオちゃん、そこでハッとする。しんちゃん達を助けるべく、本気のマラソンランナーモードになって追いかけます。さすが世界一位、速いし頼りになる! ただ確かに顔……すごい!! 容赦ない作画で描いてくる!!

でも誰も笑わないんですよ。なにがびっくりしたって、私の行った映画館もちびっこは多くいたのにチシオちゃんの姿を固唾をのんで見守ってる……いやここの作画容赦ないのに。本当にすごい顔させるんですよアニメーターが。そこまで!?というくらいすごい顔描いてる。どう考えてもおかしいのにダバダバ泣けるんです……。

さらにチシオちゃんの顔見たカスカベ防衛隊は、全然変じゃない、頑張ってる顔じゃん!とチシオちゃんの勇ましい走りに誇りさえ抱く。これ、普段しんちゃんとおバカなことばかりしつつ、でもお互いを尊重し、それぞれの芯を持つ彼らだからこそ出てくる言葉だな……と思いました。彼らは嘲笑しない。だって一生懸命であることは素敵だから。

無意識の嘲笑って、現代になってより真剣に考えられるようになった話だと思います。人を傷つけない笑いとは何なのかと。そのひとつの答えが相手をそういうものだと受け入れることなのかな……と思いました。人を傷つけないなんて不可能に近いけれど、それでも、知っているか知らないかでは大きな違いがあるよなあ。

自分と違うところがある人ってやっぱりおかしくは感じます。これはたぶんそもそも生き物としてそう思うように出来ているのかと……。でもそこは人間ならではというか、考えたり、感じたりすることがより豊かに出来る生き物だからこそ、自分と違うことで切り捨てない。自分と違うこともまたひとつの在り方だと受け入れる……そういうことが出来ると素敵だなあと思いました。情操教育に良すぎる。

コンプレックスにより元気を失ったチシオちゃんがカスカベ防衛隊によって一生懸命な私大好き!と自分の顔を抱きしめるシーンは涙なしでは見られませんでした……というかこの映画泣かせてやるぜ!といういやらしさなくめちゃくちゃ泣かせるシーンだらけなんだよな……めっちゃ面白いのに……ちゃんと笑えるのに……なんでこんなこと出来るんだ……怖い……スタッフと演者が怖いよ〜……すごすぎるよ〜!!

犯人の動機が判明するところとかも号泣してしまった。ダメなことをしているし、しょうもないって言われそうな理由なんだけど、本人には本当に本当に深刻だし、そのためならなりふり構わないんだよね……も〜! 全部天カス学園のポイント制が悪い。


●カスカベ防衛隊の友情と未来

最後にやっぱりここには触れないと……というのがカスカベ防衛隊の友情とこれからについて。

風間くんは天カス学園の体験入学を申し込んだ際、実は学園あてにお手紙を添えています。それは将来自分がエリートになりたいこと。そして良き友がいて、願わくば彼らと一緒にエリートの道を歩みたいということ。

実は風間くんが学園で張り切っているのは、体験入学期間中にポイントをたくさん貯めると優先的に天カス学園へ入学出来る制度があるからなのです。風間くんはみんなとずっと友達でいたい、みんなと同じ小学校に行きたいんですね。

はじめの方でも軽く触れましたが、風間くんはこう感じています。進む道が違う者同士がずっと友達でいることなんてないと。

幼稚園児でこう考えてしまうのはあまりにも早い。でも完全に否定することは出来ない。風間くんは世間的にそういう雰囲気であることを察しているんですね。

しんちゃんやカスカベ防衛隊はそんなこと考えていません。今この瞬間楽しいことが大事。だから風間くんの張り切りについていけない。

最後、風間くんVSカスカベ防衛隊の構図になるのはよく考えたら必然だったんですよね……え!?ここで対決するの!?とはじめは思っていたのですが、彼らは見ている未来が違っていたから、そこでどちらを手に入れるか対決しなくてはならない。

でもこれ、対決というよりは盛大な意見のぶつかり合いです。そばにいてほしいから自分と同じになってほしい風間くん。そばにいることに同じである必要はないと考えるカスカベ防衛隊。この対決、ある意味この前の吸ケツ鬼事件が起きてしまった理由によく似ている。好きな子が自分のそばから離れてしまったのが悲しい、自分と同じにすればまた一緒に過ごせるはず……というのが犯人の動機なので、あれは風間くんの未来の姿に近かったのかもしれません。

最後、対決に答えはありません。一応勝利した……というかたちに見えるのは風間くんなんですが、彼は自ら今回は「引き分け」だと言い渡します。

もしかしたら風間くんの思うように、道が違えば離れていくことの方が自然で、強い風潮なのかもしれない。でも彼は「引き分け」とした。しんちゃん達カスカベ防衛隊の言葉も信じるんですね……泣けるなあ……。

お互いの意見のぶつかり合いを経てお互いを認め合い、最後は和解。どちらが正しいかははっきり決めなかったところも含めて良い友達関係です本当に……。

いやしかし良い映画だった。オープニングのケツメイシで個性を認めるところからはじまってエンディングのマカロニえんぴつで自分を愛して、未来は違うかもしれないけれど、悲しいだけがさよならじゃないって!?!?は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……


とにかく面白い映画でした……ありがとう……しんちゃんも100億の男になれるよ……。

ところがこの映画、噂では公開期間が短いとかなんとかで……嘘でしょ!? こんな傑作なのに……。

そういうわけでせっせと友人に布教していきます。頼む、観てくれ〜!!

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