見出し画像

2022入試 問題研究⑪ お茶の水女子大学の現代文

先週は岩手大学の現代文(大問1)を扱いました。

他に分析している人が少ないせいか、アクセス数も堅調です。
もう少し入試が近づく頃に受験生に役立つと良いですね。

◇過去のお茶の水女子大学の入試分析

さて、今回はお茶の水女子大学です。

過去にも問題分析をあげている大学です。

○ちょっとした宣伝

また宣伝です。

東進ハイスクール・東進衛星予備校の「仕上げ特訓講座」にて「お茶の水女子大学の現代文300字記述の攻略(仮)」を制作・担当します。今回は問6はかなりあっさりと説明しますが、それはこのためです。

受験を考えている方はぜひともご受講を。

◇お茶の水女子大学の国語

○問題形式と注意点

大問は3つ。現代文+古文+漢文です。

現代文は付帯条件が多いですね。「何を答えるのか」を明確にすることが特に大事です。というよりもそれが全てとも言えます。

また、解答の意図を見る限り、自分の言葉で説明する許容範囲が極めて広いと言えます。本文中の言葉をうまく使うというよりは、解釈した自分の言葉を表現することに長けている人は模試の採点よりも本番の方が高得点が狙えそうですね。

また、基本的には抽象度の高い答案を好むようにも思われます。最近の入試問題、その解答例とはやや逆行している印象です。

○現代文の出典

『理性の探求』西谷修

2016年の中央大学経済学部などが同一出典からの出題ですね。

◇設問分析

○問1 換言問題 難易度★★★

<タケガワ解答>
西洋の法制度の基礎となっているローマ法の基本に則り、身体に関わる侵害を所有に関する一般的枠組みで捉えなおし、切断された手を取引の出来ない神聖な物とするで法で扱えるようにすること。

<お茶女の「解答意図」>
人びとの身体を取引のできない神聖な 「物」 とみなすことで、 身体に関わる侵害を所有に関する法体系のなかに置きなおすこと。

■解答への手順

⑴設問分析

傍線(1)「どう解決したらよいのか」とあるが、本文の筆者はその解答をどのように説明しているか。『盗まれた手の事件――肉体の法制史』という書物の内容に即してまとめよ。

ここで押さえるべきポイントは2つ。

①「解決すべき」ことの解答
→ ここでは「切断された他人の手を持って帰る行為を告発不能」であることを「解決する解答」となる。

『盗まれた手の事件――肉体の法制史』という書物の内容に即して考える
→ 傍線部以前には解決策はないので、③~⑧段落までが解答根拠となる。

⑵ 本文中の根拠と解答要素

「解決する解答」は傍線部以降を丹念に追っていくことで見つかる。間違っても「傍線部の前後」に答えがあると「確信」しないこと。

ここでは⑥段落(血液も~)の内容を押さえる。解答の要素は以下の点である。

A.ローマの基本法の内容に則る
B.身体を物として扱う。それも「神聖な物」として。
C.身体に関わる侵害を所有に関する一般的枠組みの中に置きなおす。
D.(Cであることで)法で扱えるものとする。

⑶ 「お茶大の意図」への感想など
シンプルに⑥段落まで論理を追いかけられるかを問うている。こういう作業が場当たり的な受験生は多いので難易度は★★★とした。
解答の意図…というよりも解答例もシンプルでいいね。

○問2 理由説明 難易度★★★★

<タケガワ解答>
合理性を重んじる法学者たちが、身体を物と見なすかについては議論を避ける態度を取ることは、結果として彼らが身体を合理性では捉えられない神聖な物と認めていると言えるから。

<お茶大の「解答意図」>
身体が 「物」 であることを認めたがらない近代法学者の態度は、実のところ古代ローマの風習よりも遥かに非科学的であるとも言えるから。

■解答への手順

⑴ 設問分析

傍線(2)「逆に身体の「聖性」を証明しているのではないか」とあるが、なぜ「逆」であると言えるのか、簡潔に説明せよ。

ここで意識したいことは以下の二つ。

①主語の確定
→ここでは「法学者の態度」となる。

②考えるべき因果関係
→なにが「逆」なのかを意識して因果関係を作る。

⑵本文中の根拠と解答要素

これは「直前」を使うのだが、どのように論理を組み立てるかが難しく感じられるのではないか。

<論理>
法学者は合理性を重んじる。
→しかし身体に関する議論を忌避したがる。
→つまり、身体は合理性では捉えられない「神聖なもの」と認めている。

これを組み立てられるかがポイントである。こういう問題は選択肢問題だとちゃんと答えられる(選択肢に助けられて)のだが、記述だと難しいのよね。

⑶ 「お茶大の意図」への感想など
非科学性が「逆」なの??あんまり納得できる解答ではない。
意図や基準だからこれが絶対ではないのだろうが、それでも不思議な答えだと言わざるを得ない。
そんなことも含めて★★★★

○問3 換言問題 難易度★★★

<タケガワ解答>
人間社会は具体的な生存の場面における身体とは異なりながらもそれを包括している法的主体としての人格という曖昧な概念を仮構することで成立しているということ。

<お茶大の「解答意図」>
人間は具体的な身体の次元とは別に、 法の上にしか存在しない 「人格」 という概念を導入することで、その生存のあり方を制度上の問題にすり替えて日々の社会生活を営んでいるということ。

■解答への手順

⑴ 設問分析

傍線(3)「まさに人間社会が、具体的な生存を法の舞台に移し変えて調整するという、演劇的構成に頼って営まれている」とあるが、ここでの「演劇的構成」という比喩はどういうことを表していると考えられるか、簡潔に説明せよ。

答えることを整理すると以下の通りである。

①「演劇的構成」の比喩換言
→傍線部は「人間の社会」がという主語なので、人間の社会が「演劇的に」「構成されている」ということを踏まえた上で「演劇的」の比喩の意味を考える。

⑵本文中の根拠と解答要素

「演劇的」という言葉から本文中にあった「フィクション」の語が連想できるかがこの問題においては大きなポイントであろう。

これは④段落で「法的主体としての<人格>を法の舞台に登場する仮構、つまりフィクション」と述べていたことを指す。

ここを踏まえて傍線部前後の内容を以下のようにまとめればよい。

A.人格とは実体である「身体」とは区別される
B.しかし、身体も包摂するのが<人格>。つまり、仮構されたもの。
C.それが人間社会を構成している。

⑶ 「お茶大の意図」への感想など
「フィクション」への気づきだけがポイントなので★★★。

○問4 換言問題 難易度★★★

<タケガワ解答>
西欧近代の法の体系が身体を人格とはことなる物として扱うっているが、あるべき法の体系は身体と人格と不可分なものとして扱い、人間の存在を守る力を持つものであるべきと考えている。

<お茶大の「解答意図」>
論理的な一貫性を重視するあまりに 〈身体〉と〈人格〉を厳格に峻別しようとするのではなく、むしろ両者の一体性を侵害しようとする行為から人びとを救済するものであるべきだと捉えている。

■解答への手順

⑴ 設問分析

傍線(4)「法には人間的な意味がない」とあるが、本文の筆者は「法」をどうあるべきものだと捉えているか。本文で言及される西欧近代の「法」理解との違いを踏まえつつ、簡潔に説明せよ。

答えるものは以下の2点だ。

① 西欧近代の「法」の内容
これは⑯段落の内容からまとめられる。しかし、次の問5と多少オーバーラップするので、受験生からすると戸惑う気がする

②あるべき法の体系
→⑮段落の内容をまとめる。そんなに難しくないが、まとめ方に注意。

⑵本文中の根拠と解答要素

ほぼ先述した通りである。

A.西欧近代の法は身体と人格を分けて考える
B.あるべき法は身体と人格を同一視する
C.その上で人間の存在を守る物である

Cが入るかがポイントだろう。

⑶ 「お茶大の意図」への感想など
解答例は問5と重なる部分を避けて作成しているが、実際の答案には「物を壊すこととの区別がつかない」や「殺人を避ける」のような内容が多くなるはずだ。それらの答案をそのように考えているのだろうか。そもそも、抽象度の高い解答を求めているのかな。

○問5 換言問題 難易度★★★★

<タケガワ解答>
身体と人格を区別することは、死を本来不可分な人格と身体の一体性の解体と捉える考え方とは異なり、物を壊すことと同様のことであるという考え方に通じ、人の死が持つ特別な意味がなくなってしまうということ

<お茶大の「解答意図」>
死とは、〈身体〉と〈人格〉の不可分な一体性を丸ごと失う営みであるにも関わらず、 近代的な法体系の下では、そのあり方が単に「物」 を壊す行為と同一視され、死という出来事に固有の破滅性が意味を持ちえなくなってしまうということ。

■解答への手順

⑴ 設問分析

傍線(5)「<死>もまた視界から消えてゆく」とあるが、それはどういうことか。本文の筆者が考える<死>という概念の意味を説明したうえでまとめよ。

答えるべきものは2つ。

①筆者が考える「死」
→これは⑮段落にある。「人格と身体の一体性が破壊される」ことである。

②傍線部の解釈
→ ここがポイントだ。多くの人は①との対比で⑰段落の「物のは下位と殺人が同じになる」の指摘で終わってしまうのではないか。
それも解答要素なのだが、そこに加えて傍線部の解釈が必要である。

⑵本文中の根拠と解答要素

ほぼ⑴の通りなので要素を列挙。

A.死とは本来統一されている身体と人格が解体されるものである
B.しかし、身体と人格を別個のものとすると、死とは物の破壊と同じになる。
C.その結果、死というもの特別な意味がなくなってしまう。

Cこそが「傍線部の解釈」である。まあでも、これは難しい。

⑶ 「お茶大の意図」への感想など
傍線部の解釈が難しい。人間の死の特権性(物を壊すこととは違うこと)への言及は…難しいね。よって★★★★。

○問6 解答の意図のみ掲載

本問は課題作文に当たる。 文章・ 構成面では、字数が8割以上あり、 最後まで書き終えていること、 誤字・脱字がなく、 全体の構成がきちんと構築されていることを求めている。 内容面では、 本文の内容を踏まえていること、 指示されている内容にふさわしい具体例を挙げていること、 論理が一貫し、 結論まできちんと書かれていることを求めている。

○問7 漢字

(a) 主旨 (b) さかのぼ (c) 意表 (d) 拘泥 (e) 要請

以上です。

また来週。


よろしければサポートをお願いします。日々の制作の励みになります。