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コート・ダジュール、エズ村へ
コート・ダジュール空港についたのは、もう日が沈みかけていた夕刻どきだった。
飛行機の窓から地中海と海岸がみえ、その横にニースやカンヌといった都市があって、そのコントラストがきれいだ。透きとおった青に染まった、海とそんな街の景色を眺めながら、飛行機はすこしづつ下降していった。
9月ももう終わってしまいそうな時期だったので、バケーションに間に合うのかどうかわからないけど、まだ暖かそうだったので(南仏だということで)いってみることにした。
空港はおもいのほか小さかった。すぐに荷物をうけとることができ、出口の方にむかう。インターネットでタクシーの予約をしていたので、ベンチで瑠衣さんに荷物をみてもらって、僕はドライバーを探しにいった。
すぐそこに、売店があったのでミニボトルのワイン2本とお水を買う。ホテルに着く頃にはおそらく夜になってるので、お酒をてにいれれてよかった。
案内カウンターのところにいくと、紺のスーツ姿の若いフランス人の男性が「MR YAMAMURO」と書かれたボードを持って立っていた。あいさつをし、瑠衣さんを2人で迎えにいき、駐車場にむかった。
空港の外にでると、乾いた風にのせられて海の香りがする。風はここちよく、空にはまだすこし夕陽がのこって、オレンジ色が濃くなり、紺色の空と少しづつまざりあっている。もすすぐ夜になりそうだ。
駐車場につくと、僕たち2人を乗せるには、少しばかり大きすぎるような気もする、メルセデス・ベンツの6人乗りのバンが停まっていた。
まさか、予約には〈セダン〉って書いてあるし、これはどこからどうみても〈ベンツ〉だ。
その車に僕たちのトランクやら手荷物がのせられていった。そして、そのまま僕たちも乗せられ、シートのクッションに身体をまかせて、そのメルセデス・ベンツは静かにエンジン音をならし、動きだした。
目的地はエズという村だ。
空港から海岸沿いに進んで、モナコのすこし手前にある、崖の上にある村にホテルをとっていた。休暇としての旅行だったので、景色がよさそうなところで、のんびりと過ごしたかった。
車はなだらかな傾斜を上っていき、少しづつ標高がたかくなっていく。ときどきふと景色がひらけると、夕陽にてられた海がみえた。最初の方はわりと景色をみることができる明るさだったけれど、しばらくすると周りが暗くなっていき、すっかり夜になってしまった。
30分ほど車にのって山をのぼっていき、ずいぶんと高いところにきたなというところで、滞在するエズのホテルについた。
カウンターはもう閉まっていたけれど、帰り際だったスタッフの女性と会うことができて、鍵をうけとることができた(この女性はエマ・ストーンにとても似ている)。
部屋にいって、ドアに鍵をさして回してみたけれど、うまく鍵があかない。なんとなく、鍵は空をまわっているようで、何度まわしてみても鍵はあかなかった。
外はすっかり暗くなっているし、エマはもう帰ってしまった。
それでも何度かかちゃかちゃと鍵をまわした、まわしていると、ふとしたタイミングでカチャと音をたてた。もしやと思ってドアを押してみると、すんなりと音もたてずに、そのさっきまで開けることのできなかったドアが、かんたんに開いた。
部屋は広かった。ベッドがあり、キッチンがあり、バスタブ、テラスもあった。ひとつひとつと点検するように部屋のなかをみていった。キッチンにはひと通りひつようそうなものが全てそろっていた。
もちろんワインオープナーもあったし、ワイングラスもあったので、白ワインを開けて飲みはじめた。
テラスに出ると、すこし肌ざむかった。
深い紺色のなかに山の形が見え、その奥には海がみえる。そっと、緑の静かな香りがしてきた。それは、空港をでたときに感じた香りとは、まったく違うものだった。