鬼滅の刃で中学英語#25~「You=あなた」じゃない!?①~
毎日更新のつもりが、バタバタして結果一週間ぶりの更新になってしまいました。
皆さんいかがお過ごしでしょうか?
休校が増えていっておりますが、この機会に「英語の呼吸」を少しでも身につけて頂けたら幸いです。
今回は久しぶりに文法に戻り、やっとこさ「I」の次の「You」に進みます。
「you=あなた」の例
「you」は、英語において「I」と並ぶ、もっとも一般的な(ポピュラーな)英単語で、「あなた」と訳すことはよく知られていますね。
だから、『鬼滅の刃』でも、「あなた」という言葉を使うシーンでは、英訳も当然「you」になります。
(鬼滅の刃 第5巻)
(Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.5)
How many people have you killed?
(あなたは何人殺しましたか?)
こちらは那田蜘蛛山で鬼と対峙した、蟲柱・胡蝶しのぶが鬼に向けた質問ですが、まんま「あなた=you」ですね。
とはいえ、日本語は、相手との関係によって「あなた」「君」「お前」「テメエ」「あんた」「貴様」「お主」などのような形に変化しますよね。
それをでは英語ではどう表現しているかというと、たとえば同じ胡蝶さんが炭治郎に向けてどう話すのかというと、「あなた」じゃなく「君」になります。
You have a pure heart.
(君は心が綺麗ですね)
※have=有している、という動詞(発音)
※a pure heart=純粋な心、心が清い
このシーンは、仲間である善逸や伊之助が厳しい訓練に耐えかねて逃げたのに対し、炭治郎だけは一人残って夜中まで訓練をし、それでも、自分ができるようになれば、彼らにも教えてあげられると言った炭治郎に対しての、胡蝶さんの一言です。
ここでは、「you=君は」になっていますね。
日本語ではこのように、相手や状況に応じて言い方を変えるのが「当たり前」ですが、英語の文化では日本語ほどそれを意識しないということなんです。
なので、「あなた」であろうが「お前」であろうが、翻訳される時は基本的に全部「you」になってしまいます。
英語と日本語では文化が違う
とはいえ、それにじゃっかん違和感を感じるのが我々日本人。
たとえば下の例。那田蜘蛛山で鬼に同情する隊士が炭治郎と気づかず口論し、禰豆子を見て、2年前に出会った兄妹たちだと気づいた水柱・冨岡義勇が思わず口にしたシーンです。
You...!
(お前は……)
これはまんま「you」だけを使っているシーンですが、このシーンと上記の胡蝶さんとのシーンでは印象がずいぶん異なると思います。
常に丁寧な口調の胡蝶さんと、コミュ障でぶっきらぼうな義勇さんでは、本来、使う言葉もちがい、相手のことを言う表現も違います。
ですが、英語版では2人とも、相手のことを同じく「you」と言っていることに、日本人としたら違和感を感じますよね?
でも、この例のように
you=あなた=君=お前
になっちゃうのが英語です。
「お前」も「君」も「あなた」も、英語では全部「You」になっちゃいます。行ってみれば、「you=相手を表す記号」のような存在ですね。
これまで「正しい日本語」として、相手に応じて呼び方を変えなさいと教えられて来たのはなんだったのか? 矛盾してないか? とも思えてしまいますよね。
でも、しょうがないんです。
これが英語なんです。慣れるしかないんです。
実際、英会話教室での会話て常にフレンドリーだし、日本みたいに上下関係厳しくないので、たとえば今話題のYouTuberフワちゃん*みたいに、目上の人に対しても、なれなれしく接することも別にヘンでもありません(だからといってアレが標準ということでもありませんが)。
*2年間アメリカにいた帰国子女
というかむしろ、日本の方が、上下関係にとても厳しすぎる国であるという方が正解かもしれません。
これは歴史でちょっと習いますが中国で生まれ、道徳に強い影響を与えた、孔子の教え『儒教』の影響が強いためで、そのため、日本もそうですが、儒教の影響が強い韓国でもこういった上下関係はとても厳しいです。
でも、それって英語圏の人からすると、とてもめんどくさいのです。
もちろん、英語圏でも、相手の人を敬う表現はありますが、ここまで細かく言い方を変えることはないです。
でも、そもそも地球の反対側で使われてきた言葉ですから、そういった違いがあってもしょうがないんです。
これを、「英語って便利だな」と思うか、「英語って面倒だな」と思うかは人それぞれでしょうか、でも、そもそも日本語の「あなた」ってどういう意味か知ってますか?
意識したことないですよね?
「あなた」は「あなた」でしょ?って思いますよね?
そもそも「あなた」って何?
でも、日本語の「あなた」って、実は、非常に「you」に近い意味を持っている言葉なんですよ。
そもそも「あなた」って、実は元々漢字だったんですが、知ってましたか?
たまに「貴方」「貴男」「貴女」という表示の「あなた」を見かけるかもしれませんが、それじゃありません。これは江戸時代以降に生まれた書き方で、元々は違いました。
昔は、「あなた」をこう書いていたんです。
「彼方」
これ、「かなた」じゃね?って思いませんでした? はるか彼方の彼方。
たった5巻にもかかわらず、途中で「エーッ!!」っていう展開が待っているハラハラドキドキのSFマンガ/アニメ『彼方のアストラ』も、「かなた」と読みます。
漢字のテストでも、「彼方=かなた」と書かなければなりません。
だから突然、「彼方=あなた」と読むと言われても困りますよね?
でも違うんです。
「彼方」で、「あなた」とも「かなた」とも読めるんです。実際、お手元のスマホで「あなた」と入力してみてください。変換候補に必ず「彼方」が出てきます。
辞書にもちゃんと載っている表現なんですね。
あなた 【彼方】
①自分や相手から遠い所。あちら。
②ある所からむこう。あちら。
③基準とする時からむこう。特に、以前。まえかた。
(広辞苑第七版)
歴史をひもとくと、もともと「あなた」という言葉は「あちらの方」という、今、我々が「彼方(かなた)」と使っている意味も含む、広い意味での言葉だったんですね。
それが、中世以降、人を表す方の「彼方(あなた)」だけ、次のような意味になっていき、漢字も当てられていきます。
あなた 【貴方】
①(「彼方(あなた)」の転)第三者を敬って指す語。あのかた。
②近世以後、目上や同輩である相手を敬って指す語。現今は敬意の度合が減じている。
(広辞苑第七版)
そして「あちらの方」を指す「彼方(あなた・かなた)」と、目の前の人を指す「あなた」と区別するために、遠い方が「彼方(かなた)」だけになっていたのです。
我々は「あなた」というのをただただ、「君」や「お前」と同じような「呼び方の一つ」として認識していますが、歴史的に見ると、そもそも「あなた」は、特定の相手を表す言葉じゃなく、自分の目の前にいる相手という関係性を表す言葉だったんですね。
「あなた=相手を示す記号」とでも言いましょうか。
つまり、「君」とか「お前」を含む意味ですよね。
これって、英語の「you」と同じですよね?
「あなた=相手を示す記号=you」です。
だから、今の日本人からすると、英語の「you」一言で「あなた=君=お前」を表せるのがヘンな感じがしますけれど、目の前の相手を表す「あなた」の本来の役割を考えると、「you」の日本語訳は、「あなた」にも「君」にも「お前」になるのも、おかしくない感じがしませんか??
本日のまとめ
・「you」は、「あなた」にも「君」にも「お前」にもなる
・「I=自分」「you=相手」を表している