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ル・コルビジュエのキャバノン

ル・コルビュジエが晩年から亡くなるまで別荘として住んでいたのが、南仏の地中海沿いにある小さな町カップ・マルタンに今も残されている「キャバノン (休暇小屋という意味) 」だ。おそらくこのなんでもないようなこじんまりとした丸太小屋を見たならば、とてもモダニズム建築の巨匠が自らの終焉の家として作ったとは想像できないはずだ。

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もともとこの小屋は、彼とコルビュジエ夫人イヴォンヌの居住スペースとして造られたものだったが、考えてみれば、コルビュジエにとって住宅における最小限のスペースでの快適性の追求は、母親のために作ったレマン湖畔に建てられた「小さな家」の頃から取り組んできたことでもあったのだ。  

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ル・コルビュジエほどの偉大な建築家だと、普通に考えれば、ものすごく凝ったデザイン邸宅を建ててもおかしくないのに、彼の場合、自分にしか作れない究極の住いとして、実に極端ともいえる「最小限住宅」を選んだのだ。しかも、この小屋の設計デザインへの取り組みもかなり慎重だったようで、自身の設計事務所の5人ものスタッフが関わり、なんと半年もかけて構想が練られたという。  

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日本の間で言えば8帖ほどの広さで、室内にはベッド、整理棚、テーブル、洗面台、トイレのみで構成されていて、ベッドや椅子の内部には収納スペースが確保されていて、まさに最小限の空間に最大限の快適性を追求した空間作りになっている。このワンルーム空間は簡素な構造物でありながらも、鴨長明の『方丈記』のような巣に籠るような居心地の良い暮らし送るために様々な工夫が施されていて、晩年のコルビュジエ自身の哲学や精神性を優先させたような理想的の居住空間だった。

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事実、コルビュジエは「この休暇小屋の住み心地は最高だ。そして自分はたぶんここで一生を終えることになるだろう」とその出来上がり具合にかなり満足したいたという。その言葉通り、妻イヴォンヌが亡くなった後も彼は一人でこの美しい海辺の町に通い続け、この地の浜辺で77年に渡る生涯を閉じた。そして、コルビュジエ夫妻の墓はこの町の海を見渡せる丘にあるため、カップ・マルタンはル・コルビジュエ・ファンの巡礼地として特別な場所になっているのである。