鬼滅の刃で中学英語#55~「the」、その特別な役割
前回#54では、「冠詞a/an」のお話をしましたが、今回は「the」のお話をしていきたいと思います。
冠詞「the」は、名詞の前に置くものですが、「a/an」といったい何がちがうのでしょうか?
「the」は、どんな時に使うものなのでしょうか?
ネイティブ表現から学ぼう
よく「a」「an」が一つを表す冠詞(不定冠詞)、「the」が特定のものを表す冠詞(定冠詞)と言われますが、前回もお話ししたとおり、「a/an」は決して「一つ」といういみではなかったように、「the」も、「a/an」の代わり、というわけではありません。
具体的にどう使うのかを、『鬼滅の刃』英語ネイティブの翻訳版から、「the」が使われてるシーンを見てもらう方がわかりやすいでしょう。
これは、第1話で、家路につこうとした炭治郎を、三郎爺さんが「鬼が出るぞ」と呼び止め、家に泊まらせたシーンです。
(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1』/原作『鬼滅の刃』第1巻)
For ages... man-eating demons have roamed these woods after dark.
昔から 人喰い鬼は日が暮れるとうろつき出す
※for ages=長いこと(口語的表現)
※roam=歩きまわる
※woods=森
#53で「複数形」で全般を表現するとお話ししたとおり、このコマでは、三郎爺さんは「人喰い鬼」全般の話をしていますので、「man-eating demons」と複数形にしています。
全般を表す時に数は関係ないので、「some」とか「any」とかはもちろんつきません。
さらに次のコマにも「demon」が登場します。今度は炭治郎。
But can't the demons come inside houses?
鬼は家の中には入ってこないのか?
はい出ました「the」。
「the demons」に、「the」が使われていますね。
日本語では両者とも「鬼」で済まされますが、英語だと、一度話題に上っているものをもう一度言う時は、特定の話題を引き継いでいることを明確にするために、「the」という冠詞をつけます。
(明確にしない場合は「it」などで置き換えます)
こういった、一度話題に上った特定の物を表す時に「the」を使います。
「the」でも複数形になる時がある
学校などでは「冠詞」=「a」「an」「the」と教えられるので、いずれも単数形に使う表現のように感じている人もいるかもしれませんが、「the」はこの例のように、後ろが複数形になることもあります。
今回のケースは、最初に三郎爺さんが「鬼全般」の話をしているため「demons」という複数形を使っていましたので、炭治郎もそれをひきついで「the demons」と、「the」をつけた複数形になっているわけですね。
これが、三郎爺さんが「鬼はこの世に一体しかいない」みたいな話し方をしていれば当然、「the demon」になるわけです。
「a」はあくまでも単数に使う冠詞ですが、「the」は単数にも複数にも使いますので、気をつけましょう。
あくまでも、特定のものを指すのが「the」で、「that」に近いと考えておいた方がよいです(訳として「その」なら「that」、訳がないなら「the」のイメージでしょうか)。
ただ、「the」は、会話だから使うわけではありません。
たとえば、独り言でも「the」を使うことはあります。
例えばこのシーン(同巻)、
I smell the thread!
糸の匂い!!
※smell=匂いがする、という動詞
※thread=糸
最終選別で最初に遭遇した鬼たちの、隙の糸の匂いを感じ取ったシーンですね。
何も知らない人が見たら「なんの糸?」ということになりますが、あくまでも炭治郎にとって「敵とつながる糸=隙の糸」ということが予め特定されていますので、この場合は「a thread」ではなく、「the thread」が正解になります。
このように、独り言にすら冠詞をつけ、しかも使い分けるのがネイティブの「当たり前」の感覚です。
これはもう、我々日本人にはなかなか身につかないので、こういったネイティブ英語で書かれたメディアから学ぶか、外国で暮らすしか身につかないかもしれませんね。
この世に一体だけの鬼なら?
ここまでは、一般的な「鬼」についての話をしてきましたが、この世に一体だけ存在する鬼、つまり「鬼舞辻無惨」という始祖の鬼についてだったらどう説明するでしょうか?
前々回#53でご紹介した、鱗滝さんが炭治郎に鬼の説明をしているシーンの続きで見ていきましょう。
(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.2』/原作『鬼滅の刃』第2巻)
Only one demon in this world has blood that can turn humans into demons.
人間を鬼に変えられる血を持つ鬼はこの世にただ一体のみ
※only one=ただ一つの
※turn A into B=AをBに変える
とても長い文の中ですが、鬼舞辻は「A demon」ではなく、「Only one demon=ただ一つの鬼」という形の表現になっているんですね。
オンリーワンは一つしかありませんから、当然単数です。
最後の「demons」は「人間を鬼に」の部分の「鬼」は全体の話なので、「demons」という複数形になっているのは、もう大丈夫ですよね?
さて、本題はその次のコマ、
The one who became the first demon over a thousand years ago.
今から千年以上前 一番始めに鬼となった者
こちらの文には「the」が2回使われていますね。
文がややこしいので、スラッシュリーディングしていきます。
The one (その者)
who became the first demon(一番始めに鬼になった)
over a thousand years ago(千年以上前に).
「one」は「1」以外にも、「ある物」「ある人」を表す意味もあるので、ここの「The one」は、その前の文で説明された「鬼に変えられる唯一の鬼」を指しています。
これは、一度出た特定の話題を指す「the」です。
そして、その後の「who became the first demon」はその説明の部分ですが、ここでの「the first demon」は、あくまでも「一番始めの鬼」を強調するために使われている「the」です。
これが、一番始めの鬼が他の鬼と変わらない鬼だった場合は、特別な意味を持たないので、「a first demon」になります。
あくまでも鬼舞辻は、一番始めの鬼で、さらに他と違う鬼だから、特別感を出すために、「the first demon」としているんですね。
なお、このような「the」の使い方は、「the second」「the best」のように、順番を強調する時に使う表現です。
特定のものをピックアップする時の表現が「the」ということですね。
もう一つの「the」
冠詞「the」には、すでに出た話題を特定する他に、固有名詞にもつける、ということもあります。
固有名詞とは、それしか存在しないものを表す名詞です。
「Japan」とかもそうですね。
でも、「Japan」には「the」ってつけません。
つけるのは「the United States of America」とかの国だけです。
何が違うかっていうと、「全部固有名詞」じゃないからですね。
「united」は形容詞、「states」は一般名詞です。
あくまでも「states」を特定するための「the」です。
だから、「America」の前に「the」はつかない、というわけです。
さて、この表現、「鬼滅」英語版にもありました。
(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.8』/原作『鬼滅の刃』第8巻)
I am the Flame Hashira Kyojuro Rengoku.
俺は炎柱 煉獄杏寿郎だ
「the Frame Hashira」になっていますね。
鬼滅の世界では「柱」=「Hashira」と固有名詞として訳されていますが、「炎=flame」という一般名詞が使われています。
そこで「the」をつけないと一般名詞として読まれてしまう、ということですね。
これも、何もないと一般名詞になるものを、「the」をつけることで特定のものを表すようにしている、ということですね。
本日のまとめ
・「the」の後に来る名詞は、単数形だけでなく、複数形もおける
・一度話題に上った名詞を再び使う時は「the」をつけ、独り言でも使う
・特別、特定のものを指す時も「the」を使う
・一般名詞の入った固有名詞にも「the」を使う