nouvelle vagueのもとで漕ぎ出すJuice=Juice
Juice=Juiceが、3か月越しの、日本武道館の振替公演に臨む。
この公演と、昨秋のツアーには「nouvelle vague」(ヌーヴェルヴァーグ・フランス語で「新しい波」)と冠されている。
新しい波。そのまま英語で「ニュー・ウェーブ」という言葉もあるが、当然昨夏に加入した石山咲良・遠藤彩加里を指しているだろうし、そこに有澤一華・入江里咲・江端妃咲といったコロナ禍以降に加入した面々だけでもグループの半数を占めるようになり、さらに工藤由愛・松永里愛を含め現在10代のメンバーが実に10人中7人となっている、そしてそれぞれ結成時・加入時はグループの末っ子だった植村あかりと段原瑠々がそれぞれリーダーとサブリーダーとして支え(段原は梁川奈々美よりも誕生日は先だが、梁川は先にカントリー・ガールズとしてデビューしていたからか、プロフィール上は段原が末っ子だった)、加入は工藤・松永よりも後である井上玲音もグループの急激な変化の中どんどん重責を担っているという、今のJuice=Juiceにとてもピッタリな言葉だと思う。
だけれど、メンバー構成だけではなく、グループそのものが置かれている状況も指した言葉だと、自分は思う。
↑の頁の「T氏」の項で、2019年にグループの最高到達点を迎えながら、翌年春以降の状況が変わりすぎていった旨に触れた。
それはさしずめ、コロナ禍という大きな揺れの後、ベテラン等の離脱が津波のように襲い、これまで積み上げてきたものが引き波に攫われていくようだった。
傘の下の君に告ぐ
コロナ禍の直前だった2020年1月、突然こぶしファクトリーが3月での解散を発表した。その時に一部ハロヲタの間で話題となったのが、版権元の兼ね合いが原因ではないかという説だ。
2019年時点でのハロプロ関連の版権管理元というのが、
テレビ東京ミュージック:モーニング娘。、アンジュルム
テレビ朝日ミュージック:つばきファクトリー
ティーズ音楽出版:Juice=Juice
日音:カントリー・ガールズ、こぶしファクトリー、BEYOOOOONDS、鈴木愛理
なお、日音とはTBSの子会社である。
2018年に鈴木愛理がソロデビュー、2019年にBEYOOOOONDSがデビューし、彼女らを売り出していく為にカントリーとこぶしは押し出される形になったのでは、という説だ。真偽は不明だが、腑には落ちる。
ところで、テレビ局系列が並ぶ中、異彩を放っているのがティーズ音楽出版だ。
ティーズ音楽出版は、タモリらが所属し、過去も錚々たる面々が籍を置いていた老舗芸能事務所、田辺エージェンシーのグループ会社である。
田辺エージェンシーとの関係は、取締役レベルの裏方同士の関係となるともっと昔まで遡るのだろうが、素人からも見てわかるのは、2006年につんく♂が自ら社長を務めるレコード会社「TNX」を設立した際に、田辺エージェンシーが出資に関わっている。
その見返りに、2013年にJuice=Juiceを結成した際に楽曲権利をティーズ音楽出版に分配した。
2013年といえば、AKB48が最も隆盛を誇っていた頃と言える。AKBは、業界の様々な分野に権利を分配することで過去に類を見ない規模で勢力を拡大していた。
一方アップフロントは、全てを自前で賄ってしまう為に、そういう面での業界受けが悪い。あくまでアップフロント比ではあるが、AKBの手法に倣ったと言えるのでは。
こうして、Juice=Juiceは田辺エージェンシーの傘の下に入れたといえよう。
ラヴ コネクション
コロナ禍中となった2020年夏から秋にかけて、苦肉の策で行われた公演「The Ballad」。その11月21日の公演でのこと。
金澤朋子が本来のレパートリー曲を歌った後、佐藤優樹と共にMC。そこで、同月18日に逝去した東映グループ会長・岡田裕介氏への哀悼の意を述べ、2人で「ひこうき雲」を歌唱した。
なお、別会場では牧野真莉愛が岡田会長に哀悼の意を述べた。
岡田会長とアップフロント会長とは昔から親しく、東映とは懇意でハロプロとも1998年の珍作「モーニング刑事。」からの繋がりがある。
モーニング娘。時代からたびたび戦隊ヒーローへの憧れを語っていた工藤遥が、早々にルパパトで夢を叶えたのも、岡田会長の後押しがあったからこそだろう。その後も「461個のおべんとう」「樹海村」といった東映作品に出演。工藤はブログで、「現役時代からお世話になっていたのですが、女優に転向後は、それまでの何百倍も、気にかけて、面倒を見て下さっていました。」と語り、哀悼の意を示した。
お世話になった方が亡くなられたら、哀悼の意を示すのは大切な事。
けれども、コンサートでファンの前でやるべき事だったのかは、疑問が残る。特に金澤は「何度も食事をご一緒させていただいた」とも。
そうか、君が会長のお気に入りだったんですね。としか。
そして1年後、何の因果か「ひこうき雲」を歌った2人ともが、体の不調を理由に卒業。
そういえばかつて、ジュンジュンとリンリンは北京五輪の前に加入して、上海万博が終わったら卒業したね。わかりやすいね、うん。
こうして大人達の手駒として扱われたかと思えば、最後期にはファンにも疑念を抱かれる出来事が起こり、これで心が折れてしまったか、金澤はひっそりと引退していった。
それと牧野は以前(少なくとも2018年夏まで)は「まりあは好きな選手がどういう事を書いてくれたら嬉しいかを考えて、ファンの人が読んで嬉しいブログを書くようにしてる」と言っていたのが、いつの頃からかGoing my wayな発信に。少なからず関連がある気がしているのだが。
後ろ盾の偉い人がいるというのはありがたい事だが、それが可視化されるのはファンはあまりいい気持ちはしない。
今も例えば生田衣梨奈にはゴルフ繋がりの弁護士先生がいらっしゃったりするが。
Love is Blindness
↑の頁の和田薫氏の項で、
『年頃の子に恋愛するなと言ってもそれは無理だと思ってる。ただ、同業者とだけは面倒な事になりかねないからそれだけはやめてくれ』
とユウキは言われていたという話。
その“面倒な事”を実に14年振りにハロプロに招いてしまったのが高木紗友希だ。“妹”との非常に楽し気な日常をブログやSNSにも綴り続けた半年ほどの日々の結末。
事の経緯は皆さん御存知であろうから説明はしないが、時を同じくして、そして今も、傘となる田辺エージェンシーは揺れている。
現在84歳の“芸能界のドン”とも言われる田邊昭知社長の後継者問題だ。昨年末には、看板俳優である堺雅人が退所し独立したことからも、外部に振向ける余裕は無い事が窺える。
高木の一件で、渡りに舟とばかりに体裁よく“傘”を縮小されてしまったとか、どうとか。
短期間に2つの後ろ盾を失い、グループに働く力の均衡は崩れた。
終末のコンフィデンスソング
話は2019年春。アンジュルムの「恋はアッチャアッチャ」をDA PUMPの「U.S.A」のように広めようという動きが突如事務所上層部で湧き起こり、「アッチャアッチャ応援隊」なる謎の動画まで制作される明後日の方向への力の入れようの結果は、惨敗。
そもそも、万人が真似したくなるダンスというものは、カラオケ等で座ったままでも出来るように、胸から上だけでもやれるものだ。「いいねダンス」は、まさにそうだった。
それがどうだ、アッチャアッチャの「もちょっともちょっと」の部分なんかは、頭をカクカクしながら腰のあたりで腕を動かすというものだ。
振り付けの先生だって、最初からそのような売り出し方をすると知っていればもっと違う振り付けをしたはずである。
それから1年。今度はJuice=Juiceにその役目の白羽の矢が立った。「ポップミュージック」である。
先にも述べたように、「ひとそれ」のバズりや代々木第一体育館公演敢行でグループの歩みのピークを迎えていたJuice。そして今度こそは振り付けの先生にも最初から話を通したと思われ、胸から上だけでもやれる、真似をしたくなる可愛くて楽しい振り付けだ。
「U.S.A」とまではいかないにしても、それなりの反響を期待させるものだった。
ところが、さぁ売り出すぞという矢先のコロナ禍。
各種ライブ・イベントが次々中止になり、発売当日にyoutube生中継の無観客イベントだけは行いそこで振り付けレクチャーはしたものの。
その後緊急事態宣言が発令、人がまばらな東京の光景がニュースやワイドショーで放送されたその中に、ポップミュージックが街で流れているのがかすかに聴こえそのミスマッチな能天気さが少しだけ話題になったりもした。
それだけ、想定していなかったポテンシャルを持った曲だったわけで、売り出すことができなかったのは本当に不運だった。
そこから徐々にハロプロは再び歩み出したが、Juiceには「上層部の意向の反映されやすさ」だけが残った。チーマネT氏の熱量の無さも相俟って、上層部のおじさん達の玩具と化した。
なぜ今頃「DOWN TOWN」なのか。フレッシュな3 flowerが入ったのになぜシティポップなのか。
「ひとそれ」に代表される『強セツナ系』(今名付けた)が好評を得、そのもう一つの最高峰「プラトニック・プラネット」が温存されているのに、というのもあってファンは戸惑い続ける日々だった。
上層部はアルバムは重要視していなかったのか、22年5月発売のアルバム「terzo」は、今のメンバーに合った、制作陣が本来作りたかったであろう楽曲に溢れた。プラトニック・プラネットも収録された。
また、新ユニット『L!PP』が発足し、シティポップ調の楽曲趣味はそちらへ移行。
そして、最新曲「全部賭けてGO!!/イニミニマニモ〜恋のライバル宣言〜」は、メンバーも、制作陣も、シングルでこういうことをずっとやりたかったであろう待望の作品となった。元々Juiceというグループが持つダンサブルさと、一気にフレッシュな顔触れとなった輝きで満たされた。
蘇生
トーク力抜群で歌もメキメキ成長した梁川奈々美、歌はもちろんだがダンスにも覚えのある段原瑠々、ダンスはハローでトップレベルでありながらバラエティ対応も確かな稲場愛香といった面々の加入は、それまでのJuice=Juiceがやや弱かった部分の強化となり、アベンジャーズとも言える隙のないグループへと進化していった。
しかし、それぞれのプロフェッショナルがいることで、“公務員的な分業制マインド”がだんだんと広がっていった感もあった。
2022年1・2月にスカパーで放送されたスペシャル番組。
その収録の際の事について、ラジオで稲場愛香がものすごく言葉を選びながら愚痴をこぼした。
半ば強引に話をブッタ切れる金澤がいなくなり、このような場を回す役というのが稲場しかいなくなってしまった。だが根はかなりの気使いであるため、ブッタ切るという事ができない。
後輩メンたちは、金澤さんがいなくなったぶんもっと頑張らなきゃ!という思いだったのだろうだけど、それぞれ個々人だけで頑張ってしまった。先輩メンは、こういう場は稲場だと全幅の信頼を寄せすぎていた。
だけれど、このことでまさに雨降って地固まるというか。
いつしか広がっていた、それぞれの得意分野を頑張ってればいいという認識を改めるきっかけになったように思う。
“グループ”とは何なのかを見つめ直したタイミングで、2年ぶりの単独コンサートツアー、「terzo」リリースと、新たに歩みだすことにふさわしい場にも恵まれ、Juiceは新たな絆を深めていった。
22年夏、宮本佳林主演の音楽劇「悪嬢転生」が行われた際に、宮崎由加と植村あかりで誘い合わせて見に行こうということになり、「せっかくだから入江里咲ちゃんがゲストの回にしよう!」となって、開演前の楽屋を訪問。そこで、植村が「りさち~がんばってね~」と猫かわいがりする様を見た宮崎。
かつて段原と梁川が加入した頃、2人を猫かわいがりする宮崎に嫉妬もあってか「甘やかすな!」と言っていたという植村。しかし今、植村がそうしている事に「ね、そうなるでしょ」と宮崎は思ったとか。
ブログやSNS、あるいはラジオ等でも、グループ皆の風通しの良さを感じさせる今のJuice=Juice。
重い鎧や高い下駄を外し、裸一貫、身軽になったJuice=Juiceは新しい波のもとで漕ぎ出していく。ここ数年の荒波を乗り越えて、前途洋々であることを願ってやまない。