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虫とり(13)

 張江と別れたあと、私はあることに気づいた。たしか張江は高校時代に「時空のおっさん」の話を聞いたと言っていたが、「時空のおっさん」が初めて掲示板に出たのはたしか2000年以降の話である。それなのに張江は「高校時代」の話として「時空のおっさん」を挙げた。明らかに時代が合っていないのではないか。
 そもそも張江はあのときなにかに気づいていたようだったが、いったいなにに気づいたのだろうか? その後の張江は私がいくら話しかけても、私の姿は目に入っていないようだった。あのとき張江はなにかに気づいたのだ。

 翌朝、私は張江の様子が気になったので、張江の名刺を見て会社に電話した。
「赤星と申しますが、張江さんいらっしゃいますか?」
 しばらくして受付の女性の声が無機的な聞こえた。
「弊社に、張江というものはおりません」
 それからの私は張江の会社に行って、同じ部署の複数の人間に訊ねたが、本当に張江という社員はいないようだった。
 私は大学時代の麻雀仲間で、張江と共通の友人である小鳥遊謙二郎(たかなしけんじろう)に電話をした。私が張江について訊ねたら、小鳥遊の返事は信じられないものだった。
「張江って誰?」
 いくら張江のことを話しても、まったく覚えていないという。
 私は覚えている限り大学時代の友人に連絡をしたが、張江瑠輝也という人物を覚えている人間は一人もいなかった。
 張江瑠輝也という人物は私の妄想だったのだろうか。彼の身になにが起こったのか、いまだにわかっていない。

(了)

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中学受験 将棋 ミステリー 小説 赤星香一郎
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