技術広報の仕事と兼務の難しさ
こんちゃす!この記事は 技術広報 Advent Calendar 2023 の15日目の記事です。「今年の広報活動の振り返り」とか「技術広報かくあるべき」というテーマではなくて「いや、技術広報って難しくね?」って話をチョイスしました。
技術広報って?
まずは技術広報が何であるかを理解していきます。これを説明するために便利な記事としてkiko氏のインタビュー記事を社内でも引用させて貰っています。
組織によって解釈に差はあるかと思いますが、個人的には「技術広報とは、社外のエンジニアに対し、自社のプレゼンスや認知拡大などを目的とし、技術的な情報の社外発信を推進する仕事です。」というのがしっくりきています。社内外で説明するときもよくこの内容を説明しています。
また、afroscriptさんのスライドにある「自社が継続的に技術発信できるようにあれこれする人」というのも自分の感覚やこれまでやってきたことに近い気がします。
技術広報がどういうもので、各社どういう取り組みをしているのかはアドベントカレンダーの記事を全部読めばわかってくるはずです。たぶん。
おさらい : 技術広報のおしごと
前述のとおり「社外のエンジニアに対して自社のプレゼンスを高める」ために「自社が継続的に技術発信できるようにあれこれする」という活動がメインになります。社外のエンジニアに会社を知ってもらうにはどうしたらいいのか、そのためには何をする必要があるのかという話ですね。
会社のプレゼンス・認知拡大について
弊社も良く言われたものですが、会社についての認知度が低いとこのような質問をされることがあります。認知度が低いと感じた順に挙げてみます。あくまで個人の感覚です。
「◯◯(会社名)って何やってる会社ですか?」
「◯◯(会社名)ってエンジニアいるんですか?」
「◯◯(会社名)ってどういう技術組織なんですか?」
簡単に解説していきます。
「◯◯(会社名)って何やってる会社ですか?」については、そもそも会社名を聞いたことがない or 会社名は聞いたことがあるけどどのような事業を展開しているのかわからないという状態です。認知度ゼロに近い状態です。みんな誰しもここからです。
「◯◯(会社名)ってエンジニアいるんですか?」については、会社名や事業内容については聞いたことがあるけど、その事業に対して自分たちでエンジニアリングしている組織なのか外部のパートナーに発注している組織なのかわからないという状況です。知名度があるだけ1に比べて良くなっています。弊社も去年めっちゃ言われましたわガハハ…
「◯◯(会社名)ってどういう技術組織なんですか?」については、会社名や事業内容については聞いたことがあり、なんとなくエンジニアがいるということもわかってきた、しかし社内にどのような部署があってどういうエンジニアがどれくらいの割合で所属しているのかわからない状態です。これまでの経験上、結構ここで苦戦することが多かった印象です。採用サイトを整備したり、会社紹介資料を充実させて発信していくフェーズですね。
ということで、会社のプレゼンスや認知拡大のために頑張っていくわけですが、具体的にどういうことをやるんだっけ?っていうのを整理してみます。
1. アウトプット
技術的な情報や組織的な情報の発信のことを指します。「私達が何者で、どのような事業を行っていて、どういう技術組織で、どのような技術的な取り組みをしているのか」などを社外に向けて発信する活動です。私自身が発信することもありますし、発信したことのない若手に挑戦して貰うこともあります。後者は「自社が継続的に技術発信できるようにあれこれする」というムーブに該当します。最近ではこちらの比率が増えてきてます。
アウトプットをする方法にもいくつか種類があり、なんらかのプラットフォームを利用したアウトプットと、イベントでの登壇によるアウトプットがあります。
前者はブログやYouTubeによる情報発信が該当し、所属する会社がテックブログを運営していてそこで記事を執筆するケースと、ZennやQiitaやはてなブログなどの個人アカウントから発信するケースがあります。テックブログを通じて継続的に情報をアウトプットすることで「そういえばここの会社の人、◯◯の技術について良い記事を書いてたな」とか「この記事めっちゃ役にたったんだけど◯◯(会社名)の人が書いた記事だったんだね」といった具合で認知が少しずつ拡大されていきます。
テックブログで有名なのはクラメソさんのDevelopers.IOでしょうか。界隈では「re:Inventに行かなくてもクラメソのブログ見ればいいしね」と言われるくらいには速報性と情報量がありよく見ています。
メルカリさんはテックブログだけではなくオウンドメディアを運営しており、どういう事業を展開しているのか、どういう人が働いているのかという点での発信力が強いのでよく参考にさせて貰っています。
また、はてなブログでは「企業技術ブログ」というものがあり、はてなブログを利用してテックブログを運営している企業や記事を知ることができます。どういう会社がテックブログを運営してるんだろうと気になる方はまずここを見てみると雰囲気がわかる気がします。
後者は技術勉強会やテックカンファレンスなどのイベントに参加し、登壇という形で情報を発信する活動です。まずはどうしたら登壇できるのか整理してみます。海外のカンファレンスは全くわからないので国内の話ということでお願いします。
技術勉強会
connpassやDoorkeeperといったイベント支援のプラットフォームでイベントに申し込み
登壇枠があったら先着順 or 抽選で登壇可能
技術コミュニティから登壇のお誘いがある場合もある
テックカンファレンス
カンファレンス運営が提示するCall for papers / Call for Proposalに対して「私はこういう内容で登壇します!」というプロポーザルを提出
運営がプロポーザルを確認し採択された人が登壇可能
スポンサー枠として登壇できる場合もある
あくまで個人の感想ですが、ブログに比べると技術勉強会やテックカンファレンスでの登壇の方が反響をいただけるケースが多いように思えます。なので、大規模なテックカンファレンスで登壇することは会社にとって認知拡大という点で大きな貢献になるはずです。ただし、ブログに比べて準備の負担が大きいというのも注意が必要です。
私がよく参加しているAWS関係のコミュニティを例にすると、選択肢は大きくわけて3種類です。比較のやじるしの数は雰囲気です。
イベントの違い
・JAWS-UG : コミュニティイベント。数十人〜数百人規模。イベントページの登壇枠に応募して登壇。
・JAWS DAYS : コミュニティイベント。数百人〜千人規模。プロポーザルを提出して採択されたら登壇。
・AWS Summit Tokyo : 企業カンファレンス。一万人規模。登壇条件は不明。(恐らくAWSからのお声がけにて登壇のはず)
登壇のしやすさ
JAWS-UG >>>> JAWS DAYS >>>>>>>> AWS Summit Tokyo
登壇による知名度の向上
AWS Summit Tokyo >>>>>>>> JAWS DAYS >>>> JAWS-UG
登壇のための負担
AWS Summit Tokyo >>>>>>>>> JAWS DAYS >>> JAWS-UG
2. イベントへの協賛
技術や組織に関する情報発信から認知拡大に繋げることができますが、会社が採用している技術スタックに関連する勉強会やカンファレンスへ協賛することでより多くの人に認知して貰うことができます。特に大規模なカンファレンスになると会期中で述べ数百人〜数千人もの人の目に止まる可能性があり「記事を書いたけどあまり読んでもらえないテックブログ」に比べると認知拡大への効果が高い可能性があります。ただし、カンファレンスへの協賛は相応の費用がかかるため、採用計画との兼ね合いで予算と戦略を考える必要があります。
例えばモバイルアプリを開発するエンジニアへリーチしたければiOSDC, try! Swift, DroidKaigiなどに協賛し、バックエンドを開発するエンジニアへリーチしたければ開発言語に関連するカンファレンス (Go Conference, PHPカンファレンス, RubyKaigiなど) に協賛するというのが考えられます。その中でスポンサーセッション枠を狙ったり、スポンサーブース枠を狙ったりするとさらに効率的です。ただし追加で費用が発生したり、ブースを設営するための金銭的な負担 (ノベルティ発注とか) や人的負担といった点にも考慮する必要があります。
3. イベント開催
コミュニティイベントへの参加ではなく、自社でイベントを開催するという方法があります。
例えばサイバーエージェントさんでは「CA.XX」という名前の勉強会を開催しているのをよく見かけます。CA.swiftやCA.flutterやCA.goなど。オフラインの勉強会の会場を提供できるというのは認知拡大という点で大きなメリットです。一方でFindyさんはオンライン開催を中心に色々な技術テーマで積極的にイベントを開催し、多くの人が参加しているのを見かけました。開催形態は違えど、自社で開催したイベントで集客に成功しているというのは認知拡大に繋がるのではないでしょうか。
ただ、自社でのイベント開催というのはとても負担が大きいです。企画立案、集客、登壇者探し、配信周りの対応、オフライン開催だと入退館の処理、必要に応じて懇親会の手配などがあるため気軽に開催しにくいというのが経験談です。
4. 社内ルールの整備
アウトプットするにしても協賛するにしてもイベントを開催するにしてもルールが必要です。そういったところの整備をするのも技術広報の担当領域という認識です。
ブログでアウトプットする場合、少なくとも下記のような要素を考える必要があります。
発信に利用するためのプラットフォーム (note?Zenn?はてなブログ?)
記事執筆から公開までのフロー (誰がレビューする?同僚?上司?広報チェックは?)
レビュー観点 (そのまま出したらだめな数字ってあるよね?表現とか大丈夫?サービスの表記揺れチェックするよね?)
イベントに協賛する場合はお金が絡んでくるので下記の要素を考える必要があります。
年間予算 (予算はいくらあるの?どの部署が負担するの?)
採用計画の確認 (今このイベントにお金かける理由ある?)
協賛するイベントとプラン (協賛するならダイヤモンドプラン?プラチナプラン?ゴールドプラン?)
稟議 (誰が稟議出すの?稟議の承認フローは?振込のタイミング大丈夫?)
スポンサーセッションやブースの有無 (誰が喋る?誰がブースに立つ?)
労務的な調整 (業務扱いでいいんだっけ?経費精算できるんだっけ?)
こういうルールを決めるのって正直めっちゃめんどいんですけど、最初に社内ルールを整備しないと後で問題になります。例えば「今までは自分と上司だけで決めてたし予算もどこから来たかわからないですガハハ」みたいなやつとか「あの人は業務扱いらしいですけど私もいいんでしたっけ?」みたいなやつとか。関係者が少ないうちはDMとかでよしなに合意が取れることが多いので楽しちゃうんですけど、最初からちゃんとドキュメントという形でルールを残した方が後々楽できます。
技術広報の兼務の難しさ
さて、技術広報の役割と仕事が理解できたところで本題です。
技術広報ですが、私はこれまでエンジニア業務との兼務でしかやったことがありません。いずれも専任が必要ないという判断 (私も会社も) からです。だからこそ次の2つの問題と何度も直面しています。
リソース配分
例えばSREをやりつつ技術広報もやっている場合、明確にどちらの役割にどれだけのリソースを割いていいのか判断できないケースがほとんどでした。偉い人と話しても比率って明確には決められないよねって感じで大体落ち着きます。現職でも明確には比率を決めず「この時期にこのイベントがあるので忙しくなります」とか「このイベントに登壇します資料作ります忙しくなります」みたいな感じで情報共有しています。ちなみに資料を作る時は定時外や土日祝日での作業としています。どうしてもやばいときだけ定時内の時間を使わせて貰ってます。会社的に定時中の資料作成NGというわけではなくて、定時中は普通にやることあるので着手できない → じゃあ定時外でやったほうがやりやすいという流れで落ち着きました。
会社としては資料作成時の休日出勤手当や残業手当を出してくれているのでとても助かっているのですが、これって本当にペイできているんですかね?他の会社で本業と兼務されている方ってどうやってリソース分配してるんですか?技術広報にかける時間や資料作成にかける時間をどうやって捻出して進めてるのか気になります。
ちなみに自分は休日にホテルに籠もって資料を作ることにも慣れました。集中できていい感じです。今はモチベーションにも支えられているので休日に作業してても全く問題ないんですけど、将来的には体力的にもきつくなっていくよねっていう懸念があります。
目標設定と評価
例えば本業がSREの場合は具体的な目標設定があります。プロダクトの信頼性に関わる目標を記入しマネージャー等とすり合わせる事が多いのではないでしょうか。一方で技術広報は目標を設定しにくいと感じています。現職だとKPIがなく、今期中にどれくらい技術ブログを書いてどれくらい登壇するのを頑張りますくらいの握りしかしていません。あまりガチガチにするとお互いきついよねって認識で進めているのですが、技術広報(兼務)における目標設定や成果・評価ってどうあるべきなんでしょうか。これ結構悩んでいます。他社で兼務されている方はどうやって目標設定や評価をやっているんでしょうか。KPIを定めて定量的にやっているのか、ふんわりスタイルなのか。あまりふんわりさせると成果が評価されにくいという感じもあり悩ましいです。
まとめ
技術広報と呼ばれる役割の人たちが何を考えて何をしているのか、兼務マンがどういう悩みを抱えているのかについて書いてみました。会社によって違いがあるのでこれが全てではないということだけご了承下さい。
技術広報はリソースや評価といった点での苦労もありますが、会社の成長や認知拡大に繋げられるという点で個人的にはやりがいを感じています。自分の登壇やイベントへの協賛に対するリアクションがあるとやっぱり嬉しいですし、次回も頑張ろうという気持ちになります。最近は第2の技術広報を育てるべく自分が前に出るというよりは社内の若手をコミュニティに参加させたり登壇させたりしてます。そういう若手が技術発信の楽しさや意義みたいなのを感じてくれたら嬉しいなぁ。
最終的には技術広報の人が活動することで、本人のアウトプットが増えたり、会社や所属しているコミュニティが活性化したり、会社の認知拡大に繋がってくれたらみんなハッピーです。あれ、このフレーズどこかで聞いたな。三方良しでいきましょう。