7月28日 第77号 インスタントにうんざり
the pillowsというバンドがあります。私の大好きなバンドで、ツアーなどのライブがあれば足しげく通っています。彼らの楽曲に「インスタントミュージック」というのがあります。そのへんに転がっているような、栄養も何もない、即席で、ただただ、空腹を満たすだけのような、面白みも何にもない音楽ばかりの世界をユーモアを交えて歌っています。インスタント食品を批判しているわけではありません。おいしいと思います。インスタントヌードルが悪いのではなく、ありきたりな音楽のことをインスタントと表現しているわけです。このあたりのニュアンスは、ご理解いただけると思います。
私はテレビのお笑い番組や芸人の方たちのラジオが大好きです。その面白さはとっさに出てくる言葉のチョイスであったり、絶妙なたとえであったり、レトリックな表現であったりすると感じます。しかし、必ずしも、いわゆるバラエティ番組やワイドショー的なものが、全部面白いとは思えない。当たり障りのないことしか言わなかったり、よくそんなことが言えるな、という教養のかけらも感じられないやりとりを見かけると、目をそらしたくなります。実際、そんなにテレビを見なくなりました。
そんな反動でしょうか、時間をかけてつくりこまれたものや、一朝一夕では獲得できないようなパフォーマンスを目にすると、心動かされます。もしかしたら、落語を好きになったのも、そんなインスタントコメディに嫌気がさしていたのかもしれません。テレビに映るものが必ずしも時代の最先端の面白さとは限らない。オリンピックで金メダルを獲れるほど足の速い人だって、自分が一番速いと立候補した人の中から一番が選ばれるだけです。自分なんてとてもとても、という奥ゆかしい人は決して表には現れない。名人は、そんな人であって欲しいと私は思いますが、世間からは一切認知されないでしょう。
みんながいいというものだけを自分の身のまわりに集め、自らの目で本質や価値を見抜こうとしない姿勢は、インスタントな人生になってしまうような気がします。短期的な快楽におぼれ、夢中になったまま、くたばってしまうのです。