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20230527奥出雲の旅(更新)

「みて、トンボがとまってる。」パートナーが日差しよけに羽織っていたレモン色のカーディガンの肩に、手のひら大の蜻蛉がまるで手作りのアクセサリーのようにビタリとくっついていて、写真を撮っても移動していても離れない。たたら製鉄の旧家である絲原家の庭園を巡っている時のこと。

蜻蛉の歓迎?

お殿様を招き入れるために作られた登録有形文化財の建物は、島根県の首長の会合で使われているそうで、入口を入って見上げると漢字で番号が書かれた大きな柱で高い天井の空間を作り出していた。庭に出て広がる滝と池、山を模した景観は、スマホの広角レンズでも全容が収められない。石畳の通路を進み、別の角度から見るとまた趣が異なる光景が広がる、そんな庭園でのトンボの歓迎だった。御成門を抜けた先にある近代の当主が作った滝も見映えがよく、マイナスイオンを放っていた。

楓滝(絲原家14代が創設)

たたら製鉄の旧家櫻井家にも、高いところからの滝・池・島で構成された庭園があった。そばに建てられている小屋の縁側から最適な眺めになるようデザインされていて、おもてなしの心意気を感じながらスマホにその光景を収める事が出来た。可部屋集成館では櫻井家に伝わる鎧兜に刀、掛け軸、屏風、大皿、着物などが所狭しと飾られていてじっくりと見ればかなりの時間を要すると思われた。

岩波庭園(櫻井家)

山を切り崩し、砂鉄を溶かし、純度の高い鉄を取り出す一大産業を思い馳せるに十分な資料や展示物が閲覧出来る。製鉄に必要な火力を得るためのフイゴの進化、切り崩した土砂を海に流す水路の技術、さらには切り崩し土地を棚田にして仁多米を作る知恵。棚田が一望出来る場所に立っても、あまりの広さ・高低差・山に近さにその凄さが伝わってこない。ただ、所々にあるこんもりとした土の上の神社やお墓が、切り崩す前にはその高さに土地があった証であるとの説明を受けて、どれだけの土地を切り崩して土砂を海に流したのかを想像してみる。宍道湖には相当量の土砂が流れ込んでいて、土砂を運ぶ水路を年によって変えたという治水・土木技術はあらためて素晴らしいと思った。

棚田にあるこんもりとした土の上にあるお墓

精製された鉄は純度によって分けられ、最良の玉鋼は刀に、その他鉄砲の筒や農具になる。刀は硬度の異なる鉄を合わせて出来ていると教わる。刃先は硬く、剣の部分はしなやかさが求められる。刀があまり陳列されていないのは、鍛冶屋が既に奥出雲にはいなくなっているからだそうな。「奥出雲たたらと刀剣館」で、小刀や包丁を販売していたが、購入には至らなかった。

出雲横田駅

しめ縄が立派な木次線の出雲横田駅は、観光バスも来る撮影スポットになっていた。近くのハイカラな教会は、今回の企画の発起人が子供の頃に礼拝に通っていたという。少し先に見える神社から参道になっているようなことに、和洋折衷を感じた。

横田相愛協会

古民家を活用した宿泊が出来る「田舎塾」で、パーべキューをしながら、奥出雲の感想を地元の方々を交えて語り合った。

古民家を改装した「田舎塾」

特別に用意された地元の牛肉、仁多米のおにぎり、お煮しめ、そして地元のお酒。七冠馬はシンボリルドルフの馬主に嫁いだ娘さんが由来の日本酒で、用事されていたプルーのボトルは、爽やかでとても飲みやすかった。後日、ここで刺された跡が痒くなり腫れて跡になったのは、刺し方が異なるブユの吸血方法だと知った。2ヶ月経った今でも両足合わせて5箇所にシミのように残っている跡をパートナーは気にしている。

左:特別純米酒、右:純米吟醸「夏涼み」セブン
2つの七冠馬のラベル

観光資源として、たたら製鉄・旧家巡り・刀剣館、棚田・仁多米・日本酒、稲田姫伝説・出雲蕎麦、多根自然博物館、神話・佐白温泉、田舎塾、さくらおろち湖・サイクリングロード等がある。地元タクシーで移動したが、それぞれの場所が離れているこた、道が単調で曲がる場所を間違えると引き返すしか無いことなどから、道案内を確実にする必要がある。また、併設のカフェがやっていなかったこともあり、観光地化されていない現状が見て取れた。今回は最初に訪れた可部屋集成館で、たたら製鉄の歴史等を専門のガイドさんに説明をしていただいたため、その場所に行ってその素晴らしさを理解することが出来た。また、見学の順番も大事だと思う。

稲田神社境内にある「姫のそば ゆかり案」

翌日はかねてから訪問したかった2つのワイナリーを巡った。奥出雲の名前を冠するワイナリーは、山の中であまり案内も見当たらなかったが、地元のタクシーで迷わず開園前に入口についた。眼下に広がる葡萄畑は大小のビニールで覆われ、整然と品種毎に区画されているようだった。広場になっているワイナリーの入口奥にはテーブルが置かれていて、カフェの準備をする姿が見られた。ワイナリーの方に説明を受け、試飲用のコインをもらっていくつかワインをいただいく。購入したワインに加え、親会社である木次乳業が作るチーズなども合わせて送ってもらうよう手配した。出雲大社に向かうタクシーを頼んで、乗り場の方へ歩いて行くと、家族連れが駐車場に止めた車から賑やかに降りて来るのが目に入った、あの広場でくつろぐのだろうか。

奥出雲葡萄園
奥出雲葡萄園の試飲マシーン

山を降りて川沿いの道を進み、小一時間をかけて出雲市駅へ。駅のロッカーに荷物を預け、出雲大社に向かう。途中、島根ワイナリーを通過する辺りで、タクシーの運転手からここはデラウェアの産地で、山から水が引かれるまでは田んぼも無かったと教えてもらう。島根ワイナリーに甘い葡萄酒が多いのは食用で取れすぎたものを葡萄酒にしたからなのでは?また、奥出雲の棚田を案内された時、島根ワイナリーの葡萄畑がスマホの地図に表示されたが、そこは金賞の輝いた甲州があるのでは?とも。バス停が敷地内にあり、観光バスが止まれる駐車場を持ち、いくつかの建物がある。無償試飲が出来、お土産を販売しているバッカス館は多くの人で賑わっていた。カウンターがある有料試飲コーナーでフラグシップのボトルを飲むことが出来るが、販売を終了しているものが殆どだったのは残念だった。

島根ワイナリーのご案内
試飲販売館(バッカス)
有料試飲コーナー

駅に戻るために呼んだタクシーの運転手は、カタカナの身分証だったが流暢な日本語で話をしてくれた。インバウンド対応で採用されたらしく、都心でよく見るボックスタイプのタクシー(会社に一台だけ)だった。奥出雲に行ったと伝えると、レガッタの国際大会があった時にオーストラリアから来たご夫婦に付き添って案内し、とても楽しかったと語ってくれた。また、ロードレースと温泉をセットにした国際大会を実施すれば、奥出雲の観光に役立てられるのでは?といったアイデアも披露してくれた。

荘厳な出雲大社、天照大神の像や色々な箇所に様々なポーズで佇んでいる兎の像、出土した365本の鉾や銅鐸、かつての出雲大社の巨大模型や出土した柱。奇しくも、島根半島東端のえびすさま(美保神社)から西のだいこくさま(出雲大社)の100kmを駆け抜ける「えびす だいこく 100Kmマラソン」をやっていて、マラソンをしている兎の像もあった。実際に来てみて、その壮大さや歴史を感じる事ができた。

因幡の白兎
縁結びの兎
マラソンする兎
出雲は日本酒発祥の地


出土した365本の鉾
大昔の出雲大社の模型

次に来たときには、木次線のスイッチバックを体験し、足立美術館や松江城なども訪れてみたい。

2023年5月27日(土)〜28日(日)

追記(8/20)


本原稿をもとにした記事が「島根国(しまねのくに)」に掲載されました。
https://shimanekuni.com/business/cocreation/story5/

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