ネクスト・イン・ファッション ミンジュ・キムの独創性
NetflixオリジナルシリーズのNext in Fashion(2019)を観た。
プロのデザイナー達がお題に沿って服を作るリアリティ番組で、最初は18名からスタートし、1テーマにつき2人ずつ脱落していき、最後に残った勝者には、賞金2500ドル&有名なネット通販サイトでの販売権が与えられるというストーリー。
なんとなく観ていたらハマってきて最後は2本続けて観てしまった。
お題は「レッドカーペット」「プリントとパターン」「デニム」「スーツ」など様々で、NHKで放送している、もとはBBCの人気番組「ソーイング・ビー」のプロ版のような感じ。「ソーイング・ビー」は母が好きで、実家で一緒に観たことがあるが、プロではない仕立てにあまり惹かれなかった。その点こちらは、限られた時間の中で、デザイン画から生地選び、仕立てまで、プロの技を観て楽しめるので飽きなかった。私は服飾の素人だが、ファッションが好きな人はもちろん、絵が好きな人、生地が好きな人、デザインが好きな人、それぞれ楽しめる要素があると思う。
続編も観たいが、打ち切りになったようだ。採算性もそうだが、それ以上に参加者の選出基準、作品の評価基準などをマジメに考えだせば出すほど、自らの首を絞めそうな企画だという気もする。
番組の詳細はほかに譲るとして、観ていて気づいたことを2つ書く。
1つは、「たとえ2人だけでも、チームとしてうまく回ると、実力は2倍ではなくその何倍にもなるんだ」ということ。この番組は、最初の5回は18名が2人ずつのチームになって(メンバー交代もなし)、それぞれの案を出し合いながら作品を作っていく。長年の付き合いがある2人組もいれば、初めて会った2人もいる。
見ていると、互いの主張が強すぎてデザインの方向性が定まらなかったり、作っている途中でも揉めたりしているチームは、それが、色や素材の不統一や、縫製の雑さなどで作品に出る。でも、少しでも相手が仕事をしやすくするよう「あなたの意見を尊重する」と言い合っているチームは、たとえ失敗しても、(生き残れれば)次のチャレンジではもっと息が合っている。それが可視化されていた。
でも、みんなプロのデザイナーだし、それぞれにブランドを持っていたりもするから、譲れない気持ちがあるのは当然だし、むしろ相手に合わせて仕事をしていたらここまで来られなかっただろうと思うと、「相手とうまくコミュニケーションが取れるか」(対話力)とか、「自分がどこまで妥協できると知っているか」(経験)とか「相手への尊敬の気持ちがどのくらい持てるか」(信頼関係)とか、チームでよいものを作るためには、デザインやそれを形にする技術以外にも、複数の能力が求められるのだとわかった。きっとどんなデザイナーが出てきても、ある程度のレベルまで残るには、同じような展開になっていくのだろうと思わされた。
残り8名になったところで、選出基準はそのままに、チームは解散させられ、個人戦になる。ここで、「デザインだけが得意」「仕立てだけが得意」という人たちがふるいにかけられる。つまり、2人であることが個人の実力以上になっていた人たちは、ここで落ちていく。「デザインと仕立て、どちらもできる」人だけが残っていき、勝負が本当に面白くなっていく。ここでは「チームワーク」に必要な能力はもういらない、その人の得意な部分を前面に出して戦っていけるので、プレッシャーもありながら、それ以上に、自分の表現ができるその自由さに、実力者達はのびのびとしている。
もう1つは、「才能が花開く瞬間は不意に訪れる」ということ。
5回目くらいまで見た時点で、最終的に勝ち残るミンジュとダニエル、エンジェルについて「少なくともこの3人は最後まで残りそうだな」と思った。ミンジュは圧倒的な独創性が途中から出てき始め、エンジェルはデザインの実用性、手早さ、縫製の技術と全体のバランスが取れており、ダニエルは確固としたイメージが毎回きちんとあった上で、トップレベルの仕立てがそれを下支えするという、それぞれの強みが出てき始めていた。
ミンジュは、本人はいつもどこか自信なさげで、作りながら泣いたりしているのだが、それに比して作品は別人のように力強く、華やかで、ほかにはない色合わせ・柄合わせによる独創的な世界観があった。それが、途中から明らかになってきて、その魅力に司会者をはじめ、多くの人が惹かれ始めているのがわかった。
最後のコレクションは、彼女の頭の中にある、誰も知らなかった世界を一気に見せられたようで、なぜか涙が出た。この人がこんなにも自由になれたことを寿ぐような気持ちで観た。そういう瞬間に番組が立ち会えたということに、この番組の意味があったと思う。
最後は彼女のデザインした衣装を着てステージに立ったモデル達が、とても幸せそうな表情でミンジュを祝い、それを照れながらも笑顔で受けているミンジュの姿があった。ファッションには、そういえば、こんな力があったんだと、久しぶりに思い出させてくれる番組だった。