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上智大学大学院 応用データサイエンス学位プログラムに通っています (③特定課題編)
tkgです。
2023年4月に開学した上智大学大学院応用データサイエンス学位プログラム(以降、上智ADSと略) の1期生で、現在修士課程の2年目です。つい先日特定課題(≒ 修士論文)の口頭試問が終わりました。開放感・達成感とともに、卒業も間近に控え一抹の寂しさを覚えています。
前回は大学院の入試について紹介させていただきました。今日はまさに2月入試ということで、受験された皆様のご武運をお祈りしております。
本日は特定課題の具体的な進め方、スケジュール感についてお伝えできればと思います。
特定課題とは
卒業要件として課されるもので、自身の大学院での研究成果を論文化したものです。ほぼ修士論文です。
ではなぜ「修士論文」ではないか?大学院設置時の資料には以下のように記載されています。
本学位プログラムにおいては、その人材養成の目的に照らし、学術的な基準を重視する修士論文ではな く、実社会での実践性や有用性を重視した特定の課題についての研究成果(以下、特定課題と表記)を一律 に課すこととする。特定課題の審査基準は以下のとおりとする。 特定課題の作成にあたっては、修士論文の審査基準である学術的な側面だけでなく、実務での有用性という点を強く意識した構成が求められる。データサイエンスを用いたビジネスの現場ですぐ使える水準の実践的な内容を含む成果物を想定しており、データやグラフを含めA4用紙20枚程度を基準とする。特定課題も修士論文と同様に研究論文であることに変わりはないが、形式は必ずしも研究論文のものに準じることは求められず、一次資料だけではなく二次資料も活用しながら作成することができる。
「設置の趣旨等を記載した書類 本文」
少し書き換えると以下3つの特徴があるかと思います。
審査基準として「実務への応用性」が意識されていること
執筆ボリュームとして一般的な修士論文よりは少ないであろうこと(内部的にはA4用紙20枚程度という基準だけでなく、2万字程度という基準も語られていましたが、一般的には少ないものかと思います)
利用データの確保などの制約を考慮し、二次資料の活用も認められていること
なお、基本的に特定課題は非公表となります。所属先企業や提携先企業のデータを用いて研究を行う場合もあり、利用データや知見を公開できないケースも多いからです。但し、ADSの教員・学生だけが参加できる特定課題審査会では、必要に応じて情報にマスクをしながら、研究要旨をパワポで掲示することはあります。
スケジュール
入学前
入学試験を受ける際に研究計画書が必要です。
その際、どのように研究計画書を整備したかは前回の記事をご確認ください。
ただし最終的な研究計画書の確定時期はM2の5月末であり、入学前に設定していたテーマと最終的なテーマは大きく異なる人も多く見られました。
M1の3月頃に演習A/Bの教授が発表されますが、教授の得意分野に合わせてテーマを変える人、やりたいことに関するデータを集められずテーマを変える方など、事情は様々です。私もデータ取得が出来なさそう、という問題で若干テーマ設定が迷走しましたが、結局元々やりたかったテーマをそのままやることができました。
M1
M1では特定課題作成に向けた明確なタスクはありません。
個人的にはその代わりに特定課題のテーマを固めることに注力しました。
まずは、そもそもデータサイエンスの基礎中の基礎から学ぶことからスタートです。どのような手法があるか、どの手法をどういったビジネスケースで活かせばよいのか、等がわからなければ、適切な研究テーマを設定することもできなければ、研究の手法も考えようがありません。
その上で、入学時に書いた研究計画書に記載したテーマを実施しようとすると、データの取得で行き詰ることは明々白々だったので、研究に使用するデータをどのように取得するか下調べをしていました。学年にはクラスのようなものが一応存在し、各クラスに担任っぽい教授が一応存在するので、その教授に相談しつつ進めました。どの教授も優しいので、担任に限らずやりたいテーマと関連の深い教授がいればその方に相談することは出来ると思います。
公的な統計データに限らず、研究目的で使用できる民間データ(情報学研究データリポジトリ等)があることや、Kaggleなどのコンペデータで同様のテーマのものがあれば使用しても良いのでは?といったアドバイスをいただき、それらの使用を検討しました。
更に、M2で師事する演習A/B(ゼミ)の教授探しを行いました。
ADSではM1の必修として各教授を紹介する授業があり、春には演習A/Bの教授が自身の専門について話すオムニバス授業が、加えて秋には演習B(Business)の各教授ごとのミニゼミがあります。この必修を通して各教授の専門分野やゼミの進め方を知り、自分に合った場所を選択するわけです。
わたし個人としては、マーケティング+因果推論をテーマとしたかったので、Aでは計量経済学を学べる教授を選択、Bではマーケティングを学べる教授を選択し、実際にM2で師事することとなりました。
ちなみに、ここまでは私の進め方を一例として紹介したわけですが、中にはM1の段階から既に論文を書き始めている人もいました。学会発表を目指すのであればM1から書き始めないとスケジュール的に間に合わないということのようです。
やりたい研究のテーマと手法が入学前からかなり具体的に固まっていたパターンと、授業の課題発表で各々が立てた分析テーマが思いのほか好評でそのまま延長して論文化させたパターンがあるように思います。
わたしのような標準ペースで学ぶと、論文執筆に割ける期間が実質半年とかなり限られることになりますので、やりたいことが決まっていたり、学会発表の実績をつけたいといった希望があったりするようであれば、早めに教授を捕まえて動き始めるのが吉かと思います。
M2(〜5月)
M2の5月末が研究計画書の提出締切となります。論文の大筋はこの期間で固まることが多いように思います。私は4、5月でデータ取得方針を固め、簡単に先行研究の調査をしながら、実施したい手法を検討していました。
中には、M1の3月頃に発表される演習A/Bの配属先によって大きくテーマを変える方もいました。前述の通り、教授の得意分野に寄せるパターンもありますし、教授によっては企業との共同研究案件を持っているのでそれをベースとするパターン、あるいは研究室ごとに使用できる予算や使える環境(サーバ・分析ツール等)も違うためそれに合わせるパターンなどがあったかと思います。
また、ここからは演習A/Bによって大きく教授の研究への関与の仕方が異なっていきます。私の所属したゼミでは、演習A側は教授にアポを取って研究計画書をレビューする流れで、演習B側はゼミの授業枠を利用して全員が研究計画書の内容を発表し、ゼミ全員でフィードバックするパターンでした。一方、中には基本教授がノータッチだった(良く言うと自主性が重んじられている)ゼミもあったようです。
M2(〜9月)
私が所属していたゼミでの話になりますが、演習B側ではゼミ生各々が研究の進捗を発表しあう形で進めていました。この3週~4週に1度の進捗発表をマイルストンとして研究を進めていきました。
なお、7月の中間発表段階では、データ取得を終わらせ、先行研究調査をしつつ分析の一部分を実施、そこでいろいろ課題が見つかった状況で、8月9月の夏休み期間では再度先行研究を調べながら分析手法を改善、といった状況でした。
春学期は同時並行で授業もいくつか受けていました。(M1の時より少なめではありますが。)加えて、演習A側のゼミでも研究手法に関する座学を実施し、計量経済学、統計的因果推論の輪読を行いました。テーマは教授が準備したいくつかの候補の中からゼミ生全員で選別したものでした。
まだでもこの頃は比較的余裕があり、夏休み期間は結構遊びに行くことも多かったです。ADSの学生で花火見に行ったり、ビアガーデン行ったり、演習B側はゼミ合宿があったり。
M2(〜1月)
秋学期とともに本格的な執筆作業がスタート。
演習Bでは引き続き3週~4週に1度の進捗発表がありましたが、演習Aでも輪読だけでなく論文の進捗共有が授業に組み込まれることとなりました。演習A/B以外の授業は履修せず(一部聴講はしていた)、本格的に論文執筆に集中する形となりました。
10月~11月は手法を改善しながら分析を一通り実施、12月にそれを必死に論文化といった流れでした。手法の考慮不足や解釈の不十分さ、ロジックが通っていない部分など、文章化すると見えてくる課題がどんどん山積していく状態で、この時期は非常に大変でした。
結局、課題は全部消化することはできず、11月の終わりに一度区切ってまずは現時点のものを一つ論文として形にすることを優先しようと決めました。その後余裕があれば残課題に取り組もう・・と思いましたが結局1月までに残課題に取り組む余裕はありませんでした。
年末は必死に執筆。大学の自習室は年末年始に使えないことから、シェアオフィスに課金して執筆を続けました。そして元旦にほぼ論文は完成。その後1週間ほどかけて論文の体裁を整えたり、特定課題審査会用のスライドを作成したりしました。
その後、1月末に特定課題審査会(口頭試問)が行われ、無事終了となりました。
個人的には論文の字数のハードルは全く高くなかったと感じました。先行研究や、研究手法、結果、その解釈を説明すればA4用紙20枚は比較的簡単に超えました。(結局40枚程度書いてます。)一方で、先行研究の把握や研究手法をいろいろ試すのに思った以上に時間がかかった印象でした。
まとめ
ここまで、私自身の特定課題の進め方を記載しました。
「早めに動こうね」とは簡単に言えますが、実際には尻に火がつかないと動かない人が多いでしょうから、ゼミでの発表や教授とのアポなどを定期的に入れて、計画的に動くような仕組みを作るとよいと思います。その意味では私が所属していた演習Bは必ず3~4週に1回発表があったので良いマイルストンになりました。
ADS1期生ということで各教授とも今年はやり方を模索している感じで、結果指導方針にバラつきが生まれたようです(特に演習A)。さらに、ゼミによって共同研究先の有無、データの有無、LLMを構築できるような環境の有無が違っており、やりたい研究テーマを明確に持っている場合はやりたいことができる環境か事前に確認しておくべきかと思います。逆にやりたいことがない場合は各先生と早めにネタがないか相談してもいいかもしれません。
本日は以上です。
何かご質問や今後こういったことを書いてほしいといったご要望などございましたらコメント欄にお願いします。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。