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【雑記】草枕

最近、ドライブで佐賀に行くことが多い。
国道3号線を通ると車が多いので、熊本港まで行って501号線から北上するようにしている。その経路を通ると、海沿いの道を通るので、左側に海を臨むことができる。お気に入りのコースだ。

その途中に「玉名市天水町」という場所があり、道のすぐ脇に「小天温泉 那古井館」という宿がある。
「小天」は「おあま」と呼ぶ。「てんすい」といい、「おあま」といい、いい地名だなあと思う。

この宿は、かの有名な夏目漱石の「草枕」の舞台となった場所である。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
で有名な「草枕」だ。
小説にも
「今宵の宿は那古井の温泉場だ。」
と書かれている。

作者の漱石先生が熊本大学(第五高等学校)で教鞭をとっていた時に、岳林寺(熊本市島崎)から小水温泉(天水町)まで、山越えをして向かった経験を元にして執筆したのが「草枕」だと言われている。
冒頭部の
「山路を登りながら、こう考えた。」
の山路は「鎌研坂(かまとぎざか)」と言われていて、作者が歩いた道は、現在「草枕ハイキングコース」として整備されているらしい。
全長15.8Kmあるそうなので、岳林寺から草枕の里まで生半可な気持ちでは歩けないが、いつか歩いてみたいとは思っている。

さて、舞台となった「小天温泉 那古井館」だが、道の脇にあるので、いつも気になっている。
近くには「前田家別邸」や「玉名市草枕交流館(漱石・草枕の里)」もあるのに、いつも通過するだけで、なぜか一度も訪れていない。
たぶん近いからいつでも行けるという思いがあるからだろう。

「草枕」と言えば、我が家にあった「日本文学全集」で中学時代読んだ記憶がある。
正直に話すと「あまり(全然)面白くないなあ」と思った。
ただ、一つだけ印象に残っている箇所があった。

主人公が西洋の本を読んでいるところに、那美が部屋に入ってきて、何が書いてあるのか聞く。
主人公はわからないと言う。開いた所をいい加減に読んでる。そしてそれが面白いのだと言う。
那美は、「変わっている」と言い、「はじめから読んじゃ、どうして悪いのか」と聞くが、「はじめから読まなけりゃならないとすると、しまいまで読まなけりゃならない訳になる」と、煙に巻くような返答をする。
那美は「筋を読まなけりゃ何を読むんです。筋のほかに何か読むものがありますか」と、私が聞きたかったことを訊ねる。
主人公が「余は、やはり女だなと思った。多少試験してやる気になる。」と思ったときに、俺はアホなのか、とガックリとなった。

さらに主人公が、
「不人情じゃありません。非人情な惚れ方をするんです。小説も非人情で読むから、筋なんかどうでもいいんです。こうして、御籤を引くように、ぱっと開けて、開いた所を、漫然と読んでるのが面白いんです」
と言った時に、「小説を非人情で読む」とは一体どういうことなのか、さっぱりわからなかった。
そして「普通の小説はみんな探偵が発明したものですよ。非人情なところがないから、ちっとも趣がない」と主人公が言ったときには、こいつ、わけわかんねえな、と失礼だが思ってしまった。
結局、最後まで読んでも、大した展開もなく「何が面白いの?」という思いばかりが残った。
そして、「自分には文学を愛でる才能というものが、根本的に欠落しているかもしれない」と絶望的な気持ちにさせられた。
それが「草枕」の印象だった。

大人になった今、改めて読んだら、少しは印象が変わるかもしれない。
とりあえず、息子氏の定期考査が終わったら、「漱石・草枕の里」でも、訪れることにしよう。






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