鬼滅の刃で中学英語#54~「鬼だ!」は英語でなんと言う?~
前回#53で、「単数形」と「複数形」、とくに「複数形」の使い方のご紹介をしましたが、今回はもう少し掘り下げて、「単数形」の誤解と真実、という深いお話をしていきます。
まぁ、「a+○○」って簡単に見えて奥が深いよって話です。
〔参考〕
➡#53~なぜ「単数」と「複数」を使い分けるのか?
「冠詞」のある英語
前回#53で、一般論として話すときの単語は「複数形」で言う、だから、「鬼」全般の話をするときは、「demon」じゃなく「demons」にしないといけないというお話をしました。
(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1』/原作『鬼滅の刃』第1巻)
それでは、突然熊に遭遇するかのように「鬼」に遭遇した時は、英語ネイティブな人はどうやって言うと思いますか?
やっぱり鬼全般を表すから「Demons!」が正解でしょうか?
それともシンプルに、辞書通りの「Demon!」でしょうか?
答えは『鬼滅の刃』のネイティブ英語翻訳版『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba』にありました。
同巻第1話で、炭治郎が妹・禰豆子に襲われたシーンです。
A demon!
鬼だ
いかがでしょうか?
正解は「A Demon!」でしたね。
「Demons!」でも「Demon!」でもありませんでした。
ちなみにこの「A」は、数が一つの時に使う「冠詞」、「a」です。
語順が最初なので大文字になっていますが、「a demon=1体の鬼」という意味ですね。
目の前にいる「まさに鬼」になった禰豆子が一人だから、複数形の「Demons」ではなく、「A Demon」になった・・・みたいに感じますが、襲われてピンチな時に、わざわざ「A」をつける必要ってなんなんでしょうね?
「Demon!」の方がとっさに出てくる感じがしませんか?
日本人の感覚だとそうですが、英語ネイティブの感覚だとそれは違います。
この場合、「A demon!」にしなければならない理由があったのです。
冠詞「a/an」の意味
そもそも、ここで使われた「a demon」は、正確には「1体の鬼」という意味ではないんですよね。
我々は学校で、数が一つであれば、「one」よりも「a」や「an」を使って、「1体の鬼」であれば「a demon」、「2体の鬼」であれば「two demons」として表現することを習います。
それは間違いではないのですが、それだと、このシチュエーションで炭治郎が「A demon!」と言ったことの説明はできません。
「(一体の)鬼だ!」となってしまい、無意味な「A」ですよね。
ここで忘れてはならないのは、英語の数え方の概念は、日本語における数え方の概念と違う、ということです。
そもそも、英語には、日本語にはない「冠詞」というものが存在します。
名詞の前につく、「a」「an」「the」というものですね。
このうち、「an」はあくまでも「a」の変化系で、後ろに続く名詞の頭文字が「a」「i」「u」「e」「o」の時のみ*「an」になります。
代表的なのが「an apple」「an orange」ですね。
*母音が続くと発音しにくいという理由なので、「hour」のように頭文字「h」を発音しない場合も「an hour」となるので注意です。
ですから、「d」で始まる「demon」の冠詞は自然と「a」になります。
この「冠詞」という概念は、その名の通り「冠(かんむり)」のように名詞の前につける品詞で、日本語というかアジアやアフリカの言語では使われず、西ヨーロッパ系言語のみに存在する特徴と言われています。
それだけで一冊の本になったりするぐらいのものなので、これをすべて日本人が理解するのは中々難しかったりします。
ですのでここでは、なぜ、炭治郎の「鬼だ」がネイティブの翻訳だと「A demon!」という風に、冠詞がついた表現になったかの解説をしながら、冠詞「a/an」の役割を理解してもらえるとよいかなと思います。
あえての「a」「an」
「鬼」全般の話をするときは「demons」という表現を使うと言いましたが、それでは、「demons」と「a demon」は実際どうやって使い分けられているのか、『鬼滅の刃』ネイティブ翻訳を見てみましょう(同1巻)。
まずは「demons」です。
Killing demons is my job.
俺の仕事は鬼を斬ることだ
So of course, I'll take your little sister's head too.
勿論お前の妹の首も刎(は)ねる
※killing=殺すこと(動名詞)
冨岡さんが禰豆子を捕らえ、炭治郎に言った時のセリフですね。
「killing demons」で、鬼を殺すことという意味の(動名詞+名詞の)名詞句になり、鬼一体ではなく、鬼全般を斬り殺すことを「my job=俺の仕事」としている、という文ですね。
だからここでは間違いなく、「demons」を使います。
かたや「a demon」が使われているのは、この後、炭治郎が冨岡さんに禰豆子のことを説明した後のシーンです。
That's easy.
簡単な話だ
Demon blood got in her wound, so she's transformed into a demon.
傷口に鬼の血を浴びたから鬼になった
※wound=傷、ケガ(発音)
ここでは2回「demon」が出てきます。
最初の「demon」は、「demon blood=鬼の血」という二つの名詞を並べた名詞句に使われています。
ここでの「demon」は、後ろの「blood=血」を説明するための名詞な上、その後の「血」は数えられない不可算名詞で、「単数形」「複数形」という概念が存在しないため、「demon」の前に「a」がつくこともありません。
本題の、この文の最後についている「a demon」ですが、これはあくまでも、鬼の血を浴びて鬼になる人間はたくさんいても、この場面で冨岡さんが言っているのは、あくまでも「she」という主語を使って禰豆子だけのことにしぼって説明しているので、鬼全般を表す「demons」ではなく、禰豆子一人を表す「a demon」という表現になっているんですね。
実はここに、炭治郎が鬼になった禰豆子を見て、「A demon!」と叫んだ理由が隠されています。
炭治郎が「A demon!」と叫んだ理由
実は英語では、「鬼」という生き物全体を表す時は「demons」と複数形にするルールがあるのと同時に、「a/an」という冠詞をつけたときは、その、複数いる中の一つ、という意味を表しているのです。
「This is an apple.」は、リンゴというたくさんある内の一つを表している英文です。「鬼」もそうですね。
これが、たった一つであれば、「a/an」ではなく、「the」を使います。
『鬼滅の刃』の世界観では「鬼」はたくさんいて、それを全体としてみた場合の言い方が「demons」になり、その中の1体(この場合は禰豆子)を取り出して言う時は「a demon」になるのです。
つまり、炭治郎が「A demon!」と叫んだのは、鬼の代表(の一人)という表現だった、というわけですね。
英語ネイティブの人からすると、この考え方は何がおかしいのかわからないくらい当たり前のものであり、だから、炭治郎のように危機的な時でも、「A demon!」と瞬時に出てきますし、これが「鬼」じゃなくて「熊」でも同様です(下記も同巻)。
How did this happen? A bear?
なんでこんなことになったんだ 熊か?
Maybe a bear too hungry to hibernate?
冬眠できなかった熊が出たのか?
この場面でも、「熊」を「a bear」としていますが、熊が1体だから、というわけではなく(わかりませんもんね?)、熊という生き物全体の中の、「竈門家を襲った熊」を指すので、「A bear」なんですね。
「a/an ○○」=「1つの○○」ではない
この感覚は、全部「鬼」で済ませられる我々日本人や中国人からすると、なかなか理解できない「常識」です。
それでも、あくまでも「Demon!」という言い方だけはしない、ということがわかっていれば、それが、「全体」なのか「代表」なのかで、「Demons」と「A demon」で分ける、と考えるのが一番シンプルな理解の方法だと思います。
そして、「単数」の時に「a/an」をつけるのも、「1つ」という意味ではなく、「たくさんある中の1つ」という意味で、後ろの名詞を強調する意味で「冠詞」というマークをつけてわかりやすくしている、と考えるとスッキリするのではないでしょうか?
だから、数を表す「one」ではなく「a/an」を使うのだと。
英語ネイティブな人は、そういう使い方が当たり前に無意識で、完全にクセになっている、だから瞬時に、自然に出てくるわけですね。
その感覚を理解するにはどうしたらいいか?
それはもう、ネイティブ英語に触れまくるしかないでしょう。
ちなみに、『鬼滅の刃』1巻は、「鬼」という概念を説明する巻でもありますので、そのネイティブ英語版『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1』では、「demons」「a demon」という表現がくり返し何回も出てきます。
しかしそれも、今回学んだことを踏まえれば、ある時は「a demon」、またある時は「demons」になっている理由がわかってくると思いますよ!
習うより慣れろ、でも、そのためのお手伝いをしていきますよ、今後も。
本日のまとめ
・「a」には「一つ」という意味もあるが、それは「全体の中の一つ」
・だから、「one+名詞」ではなく「a/an+名詞」を使う
・そもそも、全般のことなら複数形、その中の代表であれば単数形で表す
(「鬼」全般のことは「demons」、「鬼」の代表であれば「a demon」)
・ちなみに、「an」になるのは、後ろの名詞の発音が「a,i,u,e,o」の時のみ
(発音であって、スペルではないので要注意)