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誰も排除しない民主主義ー少数派意見の尊重の実装方法とは

世界各地の紛争地で調停役を務めてきた東京外国語大学教授の伊勢崎賢治さんの最新のインタビューでこう言われている。

「反ロシア、負けるなウクライナ」といった世論の熱狂こそが、停戦合意の最大の足かせになっている。

特に詳しいのがこちら。

全文を読んで理解できたのだけど、まさか、この熱狂が戦争を終わらせることの障害になっているなんて思いもしなかった。

インタビューを読んで、大切だと思ったのはここ。

民主主義というのは、多数決でものごとが決まっても少数派の意見を大事にすること。

民主主義は多数決ではない。少数意見の尊重との二本柱ということ。実際、米国大使館のサイトにも民主主義の原則が紹介されていた。
そして、伊勢崎さんは、僕らが感情的になり、少数派を排除することを引き起こしていると言っている。

民主主義の原則 – 多数決の原理と少数派の権利

”多数決の原理と、個人および少数派の権利の擁護とは、矛盾するように思えるかもしれない。しかし実際には、この二つの原則は、われわれの言う民主主義政府の基盤そのものを支える一対の柱”(米国 国務省)

多数決の原理と少数意見の尊重が、民主主義の両輪だというのはどういうことか。もう少し詳しく書いてあり、それを要約すると以下。

  • 多数決の原理は、政府を組織し、公共の課題に関する決断を下すための手段であり、抑圧への道ではない。民主主義国においてさえも、多数派が、少数派や個人の基本的な権利と自由を取り上げることがあってはならない。

  • いかなる少数派である人でも、基本的人権は保障され享受できる。民主主義政府が必ず保護しなければならない基本的人権には、異議を唱えることも含まれる。

  • 少数派は、政府が自分たちの権利と独自性を擁護してくれることを確信する必要がある。それが達成された時、その少数派集団は、自国の民主主義制度に参加し、貢献することができる。

  • 多数派の目に異様とはまでは映らなくても、奇妙に見える民族や文化集団を受容することは、どんな民主主義政府も直面しうる難しい課題のひとつである。しかし、民主主義国は、多様性が極めて大きな資産となり得ることを認識している。民主主義国は、こうした独自性や文化、価値観の違いを脅威と見なすのではなく、国を強くし豊かにするための試練と見なしている。

  • 少数派集団の意見や価値観の相違をどのように解決するかという課題に、ひとつの決まった答などあり得ない。自由な社会は、寛容、討論、譲歩という民主的過程を通じてのみ、多数決の原理と少数派の権利という一対の柱に基づく合意に達することができる。そういう確信があるのみである。

今この少数意見の権利、排除しないということこそ、あらゆる場所で起こっている紛争を解決する鍵なのではないかと思う。

民主主義の2本柱の一つの少数意見の権利・排除しないということがなぜ、社会実装できていなかということだ。
これは理念を唱えるだけでは難しい。
そこに取り組んでいるNVC(非暴力コミュニケーション)と、プロセス指向心理学(プロセスワーク)のディープ・デモクラシーについて触れたい。

NVC(非暴力コミュニケーション)の書籍では、これを、対立への向き合い方だと紹介されている。

2021年冬に日本語訳が発売された『「わかりあえない」を超える』(著者 マーシャル・ローゼンバーグ、訳者 安納献、今井麻希子、鈴木重子)の前がきに、とても感動させられた一節がある。

https://www.amazon.co.jp/dp/4909934014/


以下、2005年7月のロンドン地下鉄同時爆破テロ後のデヴィッド・ハート 紛争解決協会(ACR)CEOの言葉。

紛争解決という、今も広がる重要な分野の実践者である仲間たちは、対立や紛争は人生の自然で健全な一部であると認識しています。
わたしたちは決して対立や紛争を根絶しようとはしません。
なぜなら、対立や紛争は個人や社会を成長させるものだと信じているからです。対立を根絶するのではなく、わたしたちが追求しているのは、もっと効果的な対立への向き合い方です。ローゼンバーグ博士が示しているのは、暴力あふれる世界においてどのようにコミュニケーションができるかについての、ひとつの創造的な方法なのです。

マーシャル・B・ローゼンバーグ Marshall B. Rosenberg
NVC(Nonviolent Communication)の提唱者であり、国際的な平和推進組織CNVC(Center for Nonviolent Communication)の設立者。年間250日以上をかけて世界中を飛びまわり、数百におよぶ地域コミュニティー、国際会議、戦争で疲弊した地域などでNVCを伝える活動を精力的に続けてきた。
「暴力に代わる平和的な選択肢」を提供する新しいコミュニケーション手法に強い関心を抱きながら、治安の悪かったデトロイト近郊で育つ。カール・ロジャーズのもとで研究をおこない、1961年ウィスコンシン大学で臨床心理学の博士号を取得。その後の人生経験と比較宗教研究を通じて、本書のテーマである「NVCのプロセス」を開発。連邦政府から受託した学校教育プロジェクトで、NVCを用いた「ミディエーションとコミュニケーションのトレーニング」をおこなうなどの実践を経て、1984年CNVCを設立。現在、世界35カ国で180名以上のCNVC公認トレーナーが活動している。
アメリカ・ニューメキシコ州アルバカーキ在住。ギターやパペットを手に、世界の紛争地帯を旅したときの体験を語りながら、「より平和で満たされた世界をつくりだすための方法」を精力的に説く。著書に、『NVC―人と人との関係にいのちを吹き込む法』(日本経済新聞出版)など。Bridge of Peace Award 2006 (Global Village Foundation)など受賞多数。

対立や紛争は健全なもので、根絶するものではない。それよりも、対立への向き合い方を深めていくことが、社会創造なんだ。

これは日々の会話や会議の中にある。それが、アーノルド・ミンデルの著書で、分かりやすいエピソードで紹介されていた。

理論物理学とユング派心理学をバックボーンにもつアーノルド・ミンデルは、1988年に、ディープデモクラシーを提唱している。

彼は、少数派の権利を確保する法律が制定されたとしても、社会の実態は相変わらず多数派の原理によって動き続けることが多い。2つの柱を持つ民主主義の理念は素晴らしいが、それだけでは足りないとミンデルは考えた。
彼は、少数派の意見はもちろんのこと、自分自身の中にある強い感情・価値観だけでなく、現れ出ようとする自分の中の何かにも注意を払うこと、自分の中で、周縁化された感情・価値観に気づくことを唱えている。

2021年末に日本語訳が発売されたアーノルド・ミンデルの
『対立を歓迎するリーダーシップ 組織のあらゆる困難・葛藤を力に変える』より

前書きより抜粋

ある会社でダイバーシティー&インクルージョン(D&I)をテーマとした検討会が実施されました(事実をもとに脚色しています)。

D&I担当役員
「女性や外国人といった多様な人材の可能性をもっと引き出してください」
マネジャーA氏
「理想はわかりますが、そんなことをすると職場が混乱して業績が下がりますよ!」
D&I担当役員
「このデータを見てください。D&Iを推進している会社や、女性を役員・管理職に登用している会社は、業績が良いのです。多様性はイノベーションを生み、業績に貢献するのです。これが事実です。あなたの意見は単なる思い込みにすぎません」

巻き起こった対立とそのことへの対処を簡略化してセリフにしてみました。さて、この会社のD&I施策は実践されたでしょうか。皆さんのご想像のとおりです。この検討会から5年たった今でも、この会社では日本人男性が主流派を占め、女性や外国人の活躍は絵に描いた餅のままです。

組織の未来を真剣に考えるリーダーたちは、ビジョンを描き、その方向性が正しいことをデータとロジックで訴えてきました。しかし、それだけでは抵抗勢力を納得させて組織を変容させることはできないと、多くのリーダーたちが気づき始めています。

「今までのやり方は通用しないことがわかった」「でも、どうしていいかの代替案がない」……そんな心あるリーダーたちへの朗報が、アーノルド・ミンデルが提唱する「ワールドワーク」という、集団の変容のための考え方です。

ミンデルが使う「魔法」を少し種明かししておきます。
まずは対立に関してですが、彼はいわゆる調停のようなやり方を取りません。
むしろ隠されていた対立を歓迎して赤裸々な会話が起きるようにします。
そしてそれぞれが、相手側の立場への気づきを育むことをミンデルは助けます。

次に変容についてです。ミンデルは個人であれ集団であれ、慣れ親しんだものと、馴染みがなくて現れ出ようとするものがあると考え、その2つの間にある目に見えない壁をエッジと呼びます。
この枠組みで状況を見立てながら、様々な介入を行うことで変容を促します。

対立を歓迎し、そこから大いなる変容への旅路を歩む

パンデミックでより複雑化した現代社会において、対立と変容と扱う達人・ミンデルからの力強いメッセージ
「対立を歓迎し、そこから大いなる変容への旅路を歩む」

個人の変容、組織の変容、世界の変容を本気で考えている方に届くとうれしい。

アーノルド・ミンデル
著作に、『ドリームボディ―自己(セルフ)を明らかにする身体』(誠信書房 2002)、『プロセス指向のドリームワーク―夢分析を超えて』(春秋社 2003)、『Quantum Mind』、『シャーマンズボディ―心身の健康・人間関係・コミュニティを変容させる新しいシャーマニズム』(コスモス・ライブラリー 2001)ほか。夢とボディワーク、ユング療法とグループプロセス、意識、シャーマニズム、量子物理学、葛藤解決などを統合した革新的なアプローチで、世界中で知られている。米国内外を広く旅し、ワークショップを開催するほか、専門家会議やテレビ・ラジオ番組にも多数出演。現在は、オレゴン州ポートランドに在住。

僕が好きな動画アーノルド・ミンデルがワールドワークについて語ってくれています。Black Lives Matter の事例です 12:45からの数分をどうぞ。


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