見出し画像

夏期課題⑶ 2019 東北大学大問2

こんばんは。若干アップが遅れてすみません。受講生には週明けの講習会のときに伝えます。

前2作もそこそこ反響があるので、大学入試問題分析も2学期は定期的に上げていきます。

さて、本日の課題です。

今日の課題は「小説」です。

◇出典情報

小川洋子の『ことり』です。東北大学の出典は共通テスト/センター試験のように「受験生から境遇・時代が遠いもの」というトレンドが見出せるようなものはないですが、小川洋子氏は2010年にも『キリコさんの失敗』が扱われています。作問者の趣味かな?笑

◇文章内容

小説文の読解の基本は「場面の分割」「話の全体像をつかむ」ことにあります。今回も場面ごとに内容を押さえていきます。

⓪リード文

リード文は文章読解ならびに設問の解答におけるヒントとして作問者が「あえて」追記したものです。よって、この内容は必ず押さえておきましょう

ここでは、

・ 唯一の肉親の兄を失った「小父さん」
・亡くなった兄は「小鳥のような言葉」を操り、それを理解できたのは小父さんだけだった。
・小父さんは兄とともに小鳥を見に行っていた幼稚園の鳥小屋の掃除を定期的に行っていた。

① 第一場面(前半)

・図書館での場面。
・「小父さん」は鳥の本だけを借りている。
・司書の女性に話しかけられる。その女性は小父さんが鳥の本ばかり借りていることや、幼稚園で鳥小屋の掃除をしていることも知っている。

→ この場面では小父さん自身がうろたえてはいるものの、司書の女性に悪い感情を抱いているわけではないことを確認したい。

②第二場面(後半)

・いつも通っていた薬局の変化(ポーポーという小鳥の包装紙のあるキャンディがなくなっていた。脚注には亡くなった兄にもまつわるもの」として取り上げられている。)
→ この場面はのちの設問の解釈でも非常に重要な場面となる。
・その後、図書館司書の女性とのやり取りを思い出す。
→その結果、自転車のペダルを強く踏むのだ。(=前向きな反応)

この後半部分の解釈はとても難しい。
共通テストやセンター試験ではあまり触れられない性質のものなので、やはり東北大学の小説はそれ自体として対策が求められるものである。

ここでは「鳥と兄の関係」、そして「兄の死と司書の女性とのやり取りの関係性」をしっかりと理解する必要がある。設問で触れるのでそこで解説しましょう。

※ちなみに博耕房ではないですが、東北大学の小説対策のミニ講座を担当します。詳細はしばしお待ちを。

◇設問の解説

問一 ことばの意味

ことばの意味を答えさせる学校は一橋大学や東京都立大学などありますが、基本的にはその語の「辞書的な意味」を踏まえて「文脈に落とし込む」という作業ができれば問題ありません。そのために「前者」が出来ている必要があります。分からない言葉を少しでもなくす訓練を。

答え
⑴ 小さくまとまっているさま
⑵ 勢いに負けてひるむこと
⑶ 関係が見いだせず親しみが持てないこと

問二 様子の換言問題

小説の問題のアプローチ法などについてはまた別の機会で触れます。よって、「心情記述」の定義などはそこまで深く考えず読んでください。

もちろん、私の授業を受けている生徒にはわかる話です。(一応博耕房ハイレベル生向けに発信しているので、ご愛敬。)

<設問>
 傍線の箇所(ア)「『やれやれ』といった様子」には、「鳥たち」のどのような「様子」が表れているか。本文の内容に即して四十字以内で説明せよ。
<プランニング>
【設問タイプ】 様子の換言=心情記述の一種
【考えるべきこと】 
⑴「やれやれ」と思う原因となる「出来事」の確定
⑵「やれやれ」という心情かつ様子の換言

<アプローチ>
⑴ 出来事(=きっかけ)の確定

→ 直前に注目。「やれやれ」と思うのは「本の中の鳥たち」である。彼らが「やれやれ」と思うのは、「分館に収蔵されて以来まだ誰の目にも触れていないページに」いて、ようやくそこから「見つけられた」からである。以上の情報をまとめていこう。

<出来事>
長い間開かれることが無かった本の中の鳥たちが、ようやく見つけられたことに(36字)

⑵心情/様子の換言
→「やれやれだぜ…」というのは空条承太郎ですが(わからない人は『ジョジョの奇妙な冒険』を参照しなくていいです)ここで「出来事」を踏まえて考えると、「安心」「安堵」しているぐらいでいいのではないでしょうか。

<心情/様子>
安堵している。

⑴・⑵を字数調整のうえで40字に収める。これもなかなか苦しい作業である。

<答え>
長い間本の中に閉じ込められていたが、ようやく見つけられて安堵している様子。

字数をまとめる際に、設問では「鳥たちの」「様子」を答えることになっているので、主語の「鳥たち」はカットしてもいいかな、と判断しました。参考までに。

問三 様子の理由説明

<設問>
傍線の箇所(イ)に「小父さんは狼狽(ろうばい)した」とあるが、「小父さん」はなぜ「狼狽」したのか。その理由を本文の内容に即して四十五字以内で説明せよ。

<プランニング>
⑴ 小父さんが狼狽したきっかけとなる「出来事」の確定
⑵ 狼狽することを心情語に換言する
⑶ ⑴と⑵の間の因果関係を埋めていく

⑴ 出来事の確定
これもまずは直前の内容を確認する。
「新しく借りる本をカウンターに置いた時、突然司書から声を掛けられ」とある。ひとまず、「突然司書から声をけられたこと」がきっかけとなるだろう。

<出来事>
突然司書から声をけられたこと

⑵ 心情の確定
狼狽するの意味を考える。「あわてる」となるので、これを採用。

<心情>
あわてる

⑶ ⑴と⑵の間を埋める。

「司書の女性から声をかけられて」「あわてた」だけでもある程度の内容を押さえているが、これではやや内容、字数ともに足りない。

では、間を埋めるにはどうすべきか。⑴の時点で気づいていた人もいたと思うが、そもそも「声をかけられた内容」が何だったのか、である。直前の会話文を確認する。

「いつも、小鳥の本ばかり、お借りになるんですね」

そう、「鳥の本を借り続けていることを知られていたことに」あわてたのである。しかも相手を「意識したこともなかった」のである。

この内容をまとめる。

<答え>
意識したことがない司書の女性に、自分が鳥の本だけを借りている事実を指摘されあわてたから。(44字)

「事実を指摘され」の部分はやや硬めの表現で、受験生は思いつかないかもしれないが、でも、これぐらいは書けてほしくもあるかなあ。

問四 比喩換言問題

詳細はまた別の記事に書くが、小説問題は心情を考える問題と比喩などを換言する問題に大別される。今回は後者の問題。

<設問>
傍線の箇所(ウ)「鳥の法則」は何を指しているか。本文の内容をふまえて三十字以内で説明せよ。

<プランニング>
・ 「鳥の法則」の比喩の意味するところを文章内容から考える。

<アプローチ>
「鳥の法則」は司書の発言である。小父さんに対しての発言なので、「小父さんが鳥に関連する本ばかりを借りていくこと」を「鳥の法則」と呼んでいるのであろう。ここは確実に得点したい。

<答え>
小父さんがいつも鳥に関連する本ばかりを借りていくこと。(27字)

字数が余ったので「いつも」を加筆した。あってもなくても得点は変わらないでしょう。

問五 心情記述問題

<設問>
傍線の箇所(エ)「彼女の声をもっとよく聞きたくて、更に力一杯ペダルを踏んだ」には、「小父さん」のどのような気持ちが表れているか。「小父さん」の心情の変化に着目して七十五字以内で説明せよ。

<プランニング>
⑴ 出来事の確認
→ なぜ「彼女の声をもっとよく聞きたい」のか。その出来事を確認する。
⑵ 心情の確認
→ 傍線部から「心情」を確認する。
⑶ ⑴と⑵の間の因果関係の不足を埋める

<アプローチ>

⑴ 出来事の確認
ここが一番難しいと思われる。この心情になる前に何があったかを整理すると、「薬局からポーポーがなくなったこと」が挙げられる。

ポーポーが撤去されたことで小父さんは「これで、お兄さんがポーポーのために特別に選ばれた人間であったことが証明された」ことを痛感したことなどから、お兄さんが「特別な人間」であることを感じたのだ。そして自分はそんなお兄さんを通して鳥とかかわっていたのだが、そのお兄さんがいなくなったのである。

そこで、図書館の司書の女性が出てくるのだ。彼女は「兄とは無関係に自分が鳥と関わっていることを(無自覚だが)認めてくれている」存在なのである。

ここまでの情報をまとめると以下の通りになる。

<出来事>
これまでは鳥にとっても特別な存在である兄を通して鳥と関わってきたが、司書の女性は兄とは無関係に自分が鳥のことを好きであると認めてくれる存在である。

⑵ 心情
ペダルを強く踏むのは「気持ちの高まり」を示している。「高揚感」などでいいのではないか。

<心情>
高揚感

⑶ は今回は不要かな。では、まとめていこう。

<答え>
これまでは特別な存在である兄を通して鳥と関わってきたが、司書の女性が兄と無関係に自分が鳥が好きであることを認めてくれていることに高揚感を覚えている。(74字)

単に「女性に声をかけられて」嬉しい、だと浅い。偉大なる「兄」の存在から解放された「一人の鳥好き」としての「小父さん」(=自分)を認められた、という方向である方が内容に即しているだろう。

それでは。















よろしければサポートをお願いします。日々の制作の励みになります。