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8月32日(2)

 朝日があまりに眩しすぎて、僕は目が覚めた。
 しまった! 寝坊した。
 時計を見ると、8:30だ。完全に遅刻じゃないか。
 カレンダーを見ると……。
 あれ? カレンダーがない。どうしたのかな?
 それにいつもは目を三角にして起こしに来るお母さんが、なにも言ってこない。おかしいぞ。
 僕は眠い目をこすりながら、ダイニングに向かった。
「あら、翔太、おはよう」
 全然怒っていない。どうしたんだ?
「ごめん。寝坊して」
 僕が謝ると、お母さんはからからと笑った。
「まあ、休日だからね。仕方がないわよ」
 ん? 休日だって。今日は9月1日じゃないのか。
 僕は恐る恐るお母さんに訊ねてみた。
「き、今日って、休日だったっけ?」
「ええ、そうよ」
 お母さんはこともなげに答えたあと、僕の顔を覗き込んだ。
「どうしたの、翔太。まだ寝ぼけてるの?」
 たしかに寝坊はしたけど、今日が休日だと聞かされ、目はすっかり覚めている。
 いつもはダイニングの壁にかかっているカレンダーもなくなっている。
「ちなみに今日って、何日なの?」
「8月32日よ。決まってるじゃない」
 なんだって? 8月32日だって?
「僕をからかってるの?」
 お母さんは怪訝な表情をした。
「なんであなたをからかわなくちゃいけないのよ」
「8月って31日で終わりだよ。今日は9月じゃないか」
 僕がそう言った瞬間、お母さんは顔をゆがめて心配そうな顔をした。
「どうしたの翔太。本当に変な子。9月なんてあるわけないじゃない。今年は8月32日まであるわよ」
 お母さんはおかしくなっちゃったのかな。そう言えば、お父さんがいない。
「お父さんは?」
「昨日も言ったじゃない。長期出張に出かけたって」
「そんなこと言ってたっけ?」
 お母さんはかぶりを振った。
「今日はあなた本当に変ね。9月とか言ったり、お父さんの出張のことを忘れちゃったり……」
 僕はわけがわからなくなった。

(続く)

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中学受験 将棋 ミステリー 小説 赤星香一郎
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