【短編小説】生首の掌の上(副題:戦国時代の自動操縦)
こんな夢を見た。
喋る生首にとって戦とは将棋程度の価値しかなく、ならば私たちはさしずめ、盤上を自動で動き回る駒だった。群雄割拠の戦国の世において、駒ほど粗末なものはない。
生首は優秀な軍師であった。戦略は突飛でありながら万全、それを語る生首の言葉には反論を奪う説得力と、心を奪う魅力があった。言いくるめられた将も兵も、生首の言うままに立ち回って決して裏切らない。捨て駒になることさえ、誰も何も厭わなかった。我が軍はそれなりの犠牲を払いながら、しかし確実に勝利を収めて国土を拡大してゆく。
人を操るなどということは、決して難しいことではないのですよ。
天守から城下を眺めながら、生首はそんなことを嘯く。宛ら、化け物の台詞だった。人の心ほど移ろいやすく、御し難いものは無いというのに。戯れっぽく、それは妖術によるものか、と問うてみたら、首はからからと笑った。
妖術など必要ありません。貴殿は間違いなく正気ですよ。正気で、私のような化け物を飼っているのです。
微笑む生首は、確かに私を掌握していた。私はいつだって生首を天守の窓から放り出すことができたし、その脳天を愛刀で貫いてやることだってできた。生首などという奇怪な妖怪変化、退治して喜ばれこそすれ嘆く者など何処に居ようか。
にも関わらずそれをしないということは、つまりそういうことだった。生首の掌の上は、いかにも居心地がよかった。
そうして生首が目論むままに国は栄華を極めてから、見るも無惨に焼け崩れた。城下が敵兵に蹂躙されてゆく様を、私は燃え盛る天守から見下ろしている。積み上げた栄華と平穏が、瓦解するのは一瞬だった。
生首は盤上で将棋なんか指しておらず、ただ山崩しで遊んでいただけなのかもしれない。上等な駒を積み、裾野から慎重に支えを抜いてゆく。そして、一番高いところに座す駒が地に転がる瞬間を待っている。
そうか、そういうことなら仕方ない。
納得とともに窓の額縁に足を掛け、天守から身を乗り出す。炎の隙間から滑り込んだ木枯らしが肌をなでた。そして首筋にあてた愛刀を、一息に引く。
ごろん、ごろごろ、転がり落ちた先で、生首がからからと笑っている。
たはらかにさんの企画「ショートショートnote」に寄せて。素敵な企画を有難うございます。