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虫とり(4)

「あのクヌギの木。さっき少しだけてっぺんが見えたところだぜ。間違いない」
 源さんがにたりと笑った。
「ここにはクワガタムシが絶対にウヨウヨいるはずだ」
「だな。ここで捕まえようぜ」
 翔もそう言うと、あたりを散策し始めた。
 私はこの先のあたりを見渡せる場所に早く行って、自分たちがどこまで登ったのかを確認したかったのだが、二人はクワガタムシ探しに一所懸命のようだった。ときおり「ほら、ここにもいた」とか、「やべえ。やっぱり最高の場所じゃねえか」とか言ったりしてクワガタムシを捕まえていた。
 ひとしきりクワガタムシを捕って満足したのか、二人は捕まえた虫の数を言い合っていた。私はなんとなくいけないことをしているような気がしたうえに、野犬のことも気になっていたので、クワガタムシどころではなかった。そのため歩いているときに見つけたコクワガタ1匹だけだった。
「なんだよルキヤ。しょぼいなあ。俺のを見てみろよ」
 源さんが自分の水槽を見せた。ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタなど、ゆううに20匹はいたと思う。翔も10匹ほど捕まえていたので、満足したみたいだった。
「この先の明るいところに行ってみようぜ」
 我々は50メートル先の太陽が差し込む場所を目指して歩き始めた。すぐに目的地には辿り着いた。そこは台地のようになっていて、奥にはなにかの管理事務所のようなものがあった。事務所の周りはフェンスで囲まれていて、さすがの翔もあの中に入ろうぜとは言いださなかった。
 時刻は16時半くらいだろうか。夏になると、19時くらいまでは明るいのだが、18時くらいまでには帰らないと親がうるさい。そろそろ帰ろうぜ、と言おうと思ったときに、源さんが蚊の鳴くような声で言った。
「なんか、腹が痛くなってきた」
 見ると、源さんの顔が真っ青になっている。
 さすがに翔もまずいと思ったのか、「大丈夫か?」と源さんに声をかけた。
「腹を壊したみたいだ」
「家に帰るまでトイレは我慢できるか?」
「わからない。ダメかもしれない」
 と源さんは半泣きで言った。
 翔があたりを見渡しながら言った。
「ほら、あそこの下ったところに草が茂ってる場所があるよな。あそこでやってくれば誰にも見られないよ」
 翔が真面目な顔をして言った。
「俺がクソしてるとき、絶対に来ないでくれよ」
 源さんが懇願するように言った。
「当たり前だ。友達だろ。クソしてるところなんて、見ねえよ」
 翔は心配そうにそう言ったが、笑いを噛み殺したように唇の端が上がっていたのを私は見逃さなかった。

(続く)

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中学受験 将棋 ミステリー 小説 赤星香一郎
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