女子バレーでは、低いところでボールを触って時間を作る
女子は、男子と比べると、瞬発力では敵わない。
足の蹴り出しのスピード、動き出した自分の身体にブレーキをかけたり方向を変えるスピード、腕を振り抜く時のスピード、そういう瞬発力、俊敏性のこと。
まあ時々、男子の動きを上回るような天性の身体能力を持つ女子もいない訳ではないけど、コート内の6人が全て男子を上回るかと言えば、そんなことはない。
女子バレーのスピード感というものは、比較的ゆったりとして見える。
だからこそ、比較的低速での味方へのパスは丁寧に、まごころがこもっているように見えることがある。
これは女子バレーならでは。
アンダーハンドの組み手レシーブなんかは、男子は骨と筋肉と皮でボールと接触しているようなものだが、女子は筋肉が少なくて脂肪が多めになるだろうから、そういう物理的な衝撃の伝わりみたいなものも影響しているのかもしれない。
体重差もあるだろうし。
つまり、何を言いたいかというと、女子バレーの選手は、急激な動き出しや俊敏な動きは不得手なので、特に軟打をレシーブする際には、できるだけ低い位置でボールに触るようにすることによって、次にボールを触るであろう選手のために、時間を作ってほしいのである。
「腰が高い!」と昭和の部活では怒られていただろう。
アンダーハンドの場合、腰が高いということは、ボールを床面よりもだいぶ高い位置でボールを触ることになる。
胸の高さくらいで触るのと、腰を落として膝のすぐ上くらいで触るのとでは、ボールをレシーブするまでの時間が、コンマ何秒か遅くなるということ。
そして、そこからまたボールは弾んで上昇し、例えばセッターの手に渡るまでの時間は、床面に近い場所から上昇するのであれば、その分コンマ何秒か時間が多くかかって上昇することになる。
レシーバーが高い位置でボールを触った時と比べて、低い位置でボールを触った場合の方が、ボールが来てから行くまでの道のりが多くなるわけだ。
胸から膝までの距離が仮に30cmあるとすれば、ボールは胸の高さで弾んで行く時よりも道のりが60cm増えるということ。
1秒に満たない時間だけれど、1人のレシーバーの工夫によって、少しだけ時間を作ることができるのである。
女子は動き出しに時間がかかるから、そのコンマ何秒かボールが遅くなることがありがたいのである。
どこにパスしようとしているか、そのプレーヤーの意図を読む時間が、ほんの一瞬増えるから、助かるのである。
その周りのプレーヤーも、最適な位置に移動する時間ができる。少し余裕をもって動くことができる。
ということで、私はあまり、「腰が高い
」と注意したことはない。
その代わりに、「低い位置でボールを取って、みんなに時間を作ってあげて!」と言っている。
だから、相手のサーブが強いとか、圧倒的に背が高いとか、劣勢の時も、できるだけ、アタックラインの上空に少し高めにレシーブを上げるように言っている。
コートの低空でボールをやり取りするよりも、高めに上げた方が、みんな考える時間が少しだけ長くなるでしょ?
ゆったりと考えながら、丁寧にプレーすることを心がける。
バレーボールは3Dじゃなく、4Dで考える。
縦、横、奥行き、時間の4軸。
次にボールに触る仲間のことを想う。
丁寧な所作で、時間を生み出す。
その自己犠牲とも言える優しさが、バレーボールには何より必要なんだ。