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「歌舞輝町の命綱」という称号の重みについて【&0―雪原和哉の考察】

※注意事項※

このnoteは、アプリゲーム『&0(アンドゼロ)』の登場キャラクター『雪原和哉』についての考察をまとめたものです。
記事の性質上、交流内容のネタバレが含まれますのでご注意ください。

彼の特性

医者は患者の命を握っている。治療するだけでなく、逆に命を奪うことも簡単だ。
歌舞輝町は治安が悪い。他人を貶めようとする人、他人の恨みを買っている人がきっとたくさんいるだろう。
つねに自分の命を守る必要がある町で、「命綱」と呼ばれる所以。
それは「どのような誘惑や脅迫にも屈さず、必ず命を救うことを最優先に考える医者」だから。
言葉にするのは簡単だが、人間がそうあり続けるのは難しい。

たとえば私が医者だとして、担ぎ込まれた患者が凶悪殺人犯だったら治療の手を抜いてしまうかもしれないし、ある患者を見殺しにするよう大金を積まれたらその通りにするかもしれない。
でも雪原和哉は絶対にしない。どんな悪人でも全力で助けるし、お金で彼の意志は揺るがない。銃を突きつけられても目の前の患者を治療する手を止めないだろうと確信できる。
まさに、尋常ならざる「意志の強さ」が雪原の特異性の最たる部分だと思う。

経営論に「性弱説」という考え方がある。
人間は弱い生き物だから魔が差して悪いことをしまう、魔が差さないシステムを作ることが大切だ、という話。
特に前半に同意する。人間は弱い、「意志」が弱い。それが普通で、雪原が異常だ。
彼のこの性質が良いか悪いかという話ではなく、そのどちらにでも転がれるほど影響力の大きい性質を避けて雪原和哉は語れないと思っているだけだ。(もう何度「雪原は意思が強い」という話をしたんだか…)

ちなみに、良い方向に転がったのが医師の仕事で、前述のとおりこの性質のおかげで「命綱」の称号を得ている。彼の医療技術の高さも、強い意志のもとで努力を続けた結果だろう。
悪い方向に作用したのは、言わずもがな山神関連だ。彼は時折、感情よりも「すでに決定された意志」を優先する。あとで許したくなっても、一度「許さない」と決めた意志には逆らえず、容赦する感情にすら気づけない。
これはつまり、「意志が強すぎると人間関係に支障が出る」ことを示している。

彼の対人意識

むろん、雪原の「人付き合いの下手さ」の要因は意志の強さだけではない。
そもそも、彼は人間にあまり興味がない。自分自身に対する興味すらもだ。
よく知らない人間と接するのは苦手だと明言しているし、よく知る人間に対してもなかなかの塩対応をする。例外は主人公(七篠)くらいだろう。
嫌いなわけではないと思う。人間が嫌いなら、あんなに一生懸命に医師業をまっとうしようとしない。ただ興味が薄いだけなのだ。

人間に対する興味が薄いと、その対象への理解も浅くなる。知ろうとしたり、考えようとしなくなる。
だから雪原は山神を許せなかったし、自分の体をかえりみずワーカホリックになっている。
彼の意志を決めるのは、感情や体調ではなく「客観的事実」だ。
相手への理解が少ないままなされる論理的な思考が、人間関係の衝突を生むことは少なくない。
恐らく、雪原が経験してきた衝突も、そのようなものではないかと思う。

今更ながら、「意志の強さ」とは何なのか。この場における定義としては「一度行動指針を決めたら揺るがない(諦めない)こと」だ。
医者になると決めたらなる。
命を助けると決めたら助ける。
愛すると決めたら全力で愛する。

そして、苦手なものはいつまでも苦手だったりするのだ。頑固な意志を打ち砕く(思い直させる)数少ない取っ掛かりが、愛の対象である主人公や兄の存在だ。

彼の愛

雪原の恋愛観を考えるたびに、私はインコを思い浮かべる。
インコは愛情深いことで有名で、夫婦になったら一生を寄り添って生きる。よそ見はせず、「愛する意志」は変わることがない。この一途さがそっくりだと思う。

人間におしなべて興味の薄い雪原が唯一興味を示すのが、鳩などの鳥や多肉植物だ。なぜなら、彼はそれらのことは愛しているからだ。
失礼なことに、雪原の交流セリフには主人公と公園の鳩は一緒だと告げるものがある。いや確かに失礼なのだが、これは雪原がそれまで人間に対して鳩ほどの興味も感情も持っていなかったことを示す、寂しくも感動的なセリフだ。
彼がこれまで愛してきた(今も愛している)と言える人間は、恐らく兄くらいのものだと思う。それは、兄もまた弟を大切に扱ってきただろうからだ。雪原兄弟についての具体的な情報はほぼないが、彼の話しぶりからして兄への敬愛が感じ取れる。
彼が愛する者たちは、みな雪原和哉を否定しない存在ばかりだ。主人公もまた、そうである可能性が高い。
しかし鳥や植物は話すことすらできず、兄は弟に干渉しないので、彼に意見を通せるのは主人公をおいて他にいまい。

雪原の「強い意志」には悪い面がある。山神関連が顕著だが、さらに自身の不養生も見過ごせない問題となっていた。
だが後者に関しては、親密レベルを上げることで本人の口から改善の意志があることが伝えられる。それまでの主人公のお節介が功を奏した結果だ。
では山神問題はどうか。残念ながら、親密レベルを38まで上げても「許せない」という感情に疑問を持ち始める段階までしか進展は見られない。きっとメインストーリーや個別ストーリーで語られる部分なのだろう。
それでも、主人公の存在によって自分の感情を見つめ直すきっかけになったのだと信じたい。
主人公くらい――それこそ兄や鳩くらい愛せる新たな人間との出会いがなければ、山神への感情は溶ける気配すら見せなかっただろうからだ。

彼の憎しみ

雪原は、山神のこともまた愛していたと言える。
彼のは一途で意志の強いものだが、それは反転してしまえば一途で意志の強い憎しみにもなりえるということだ。
山神の場合がそうだった。大学時代、山神は雪原とって、かけがえのない友人だった。それが今では絶交状態になっている。
なぜ愛は反転するのか。それは期待を裏切られたからだ。
具体的に山神にどう裏切られたのかは定かではないが、雪原は山神の持つ技術を「天才」「神業」と評していることから、医師としてかなり尊敬していたことがうかがえる。また、亡くなってしまった共通の友人の存在もあるので、そこらへんが原因だったことは予想がつく。

さて、強い憎しみに対抗できるのは、他の対象への同じくらい強い愛情だと思う。
憎しみを持つことの最大の悲しみは、愛を失ったことにある。ならば、また手に入れれば癒やされるのではないか。
そうして雪原が出会ったのが主人公だ。彼女への愛は山神への憎しみにやがて釣り合い、山神を許さないと決めた意志が、彼女によって揺るがされることだろう。
私はそう期待する。

彼の長所

これまで「意志の強さ」という特性の悪い部分しか書いていなかった気がするので、良い面も書くとしよう。
対人関係では弱点となっていたこの性質だが、こと仕事においては抜群のプラス効果を発揮する。

仕事とは、医師業もそうだし、学業でもそうだったはずだ。
彼はさらりと「兄より頭が良かったから医者を目指した」と言っているが、そんな理由だけで医学部に入学できてしまった雪原の努力の才能は異常だ。
いわく、挫折や失敗をしても、諦めないと決めているから立ち直れるらしい。強すぎる。
しかも、医者をしている現在でも勉強の手を止めていない。もちろん、医学は日々進歩しているから必要なことではあるのだろうが、それにしたって宿直室を論文と文献だらけにして看護師に鳥の巣呼ばわりされる医者は普通じゃないと思う。受験生でも、もうちょっと綺麗な部屋に住んでいると思うのだ。

彼のエゴ

彼の「意志の強さ」は、すべて彼自身を守るために使われる。
面倒くさがりなので、住処の掃除や運転免許の取得や運動能力や料理スキルの向上には生かされない。むしろ「客観的事実」に基づいて苦手は徹底的に回避する。そのほうが合理的で面倒がないからだ。
だが、避けようのない心の傷を受けたとき、雪原は特に強い意志を得る。
兄の存在で自身のアイデンティティが揺らいだときは、医者を目指すことを決めた。
山神関連でショッキングな死を経験したときは、目の前の命を絶対に救うことを決めた。
彼の打たれ強さの正体は、論理で激情を抑え込む生存戦略であり、これは防衛本能でもある。
さらに生来の表情の読みにくさも手伝って、ともすれば融通のきかないロボットのようにも見えるが、その内側には確実に激情が渦巻いているのだ。

おわりに

だいぶ表題から話がズレた。
しかし、この考察は一貫して「雪原和哉の意志の強さ」を軸に書いているつもりだ。
それがいかに厄介で、扱いづらく、彼を助け、彼を生かしてきたか。
本当はもっと書くつもりだったが、今はっきりと言葉にできるのはこれくらいかもしれない。雪原和哉は奥深い。「意志の強さ」という一軸だけではとても語りきれなかった。

ほかにも、プライドとコンプレックスからくる努力家の性質とか、対人が苦手なのは面倒くさがりもあるとか、恐怖心とか、掘り下げたいことは山ほどある。
だが圧倒的に考察材料が足りないので、今の時点では妄想にしかならない。

もっと雪原和哉を理解したい…。

お粗末でした。


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